43 新しい殺し屋の情報
「奴ら、何やってるんだ?」
白石組の組事務所の前を注意深く歩きながら津田はそう思った。
白石組は今日は朝からカーテンを閉めて何やら組員総出で何かをやっているらしいのだが何をしているのかは分からない。
あまり組事務所に近付き過ぎると自分のことがバレる可能性がある。
一度太田組に戻ろうと津田は歩き始めた。
そこへ一台の黒塗りの車が津田に横付けされる。
窓が開き声が聞こえた。
「おい! 津田。乗れ」
車に乗っていたのは九条会若頭の松林だ。
「松林さん。どうしてここに?」
「いいから乗れ!」
「は、はい」
津田は車の後部座席に乗り込む。
車はゆっくりと走り出した。
「津田。お前に忠告しておくことがある」
「何でしょうか? 松林さん」
「おめえ、白石組のことを何かと探っているな?」
「それは……」
松林は津田を睨む。
「いいか。津田。白石組が気に入らねえお前たちの気持ちはわからないでもねえ。だが白石組と揉め事は起こすんじゃねえ」
「分かってます。九条会にご迷惑をかけるようなことはしません」
「そうか。それならいい。お前の事務所まで送ってやる」
津田は松林の車で太田組の組事務所に戻って来た。
松林の車がいなくなった後に津田は舌打ちをする。
まさか自分の行動が九条会に知られていたとは。もっと用心しなくてはならない。
だがこれまでの白石組への調査で分かったことはある。
白石組の若頭の波戸場には女ができたらしい。
「あの女をうまく使えば白石組を潰せるかもしれないなあ」
津田はタバコに火を点けた。
「エドワード様。黒の鷹様がいらっしゃってます」
「通せ」
エドワードはドレイクヴァロのビルで仕事をしていた。
こないだオリビアの命を狙った踊り子という殺し屋が誰に雇われたのか黒の鷹に調べてもらっていたのだ。
「双頭の山猫様。新しい情報を持って参りました」
黒の鷹は部屋に入りエドワードに報告する。
「新しい情報? まあ、座れ、クロ」
「はい。ありがとうございます」
エドワードと黒の鷹はソファに座った。
「こないだの踊り子という人物が誰に雇われたかはまだ調査中なのですがもう一人別の殺し屋がオリビア様の情報を集めているという情報を手に入れました」
「新しい殺し屋か?」
「はい。名前は『なまはげ』というアジアを中心に活動している殺し屋です」
エドワードは溜息をついた。
見せしめのつもりで派手に踊り子を始末させたというのにまた新しい殺し屋がオリビアを狙ってるとは。
どうやら敵はそう簡単に諦めるつもりはないらしい。
「このなまはげとは私は昔の顔見知りです。私に始末を任せていただけませんか?」
黒の鷹がエドワードに許可を求める。
「なまはげを知っているのか?」
「私がまだ現役の殺し屋のアビスブレイドの時に何度か顔を合わせたことがあります」
今は地域リーダーとしてドレイクヴァロで働いている黒の鷹が昔殺し屋だったことはエドワードも聞いていた。
しかもそれなりの腕前だったことは未だに裏社会で「アビスブレイド」という名前が知られていることでも分かるというものだ。
「そうか。ならクロに始末を任せるがなまはげと踊り子を雇った人物は同じだろう。それが何者か必ずなまはげから聞き出せ。手段は選ばない」
「承知しました。必ず黒幕を炙り出します」
「頼む」
エドワードは笑みを浮かべる。
ドレイクヴァロの総帥の一族に手を出すことがどういうことか裏社会の連中に知らしめなければならない。
二度と一族の者に手を出す輩が現れないように。
オリビアが命を狙われたことは総帥のアランには報告済みだ。
アランの答えはシンプルだった。一言「消せ」とだけ言った。
総帥の言葉は絶対だ。
エドワードのいや、双頭の山猫の名にかけてオリビアを狙った者を消さなければならない。
踊り子を殺した時にはオリビアに「エドワード叔父様。殺し方が派手過ぎよ」と怒られたことを思い出す。
その時は思わず苦笑したエドワードだったが裏社会の者への警告は派手な方が情報も回りやすい。
踊り子殺害の情報を流しても懲りずに新しい殺し屋を送り込んで来るとは。
ドレイクヴァロも甘く見られたものだ。
どこのどいつか知らないが組織ごと殲滅してやろう。
エドワードはアランと同様に裏社会で「魔王」と恐れられた先代ドレイクヴァロ総帥の息子だ。
その血は確実に受け継がれている。
自分に歯向かう者にはどこまでも冷酷になれた「魔王」の血がエドワードの中で騒いだ。




