38 オリビアのもう一つの顔
浩人とオリビアは街にショッピングに出かけた。
オリビアが「洋服を買いたい」と言ったら浩人が「服くらいプレゼントしてやる」と二人で街に出て来たのだ。
服を買ってもらえることはとても嬉しいがオリビアはただ街を浩人と歩くだけでも嬉しい。
やがてお目当ての洋服屋に着いた。
ちなみにこの店はブランド店ではあるが庶民的な値段のお店だ。
オリビアが普段服を購入する店は高級ブランド店であるため浩人の懐事情を考えてネットで予め調べてここならいいだろうってお店を探して置いたのだ。
「いらっしゃいませ」
店員が頭を下げて迎えてくれる。
「ワンピースが欲しいんだけどあるかしら?」
「はい。こちらにございます」
店員が案内していろんなワンピースを見せてくれる。
「どれも可愛いわね。迷っちゃうわ」
オリビアは若草色やレモン色それに花柄などかなり迷っているようだ。
(そういえば女の買い物は長いんだったな)
浩人はあれこれ試着を繰り返すオリビアを見て昔自分の女のショッピングに付き合った時のことを思い出した。
しばらく自分には女がいなかったから女と買い物に出かけるのは久しぶりだったのでそのことを忘れていたのだ。
だが別にそのことで浩人はイラつくような男ではない。
むしろ女というのは服一つを選ぶのにも何時間もかけられる不思議な生き物だと思う気持ちが強い。
「ヒロ。ヒロはどれがいいと思う?」
オリビアの問いかけに浩人はオリビアと店員が持っているワンピースを見る。
アメリカ人の血が入ってるせいかオリビアは身長が普通の日本人女性より高い。
浩人よりは低いがスラリとした印象を与える。
しかし何よりも魅力的なのはその緑の瞳だ。
「そうだな。その若草色の奴なんていいんじゃないか?」
オリビアの瞳の色に合わせて浩人が答えた。
「そう。ならこれにするわ」
「ありがとうございます」
会計は浩人がして荷物も浩人が持ってくれる。
オリビアは上機嫌だった。
(今度のデートはこのワンピースを着ようかな)
自分の恋人が選んでくれた服を着ることは女としても嬉しいことだ。
思ったよりショッピングが早く終わったのでオリビアは浩人をお茶に誘う。
「ヒロ。せっかくだからカフェでお茶しない?」
「ああ。そうだな」
そう言って歩道を二人で歩き出した時だった。
浩人の少し前をオリビアが歩いていた。
すると大きな影のようなモノが上空を横切ったのを浩人は感じた。
とっさにオリビアを抱いて浩人は横に跳ぶ。
ガシャーン!! ガシャガシャ!!
その瞬間物凄い音が辺りに響き渡った。
ちょっと前までオリビアの歩いていたところに上空から鉄パイプが数本落ちて来たのだ。
「大丈夫か!? オリビア!」
浩人は自分の腕の中にいるオリビアの無事を確認する。
「大丈夫よ。膝を擦りむいただけ」
オリビアはそう答えた。
浩人はホッとしながら鉄パイプが落ちて来たビルの屋上を見上げる。
そこには一瞬だが人影が見えた。
(人影? 誰かが故意にやったのか!?)
浩人は命を狙われる仕事をしているからこの鉄パイプはもしかしたら自分を狙った可能性があると判断した。
睨むようにビルの屋上を見ていた浩人にオリビアの声が聞こえる。
「ヒロ。ヒロは大丈夫?」
オリビアの声でハッと浩人は辺りを見た。
突然の出来事に通行人たちが騒ぎ始めていた。
(サツが来ると面倒だ)
「オリビア。たいした怪我じゃないなら警察が来る前に行くぞ」
「分かったわ」
オリビアも自分の足でしっかり立ち浩人と現場を離れる。
(いったいどこのもんが俺を狙ったんだ)
浩人は急いで組事務所に戻った。
「兄貴。お帰りなさい」
「オリビアがケガをした。救急箱持って来い!」
「は、はい!」
京介は慌てて救急箱を持って来る。
そしてオリビアの擦りむいた膝の手当てをしてやった。
「ありがとう。ヒロ」
「このぐらいのケガで良かった」
浩人はようやくホッと息をつく。
あの鉄パイプの直撃を受けていたらオリビアの命はなかったかもしれない。
そう考えると浩人の心は穏やかではいられなかった。
「何があったんですか? 兄貴」
「二人で歩いてたらビルの屋上から鉄パイプが落ちてきたんだ」
「鉄パイプが!?」
「ああ。俺の命を狙った奴らの仕業かもしれねえ」
「そいつは許せませんね」
京介は怒りを見せる。
(とりあえずオリビアが無事で良かった)
浩人は救急箱を片付けた。
そして真剣な表情でオリビアに話しかける。
「オリビア。すまねえ。だけどこれで分かっただろ?俺の側にいると危険なことが」
「あら、このくらいたいしたこと無いわ。ヒロも私も無事だったんだからいいじゃない」
「良くはねえ。また危険な目に合うかもしれねえんだぞ」
「それぐらいの覚悟なくてヒロは私が極道と付き合うと思ってたの?」
「お前……」
「ヒロが無事で良かったわ」
殺されかけたというのにオリビアに怯えた様子はない。
オリビアにしてみれば幼い頃に敵組織に襲撃されて銃撃戦になった時のことを思えば今回のことは何でもない。
それに今回は浩人の命を狙ったと浩人は言っているがオリビアには分かっていた。
あのタイミングはオリビアを狙ったものだ。
経験上オリビアには分かる。
(ヒロには言えないけどあれは私を狙ったものね。でも私はともかくヒロまで危険に合わせるなんて許せないわ)
自分がドレイクヴァロの総帥の娘である以上、いつ命を狙われても仕方ないがそのことに愛する浩人を巻き込むことはオリビアも許せることではない。
「とにかく今日はマンションに送って行く。状況が分かるまで組事務所には来るな」
「嫌よ。私は今までの生活を変える気はないわ」
「死にてえのか! オリビア!」
「大丈夫よ。私は『死なない』わ」
オリビアはニコリと笑みを浮かべる。
魅惑的とも言えるその笑みに浩人は背筋がゾクリとした。
(なんだ? この感覚は? 笑っているのになぜか妙な圧力を感じる)
それはオリビアが一瞬見せたドレイクヴァロの総帥の娘の顔だった。
敵は完膚なきまでに排除せよと叩き込まれたオリビアのもう一つの顔。
だがそれは一瞬の出来事でオリビアの気配はいつもと同じになる。
「とりあえず今日は帰るけど、組事務所に来るのは止めないから」
「あ、ああ」
浩人はオリビアに気圧されたように頷くしかなかった。




