35 存在しないゲーム会社の社長
エドワードはドレイクヴァロのビルで仕事をしていた。
そこへ側近のキールが部屋に入って来る。
「エドワード様。ご報告したい件がありまして」
「何だ?」
「はい。実はエドワード様のことを嗅ぎまわっている探偵がいるらしくて」
「俺のことを?」
「はい。接触した者の話ではゲーム会社の社長や取締役にエドワードという人物がいないか探してるようだったとの報告です」
「ゲーム会社の社長……なるほど、波戸場浩人の手の者か」
エドワードはこないだ秋葉原で浩人と会った時の会話を思い出す。
確かに自分はゲーム会社を経営していると話した。
おそらくそれを手がかりにエドワードの正体を掴もうとしているのだろう。
だがエドワードが経営するゲーム会社は信頼のおける日本人の部下に社長を任せているし、エドワードは取締役にもなっていない。
まあ、そのゲーム会社が所属するBWグループの会長としてエドワードは存在するがBWグループの会長の名前は妻の花音になっている。
実質的にはエドワードが会社運営はしているのだが用心のためエドワードの名前は表に出していない。
探偵が調査したところでエドワードに辿り着くのは困難だろう。
「排除しますか?」
キールの言葉にエドワードは笑みを浮かべて首を振る。
「放って置け。どうせ俺には辿り着かない」
「分かりました」
エドワードは浩人が以前オリビアの身元を探っていたことも知っている。
オリビアが偽名を浩人に名乗ったことによって浩人からは不審がられているのだろう。
だがエドワードはオリビアを責める気にはならない。
ブラックウェルの名前は世界でも有名過ぎてそれ故の苦労をオリビアはしてきた。
エドワードもブラックウェル本家に生まれたからその気持ちは分かる。
後は浩人がオリビアの正体を知ってもオリビアと一緒になる覚悟ができるかだ。
ハッキリ言って白石組の若頭とドレイクヴァロの幹部では天と地の差がある。
「波戸場浩人の心をどれだけ虜にできるかが問題だな」
エドワードはオリビアの顔を思い浮かべながら呟いた。
本気で浩人がオリビアのことを好きになってしまえばオリビアの正体などたいした障害にはならない。
それだけ「恋」というものが人を変える「魔物」であることをエドワードは知っているのだ。
自分たちブラックウェル家の者は執着愛を持つ者が多い。
運命の相手に会えたらそれを手に入れる為に自分も兄のアランもどんな手段も使った。
今になればそれもいい想い出の一つだ。
そしてオリビアもその血を受け継いでいる。
(さて、波戸場浩人はオリビアから逃げられるかな)
僅かにエドワードは笑みを湛え仕事の続きを始めた。
浩人と京介はシマの見回りをしていた。
今日も運転するのは京介だ。
「兄貴。報告したいことがあるんですが」
「何だ?」
「前に兄貴に頼まれたゲーム会社の社長でエドワードって人物がいないかって話です」
「見つかったのか?」
「いえ。それが日本に登録があるゲーム会社の社長や取締役にはエドワードって人物はいないってことでした」
「いない?」
「はい。そうです」
浩人はエドワードと名乗った男の顔を思い出す。
あの時確かにエドワードは「ゲーム会社の経営をしている」と言っていた。
(嘘をついたのか?)
その可能性は高いがなぜ嘘をつく必要があるのか。
エドワードの身なりの良さからオリビア同様に金持ちなのは一目瞭然だ。
エドワードが何者か分からなければ当然オリビアの正体も分からない。
(クソ、何がどうなってるんだ)
オリビアに直接聞く方法もあるがオリビアは頑固なところがあり自分から話す気にならなければ話さないだろうことは容易に想像できる。
「京介。手間をかけたな」
「いえ。お役に立てなくてすみません。ただ……」
「何だ? 何かあるのか?」
「いや、その知り合いの探偵が言ってたんですけど、そいつ表向きにちゃんと探偵業もやってるんですが裏の情報屋とも繋がりがある奴でして」
「それがどうかしたのか?」
「最近情報屋の間で情報屋が殺害されているという噂が流れているらしくて」
「情報屋が消されているのか?」
「はい。その消された情報屋が何を探っていたかはハッキリしないんですが噂ではN女子大のことを調べていたらしいという話でして」
「N女子大……」
N女子大はオリビアの通っている大学だ。
(偶然か?それとも何かオリビアが関係してるのか?)
浩人はオリビアの笑顔を思い出す。
その無邪気な笑顔を見るとオリビアが裏社会と繋がっているとは想像できない。
(オリビア。お前の秘密は何なんだ?)
浩人は溜息をついた。




