5 浩人の情報
オリビアは浩人の車を見送った後、マンションの中に入る。
「今日はなんて嬉しい日なのかしら。私の理想の人に出逢えるなんて」
部屋に入りソファに置いてあったクッションをオリビアは抱きしめた。
「浩人さん……」
瞳を閉じると浩人の顔が浮かぶ。
「キャー!浩人さん!」
ポスっとクッションを殴る。
浩人のことを考えると思わず身悶えるオリビアだったが段々と頭も冷静になってくる。
まずはこのことを両親に話さないといけないし「波戸場浩人」が何者か調べなくてはいけない。
極道と言ってもピンからキリまでいるし、ドレイクヴァロと敵対組織の人間かもしれない。
しかし浩人が敵対組織の人間でもオリビアは諦めるつもりはない。
オリビアはパソコンを取り出した。
これは両親や兄たちと連絡するための特別仕様のパソコンだ。
特殊な通信方法を使っているため通信内容が他にバレることはない。
オリビアの父のアランはドレイクヴァロの総帥のためアメリカ国内を母と一緒に転々と居場所を変える生活をしている。
一か所に留まっていると敵に襲撃される恐れがあるので頻繁に滞在先を変える両親が今どこにいるかはオリビアも分からない。
両親との会話はほとんどこのパソコンで行う。
オリビアはパソコンで父親に連絡を取った。
やがて画面に黒髪に黒い瞳の父のアランが映し出される。
休息中だったのか父には珍しいラフな服装をしていた。
ドレイクヴァロの組織は世界規模なのでその総帥をしている父は各地域リーダーから総帥が判断すべき案件が昼夜問わず持ち込まれるため時差を考えれば1日24時間以上働いていると言っても過言ではない。
そんな忙しい父の手を煩わせるのは気が引けるがオリビアとしても浩人との恋を諦める訳にはいかない。
(浩人のことはちゃんと報告しないとね)
「オリビアか。どうかしたか?」
「お父様。ご報告があります。私、運命の人に会いました」
「運命の人?」
アランは僅かに目を細めた。
闇社会に君臨するアランを恐れる者は多い。
怒りの視線だけで震え上がる者もいるぐらいだ。
それはオリビアや二人の兄も例外ではなく本気で怒った父親にはオリビアも恐怖を感じることもある。
だがこの時にオリビアに向けられた視線は怒っているようには感じられない。
どちらかというと興味を覚えたという感じだ。
「はい。名前は波戸場浩人。日本で極道をしているそうです」
「なぜそんな奴と知り合いになったのだ?」
オリビアは浩人に出逢った経緯をアランに話した。
「それでその波戸場という男に惚れたというのか?」
「はい。お父様」
画面の向こうでアランが溜息をつく。
「オリビア。お前の相手となる男はいずれドレイクヴァロの幹部として働いてもらわなければならないのは分かるな?」
「はい。分かっています」
ドレイクヴァロの総帥の娘である自分の夫には厳しい条件が与えられるのは当たり前だ。
「お父様。それでも私は浩人を手に入れたいのです。浩人との交際がうまくいったら浩人を説得してドレイクヴァロで働いてもらうようにします。だから浩人との交際を許可してください」
真剣な表情でオリビアは父に自分の気持ちを伝える。
浩人に対する気持ちは遊びなんかではない。
そんなオリビアにアランは淡々と言葉を続ける。
「まずはその波戸場という男がお前の相手に相応しいか、それをお前は見極めなさい」
「はい」
「私はオリビアには人を見る目があると思っている。まずは波戸場という男の素性を調べてお前に情報を渡すからお前はその男が本当に自分に相応しいのかをよく観察するんだ」
「お付き合いをしてもいいですか?」
「それはその男の素性が分かってからだな。ドレイクヴァロとの敵対組織関係者という可能性もあるからな。今日中に波戸場浩人に関する情報を送るから待っていなさい」
「はい。分かりました。お父様」
アランとの通信はそこで切れた。
ドレイクヴァロの情報網で調べれば波戸場浩人の正体を調べるなど簡単だ。
オリビアは父のアランから情報が来る前に浩人に今日のお礼を渡そうと考えて買い物に出かけた。
オリビアが浩人のお礼に選んだのはハンカチだった。
綺麗に包装してもらって浩人に渡そうと準備をした。
すると父親のアランから「波戸場浩人」に関する情報がパソコンで送られてくる。
その情報をコーヒーを飲みながら目を通していく。
「波戸場浩人。29歳。関東最大の極道組織「十和麗月会」の三次団体「白石組」の若頭。白石組は組員20名の小さな組ね」
オリビアはどんどん調査報告書を読んでいった。
そしてふと思い出す。
「十和麗月会って言ったら双頭の朱雀おじ様の組織じゃない。良かった敵対組織じゃなくて」
十和麗月会のナンバー2の現舎弟頭とオリビアの父のアランは個人的に交友関係を持っていてドレイクヴァロは十和麗月会と取引をしている。
そしてその十和麗月会の舎弟頭はアランの相談役としてドレイクヴァロから「双頭の朱雀」の名前を与えられているのだ。
オリビアも何回かその双頭の朱雀には会ったことがあった。
武術で身体を鍛えているせいか年齢の割には若々しい男性だなと思った記憶がある。
(もう少し日本に慣れたら双頭の朱雀おじ様にも会いたいわね。え~と、他には…)
「白石組の組長は十和麗月会の二次団体「九条会」の本部長をしているのね。なるほど」
その他にも浩人が両親を亡くして施設で育ったことなどが書いてあった。
そして最後に父のアランからの伝言が書いてある。
『十和麗月会の団体の一つならそれほど危険はないだろうが波戸場浩人がドレイクヴァロで働く者として相応しいかは自分の目で確かめなさい。そのための交際なら許す』
「やったわ!お父様から交際の許しが出たわ」
オリビアは鼻歌を歌いながら資料をテーブルに置いた。
第一関門の父親から門前払いされなかっただけ上出来だ。
白石組の組事務所の場所は分かったから明日にでも浩人に会いに行こうと決める。
上機嫌でオリビアはシャワールームに向かった。




