33 過保護な兄
ルーカスはシカゴの本宅でドレイクヴァロの仕事を片付けていた。
今日の分の仕事は終わりコーヒーを飲む。
そこに双子の弟のマテオが現れた。
「ルーカス、まだ仕事してたのか?」
「ああ。ちょっと今日中に指示を出す仕事があってな。でも今少し休憩しようとしてたところだ」
「そう。じゃあ、俺も遠慮なくコーヒーをいただくよ」
マテオはルーカスの部屋に入り自分でコーヒーを淹れる。
「ところでこの間の件は片付いたのか? マテオ」
「この間の件って自動車メーカーの買収の件?」
「そう。その件だよ」
「それなら買収額は最大限値切らせてもらったよ。でもこれで世界シェアの6割をブラックウェル貿易会社が手に入れることになるね」
ルーカスとマテオはドレイクヴァロの仕事をしているが経験を積むためにブラックウェル貿易会社の取締役の仕事もしている。
ルーカスたちの父のアランもドレイクヴァロの総帥になるまではブラックウェル貿易会社の副社長をやっていた。
ブラックウェル貿易会社の仕事はドレイクヴァロの仕事と密接な関係があるのでその仕事を覚えることはドレイクヴァロで働く以上必要不可欠な知識だった。
「そうか。やっぱりマテオに任せて正解だったな」
ルーカスは笑みを浮かべる。
ルーカスとマテオは双子だがドレイクヴァロの次期総帥に指名されているのは兄のルーカスの方だ。
総帥になるための教育は二人とも幼い頃から受けていたが父のアランが自分の後継者として選んだのはルーカスだった。
しかしマテオは次期総帥に選ばれなくても気にしてない。
性格的にルーカスの方が人を従わせるカリスマ性を持っている。
それはドレイクヴァロの総帥としてはなくてはならない力であり、マテオは自分はリーダーになるよりも人の補佐をする方が得意だという自覚があったからだ。
それにルーカスは妹のオリビアには甘い兄だが仕事はシビアだ。
父の性格を受け継いだのか仕事に関しては厳しい顔を持つがそんなルーカスもマテオやオリビアにとっては大切な家族だ。
家族同士助け合うのは当たり前のこと。
もっとも父親からは家族だからと甘えるなとも教わっているが。
ルーカスが将来総帥になったらおそらくマテオはドレイクヴァロのナンバー2の立場になる可能性が高い。
だから今からルーカスとマテオは二人で何でも協力するように仕事をしている。
「ところでオリビアが極道と付き合ってるらしいんだけどさ」
ルーカスが話を変えた。
「ああ。波戸場浩人っていう極道だろ?」
「俺、仕事が落ち着いたら日本に行って直接そいつの顔を見てやろうと思ってるんだ」
マテオは驚いた。
次期総帥の指名を受けているルーカスが仕事以外で外国に行くことは珍しいからだ。
「でも波戸場浩人の情報は手に入るだろ? ルーカス」
「うん。でも大事な妹を託す相手に相応しいかは直に会ってみないと分からないじゃないか」
「確かにそうだけど……」
「それにオリビアと結婚するならドレイクヴァロの幹部として働いてもらう都合があるしさ。直接会うのがいいかなと思って」
「気持ちは分かるけど。オリビアの恋は本人に任せた方が良くないか?」
「何かあってからじゃ遅いし。マテオはオリビアのことが心配じゃないのか?」
「そんなことはないけど……でも行くなら父さんの許可をもらって行ってね。後でバレて父さんに一緒に怒られるのは俺はヤダよ」
幼い頃からルーカスの言いだしたことに巻き込まれて一緒に父親から怒られて「お仕置き」されたことは一度や二度ではないマテオはハッキリとルーカスに自分の気持ちを伝える。
「分かってるって。父さんにはこれから通信して許可をもらう」
ルーカスはドレイクヴァロ幹部専用のパソコンを開いた。
そしてアランへの通信を繋げる。
しばらくしてアランの顔がパソコンに映し出された。
「父さん。忙しいところすみません」
「ルーカスか。どうかしたか?」
「はい。こないだ父さんから聞いたオリビアの彼氏のことなんだけど」
「波戸場浩人がどうかしたか?」
「俺は一度日本に行って波戸場浩人に会って来たいと思います」
「ほお」
アランは瞳を細めた。
ルーカスたちは慣れているがアランの視線は特殊部隊出身者さえ震え上がると言われるぐらい迫力がある。
「理由は?」
「オリビアの相手はドレイクヴァロにとっても重要人物になるからです。次期総帥の双頭の隼として波戸場浩人という人間を見て来たいんです。日本行きの許可をください。双頭の鷲様」
ルーカスの顔はオリビアの兄の顔ではなくドレイクヴァロの双頭の隼の顔になっていた。
「そうか。分かった。許可は出すが今抱えてる仕事を片付けてからにしろよ」
「ありがとうございます。双頭の鷲様」
ルーカスはアランに頭を下げる。
例え親子でもドレイクヴァロの中では父のアランは総帥だ。
ルーカスと言えども逆らうことはできない。
「それと双頭の梟に仕事を押し付けるなよ」
アランはルーカスに釘を刺す。
双頭の梟とはマテオのことだ。
時々面倒な仕事をマテオに押し付けるクセがあるルーカスの性格をアランは見抜いていた。
「分かりました。ちゃんと自分で仕事を片付けます」
「それならかまわない」
そこでアランとの通信は切れる。
「マテオ。ちゃんと父さんの許可は取ったぞ」
「それは聞いてたから分かるけど、まずは父さんの言う通り仕事を片付けないとね」
マテオの言葉にルーカスはコーヒーを飲みながら残りの仕事に取り掛かった。




