42 ハロウィンパーティー
「ちっ、失敗したか」
殺し屋踊り子の死はサイラスの耳にも入った。
踊り子を殺したのはおそらくドレイクヴァロの連中だろう。
「もう少しレベルの上の殺し屋を雇うか」
サイラスは殺し屋の名前が書いてあるリストを見る。
リストには主にアジア地域で活躍する殺し屋の名前が載っていた。
ドレイクヴァロの総帥の一族を標的にする場合は人材探しにも苦慮する。
基本的に裏社会ではドレイクヴァロの敵に回ることを嫌う人間が多い。
皆、ドレイクヴァロの報復に怯えているのだ。
それほど裏社会でのドレイクヴァロの存在は大きい。
「こいつにするか……」
サイラスは一人の殺し屋の名前に目を止めた。
なまはげは悩んでいた。
今回の依頼主は香港マフィア。
それはいいのだが標的はドレイクヴァロの総帥の娘。
普通であれば断る案件だ。
しかしなまはげはもうすぐ50歳になる年齢である。
殺し屋としての経験は豊富で実績もあるが年齢を重ねた彼はそろそろ引退を考えていたのだ。
(最後に大きな仕事を取って退職金にするか……)
香港マフィアからの報酬は50億円。破格の値段だ。
もしこれがドレイクヴァロの総帥の命を狙った依頼だったらなまはげは断っていただろう。
そんな勝算のない勝負に挑む気はない。
だが標的は総帥の娘。しかも今は日本にいて大学に通っているらしい。
それならなまはげにもチャンスはある。
50億円あれば逃走資金としても十分だ。
なまはげは腹を括った。
「分かった。この仕事を受けよう」
なまはげは香港マフィアの男に告げる。
「ありがとう、なまはげ。君ならこの大仕事をやってくれると思ったよ」
その男は満足気に頷いた。
浩人たちはハロウィンパーティーの買い出しをして部屋を飾り付けていた。
もちろん部屋の内部だけだ。
間違っても他の組の者にハロウィンパーティーをしていると気付かれるわけにはいかない。
「よし。飾り付けは終わった」
「じゃあ、皆、仮装しましょ?」
オリビアの一言で組員は皆着替え始める。
オリビアはアイドルナ〇トに出てくる女子高生アイドルのハロウィンバージョンに着替える。
「うわ! 可愛いですね。オリビアさん」
京介がオリビアを見て声を上げる。
京介は狼男の仮装だ。
「ありがとう、京介さん。ヒロ、ヒロはどう思う?」
オリビアは浩人の前でくるりと一回転して見せた。
「あ、ああ。可愛いな」
その可憐さに浩人は思わずオリビアを抱きしめたくなったがグッと我慢する。
あまりイチャイチャすると組員への面子というものがあるからだ。
だが仮装している組員たちを見るともはや面子も何もない気がしないでもないが。
「フフ、ヒロも似合っているわよ」
浩人は吸血鬼の恰好だ。
オリビアが選んだ格好をしているだけでがオリビアが喜んでくれるならそれで自分はかまわない。
「そうか?」
「ええ」
「オリビア。私はどうだ?」
そこへ白石が登場する。
白石はアイドルナ〇トに出てくる騎士の恰好だ。
いつもの組長としての姿を見ている浩人は思わず絶句した。
「わあ! 白石組長さん、カッコいいわあ!」
オリビアが黄色い悲鳴を上げる。
「そうだろう。私もまだ捨てたもんじゃないだろう」
白石は上機嫌だ。
(絶対他の組の者には見せられねえな)
騎士の姿をしている白石を見て浩人はそう思う。
こんな姿をしている白石を見られたらとんでもないことになりそうだ。
「じゃあ、乾杯といこう」
音楽をかけて組員たちはグラスを持つ。
「それではこれからハロウィンパーティーを行う。乾杯!」
白石の掛け声に皆はグラスを持ち上げる。
『乾杯!』
組員たちは料理を摘まみながら酒を飲みだした。
皆、今だけは自分が極道ってことを忘れたみたいにはしゃいでいる。
(オリビアが来て組員たちも変わったな)
浩人は酒を飲みながら皆の様子を観察していた。
元々白石組は小さな組なので組員たちの距離感は近い。
だがオリビアが来て組員たちの団結力は一層強まった気がする。
オリビアは白石とアイドルナ〇トの話で盛り上がっていた。
(もしオリビアが俺の嫁になったらこんな日々が続くんだろうか)
そう考えた浩人だったが以前にオリビアに言われたことを思い出す。
『私の結婚相手はお父様の会社で働かないとなの』。
浩人は中学卒業後極道の道に入ったから世間一般の会社員の仕事をしたことがない。
(俺が堅気になるなんざ。ガラでもねえな。それに親父には恩があるし……)
だがもしオリビアを手に入れるのにどうしても白石組を抜けなければならないんだったら浩人にも覚悟が生まれていた。
(その時は……)
「ヒロ! 楽しんでる?」
オリビアが浩人の隣にやってくる。
「オリビア。あんまり酒飲み過ぎるなよ」
「分かってるわよ」
オリビアは緑の瞳をキラキラさせて浩人を見つめて返事する。
(ああ。この瞳はまるで魔性の瞳だ)
一度囚われたらどこまでもオリビアに堕ちていきそうで浩人は思わず頭を振ってその想いを押さえ込むように酒を飲んだ。




