32 極道の面子
大学終了後、オリビアは白石組の組事務所にやって来た。
「こんにちは。白石組長さん、いらっしゃいますか?」
すると組事務所には京介がいた。
「あ、オリビアさん。兄貴は今ちょっと外出してますけど今日は親父に用事っすか?」
「そうなの。組長さんいる?」
「はい。組長室にいらっしゃいます」
「ちょっとお邪魔するわ」
オリビアは勝手知ったる自分の家のように事務所に入り組長室の扉を叩く。
「白石組長さん。オリビアです。入ってもいいですか?」
すると中から返事が聞こえる。
「おお、オリビアか。入っていいぞ」
「失礼します」
オリビアは組長室に入った。
白石組長はソファに座っている。
「オリビアも座るといい」
白石組長の前のソファにオリビアも座った。
「もう大学は終わったのか?」
「はい。今日は授業数が少なかったので」
「そうか。勉強頑張ってるんだな」
「はい。勉強するために留学したのに怠けていたら両親に怒られてしまいます」
「うむ。確かにそうだな」
白石は頷く。
浩人との恋に夢中なオリビアもやるべきことをやらないと自分の両親が怒って留学を取り消すとか言い出すかもしれないので勉学も頑張っている。
留学中は自由にしていいと言われていても何もしないでいいとは言われてないのだ。
(留学を取り消しされて帰国しろなんてお父様に言われたらヒロと離れ離れになってしまうもの。気を付けないと)
「昨日、ヒロとアキバに行ったんです。白石組長さんにお土産を買って来ました」
「私にお土産か。いったい何だ?」
「これです」
オリビアはカバンからアイドルナ〇トチョコのレアカードを取り出す。
「こ、これは!!」
白石が大声を上げた。
「アイドルナ〇トチョコのおまけに付いているカードのレアカードです」
「本当にもらっていいのかね!?」
「はい。白石組長さんはヒロの命の恩人ですもの。お礼がしたくて」
「命の恩人?」
「ヒロが昔、喧嘩をして殺されそうになったのを助けられたって」
「ああ。そのことか」
白石は思い出したように答える。
「あれは単なる偶然だ。浩人と喧嘩していたのは当時私の敵対組織でな。見過ごすことができなかったんだ」
「でもそのおかげでヒロの命は助かって私はヒロと出会えました。だから白石組長さんには感謝してるんです」
「なるほど。そういうことか」
浩人がその時に殺されていたらと思うとオリビアは怖くなる。
命の危険と隣り合わせに生きてきたオリビアだからこそ人の命の重みを感じるのだ。
オリビアはレアカードを白石に渡す。
白石は感動のあまり手が震えていた。
「私はこのカードを手に入れるために今までどれだけアイドルナ〇トチョコを買ったことか。だが出るのは普通のカードばかりで」
「カードを売ってるお店に行かなかったんですか?」
「さすがにそういう店には組員の手前、出入りができなくてな。組員を代わりに行かせようとも思ったのだが組員にはどれがレアカードか分からぬ使えない者ばかりでな」
白石は今までの苦労を振り返り表情を歪める。
(極道って大変なのね。好きな物を買いにもいけないなんて。まあ、ドレイクヴァロと同じで敵に舐められたら極道もやっていけないってことだろうけど)
ドレイクヴァロの総帥の娘に生まれたのでオリビアにも組織の「面子」というものがあるのは分かっていた。
敵に舐められたらマフィア組織は終わりだと教育を受けたが自分のアニメの趣味について両親に怒られたことはない。
それはドレイクヴァロのナンバー2のエドワードがアニメオタクだったからかもしれないが。
「大丈夫ですわ。これからは私が白石組長のためにレアグッズを手に入れますから」
「ありがとう、オリビア。オリビアは何て優しい娘なのか」
「大袈裟ですわ。白石組長さんと私は同志じゃないですか」
「そうだな。これは無くさないように金庫にしまっておこう」
そう言うと白石は部屋の隅に置いてある大きな金庫を開けてレアカードをしまった。
「オリビアに何かお礼をしないとだな」
「いえ、お礼なんていいわよ。白石組長さんにはヒロと付き合うこと許してもらってるし。お礼は私が言いたいわ」
「本当にオリビアは優しい娘だな。もしオリビアが困った時にはこの白石組が手を貸してやるからな」
「ありがとう。白石組長さん」
そこで組長室の扉が叩かれた。
「組長。浩人です。オリビアが来てると聞いたんですが」
「おお。浩人か。入れ」
「失礼します」
浩人が入ってくる。
「ヒロ、お仕事お疲れ様」
「ああ。組長に迷惑かけてないか?」
「浩人。オリビアにその言い方は失礼だろう。オリビアは私のためにお土産を持って来てくれたんだぞ」
(ああ、あのカードを渡していたのか)
浩人は昨日オリビアが白石にお土産を買っていたことを思い出す。
「すみません。昨日はオリビアとアキバに行ったものですから」
「うむ。私も組長なんかしてなかったらアキバでグッズを思い切り買いたいのに……」
「組長。それだけは我慢してください」
浩人は白石を懸命に止める。
アイドルナ〇トのグッズを抱えた白石の姿を他の組の者に見せるわけにはいかない。
「分かっとる。だがこれからはオリビアが代わりに買い物に行ってくれるそうだ」
「そうですか。良かったですね。組長」
(どうせ俺も付き合わされるんだろうな)
浩人は内心溜息をついた。




