45 黒の鷹の正体
「クソ! 失敗か!」
なまはげは車を運転しながら舌打ちをする。
車でオリビアを轢き殺そうとしたが一緒にいた男のせいで失敗した。
なまはげは自分のアジトである廃ビルまで車を走らせると車を降りて廃ビルに入る。
この廃ビルの一室を改装してなまはげはアジトに使っていた。
「次はどうするか……」
あまり時間をかけると今度は自分がドレイクヴァロに狙われてしまう。
なまはげは部屋のソファに座る。
「あの変な条件が無ければもっと楽なのに……」
なまはげの依頼人は標的を始末する時は波戸場浩人という男と一緒の時にと条件を出してきた。
そのために今回車で標的の女だけ轢き殺そうと思ったのにその男が近くにいたために失敗した。
思わずなまはげは溜息を吐く。
「ほお、その条件というのを教えてくれないか」
突然男の声が聞こえてなまはげはとっさに銃を抜いたがその直後ナイフがなまはげの腕に突き刺さりなまはげは銃を手から落とす。
「ぐわ!」
なまはげは苦悶の表情を浮かべる。
男が一人部屋の入り口にいた。
気配はなかった。
なまはげだって商売柄人の気配には敏感だったのにその男の存在に気付けなかった。
「やあ、なまはげ。久しぶりだな」
なまはげは腕に刺さったナイフを抜こうとしたが体が動かないことに気付いた。
声も出ない。
だがなまはげの意識はハッキリしている。
こんな状態になったのは初めてだ。
「私が誰か分からないって顔だな。まあ、私が君に最後に会ったのはもうだいぶ昔だからな」
(誰だ? この男は? それになんで体が動かないんだ?)
なまはげはゆっくりと近づいてくる男に恐怖を感じた。
男が単なる一般人でないことは分かる。
しかも相手は自分のことを知っているようだ。
危機的状況になんとか身体を動かそうとするが力が入らない。
「う…ぁ…」
僅かな呻き声がなまはげの口から漏れる。
「体が動かないだろう。そのナイフには私が昔開発した神経毒が塗ってあったからね」
(神経毒だと!?)
「私はドレイクヴァロの地域リーダーの黒の鷹だ。その前の名前はアビスブレイドだったがね」
(アビスブレイド!? 奴は昔ドレイクヴァロの総帥の命を狙って死んだはず)
なまはげは自分の昔の記憶を思い出す。
確かに目の前にいる男はアビスブレイドだ。
まだ若かった頃に何度かアビスブレイドと会ったことがあったが歳を重ねてもこの黒の鷹という人物の顔にはそのアビスブレイドの面影が残っていた。
だがアビスブレイドはだいぶ前にドレイクヴァロの総帥の命を狙ってアメリカで死んだと裏社会では情報が流れたはずだ。
なぜアビスブレイドがドレイクヴァロの幹部になっているのか分からない。
「フフ、私も昔いろいろあってね。でも私の昔話は別に今回は関係ないね。なまはげ、君には今回の雇い主の情報を話してもらうよ」
黒の鷹は僅かに口元に笑みを浮かべる。
アビスブレイドという殺し屋は拷問の仕方が巧みでアビスブレイドの拷問で情報を吐かない人間はいないと噂されていたことをなまはげは思い出した。
なまはげは絶望的な思いで黒の鷹を見つめた。
今日は大学は休み。
オリビアは午前中からスーパーに買い物に行って食材を買ってきた。
今夜はオリビアのマンションで浩人にオリビアの手料理を食べてもらうのだ。
数日前に浩人とのデート中にオリビアが自炊していることを知った浩人が「何か日本食は作れるのか?」と質問してきた。
オリビアは母が日本人だったこともあり日本食を作ることができるので「できるわよ」と答えたら「オリビアの手料理を食べてみたい」と言われたのだ。
そして大学が休みの週末を使ってオリビアが料理を作ることになった。
だがオリビアは内心焦っていた。
日本食を作ることはできるが今までは母と一緒に作ったことしかなかったのだ。
「大丈夫……焦らないでやればできるはずよ」
オリビアは自分自身に言い聞かせる。
今日の料理は「肉じゃが」と「魚の塩焼き」と「和風サラダ」だ。
特に「肉じゃが」は母と何度も作ったので自信はある。
「ヒロに絶対美味しいって言ってもらわなきゃ」
オリビアは下ごしらえに入った。
(それに今日はヒロが泊まって行ってくれるらしいし)
オリビアは少し緊張していた。
以前、お酒に酔って浩人がオリビアのマンションに泊って行った時とは違う。
今回はオリビアの意思で浩人にマンションに泊ってほしいとお願いした。
オリビアには男性経験はない。
今まで付き合った男性はいないし気軽に遊びで身体を許せるような立場でもなかったしオリビアに近付いて既成事実を作ってオリビアと結婚しようなんて考えるような輩は兄たちが排除したからだ。
(でも今夜はヒロと結ばれるのよ。私の運命の相手だもの。身体の関係を持っても許されるわ)
オリビアは料理をしながら頭の中では浩人との熱い夜を考えて顔が赤くなる。
(ダメダメ。今は料理に集中よ!)
オリビアは自分の頭の中から淫らな想像を消し去る。
するとインターホンが鳴った。
「はい」
「俺だ。浩人だ」
「いらっしゃい。今、入り口を開けるわ」
オリビアはオートロックを解除して部屋の鍵も開ける。
浩人が部屋に入ってきた。
「オリビア。飲み物とつまみを買ってきた」
「ありがとう。ヒロ」
浩人は買い物袋からビールを取り出して冷蔵庫に入れる。
「リビングでテレビでも見てて。今、料理しているところだから」
「分かった。それじゃあ、ゆっくりさせてもらう」
浩人はキッチンからリビングに移動する。
オリビアは料理に集中した。




