50 ブラックウェル家と日本の縁
「波戸場浩人ねえ……」
アランは波戸場浩人の人物調査報告書を読んで呟く。
調査報告書には波戸場浩人が誕生してから今までの記録が全て書かれている。
学歴や家族構成や極道になってからの仕事の内容やその成果などの詳細だ。
ドレイクヴァロの情報網を使えばいくらでも必要な情報は手に入る。
調査報告書を見る限り波戸場浩人が変な人物とは思えない。
むしろドレイクヴァロに欲しいと思わせるほどの素質を持っている。
エドワードからの報告でも波戸場浩人は仁義を通すタイプの極道でドレイクヴァロの幹部になる素質は持っていると報告されている。
もちろん実際にドレイクヴァロの幹部にするにはしばらくは教育が必要だろうが。
アランはオリビアの夫となる人物には将来次期総帥のルーカスを支える立場の人間になってほしいと考えていた。
なので波戸場浩人にはオリビアと結婚したいなら死に物狂いでドレイクヴァロの幹部になる実力を身に着けろと条件を出すつもりだ。
もしそれで音を挙げるような人物だったらオリビアをやる訳にはいかない。
波戸場浩人にそれだけの根性と実力とオリビアへの愛情があるか。
「フフ、期待しているよ。波戸場浩人くん」
アランは波戸場浩人の顔写真を見ながら僅かに笑みを浮かべる。
「それにしてもオリビアも日本で運命の相手を見つけるなんて、やはり血は争えないな」
アランも若い頃日本で妻のひかりに出逢い結婚した。
そしてアランの父親のクラウドもアランの母親と日本で出逢い結婚した。
アランの弟のエドワードも妻は日本人だ。
ブラックウェル家の者にとって日本という国は切っても切れない縁で結ばれている。
オリビアが波戸場浩人を相手に選んだのは必然なのか。
(答えは神のみぞ知るってとこかな。俺もひかりを手に入れた時には自分の「片翼」を手に入れた気分になったしな)
ひかりと日本で出逢い紆余曲折しながらも自分の妻に迎えられたのはアランの人生で最高の喜びだ。
それに今は「双頭の朱雀」として自分の相談役になってくれている十和麗月会の舘と兄弟分になれたこともアランにとっては大きな出来事だった。
(波戸場浩人には兄貴と同じとは言わないがルーカスやマテオと兄弟分ような関係になってもらいたいもんだ)
アランはコーヒーを一口飲んだ。
すると扉がノックされた。
「誰だ?」
「私よ、アラン。ひかりよ」
「入っていいよ」
アランの執務室に入って来たのは妻のひかりだった。
「仕事中だった?」
「いや、今は波戸場浩人の調査報告書を読んでいたところだよ」
「ああ。オリビアの彼氏さんね」
ひかりは執務室のソファに座る。
アランもひかりの横に座った。
「アラン。率直に言うけど波戸場浩人さんはオリビアの相手に不足はない?」
ひかりの目は真剣だ。
どんなにオリビアが波戸場浩人のことが好きでもアランが結婚を許さなかったらオリビアの恋は実らない。
ドレイクヴァロの総帥の言葉は絶対だからだ。
総帥の子供でもそれに逆らうことはできない。
「そうだね。素質はあるってエドから聞いているから後は本人のやる気しだいかなあ」
アランはひかりに笑顔で言う。
「そう。第一関門は通過ってことね」
ひかりはホッとした。
波戸場浩人に問題があったりドレイクヴァロの人間として相応しいと判断されないならアランは迷わず波戸場浩人をこの世から消すだろう。
先ほど調査報告書を読んだとアランは言っていた。
その上で「本人のやる気しだい」という答えなら波戸場浩人をドレイクヴァロの幹部にしてもいいとアランが判断したということだ。
ひかりとしてもオリビアの恋を応援したい。
「ひかりはどう思う?」
今度はアランがひかりに聞いてきた。
「私はオリビアを幸せにしてくれるなら問題はないわ」
「そうだね。波戸場浩人にどれだけオリビアへの愛情があるかはこれから分かることだろうね」
「大丈夫よ。オリビアは人を見る目があるわ。きっと波戸場浩人さんと障害を乗り越えるわ」
「そう願うよ」
アランはひかりを抱き寄せて頬にキスをする。
「俺としても娘の好きな人間を始末するのは気が引ける」
アランは冗談のように話すがひかりは知っている。
アランと言う人物はドレイクヴァロのためならどこまでも冷酷になる人物だということを。
そうでなければドレイクヴァロの総帥は務まらない。
身内だからと甘えなど許されないのがアランたちの生きる世界なのだ。
(オリビア。頑張ってあなたの恋を実らせてね。波戸場浩人くんをあなたが魅了すれば必ずうまくいくわ)
心の中でひかりは娘の初恋が実ることを願った。




