3 突然の告白
オリビアが留学したのはN女子大だった。
大学に通い始めて既に二週間が経過していた。
オリビアは9月からの留学なので日本の残暑にうんざり気味だった。
「日本には四季があるから楽しみにしてたけどまだ「秋」は来ないわね」
そんなことを考えながらオリビアは授業が終わり教科書をカバンに入れる。
「今日はどこに寄って帰ろうかなあ」
オリビアの楽しみは大学帰りにちょっと遠回りして都内を歩き回ることだ。
この二週間でいろんな場所に行きオリビアは自由を謳歌していた。
どうせ大学を出たらドレイクヴァロの裏の仕事をすることになるか、もしくはブラックウェル貿易会社に就職して表の仕事に就くか。
自分の未来は決まっている。
でもオリビアはブラックウェル一族に生まれたことに後悔はしていない。
ドレイクヴァロというマフィア組織は普通のマフィア組織ではないことを知っているからだ。
ドレイクヴァロでは「麻薬」は取り扱わない。「情報」だって容易く売るわけじゃない。
「情報」を手に入れた場合その国や団体に対してドレイクヴァロは「口止め料」を請求する。その相手がギリギリ払えるぐらいの金額を提示するのだ。
そして「口止め料」をもらうとその「情報」はどれだけ他の組織が金を積んでも渡さない。
だから各国はドレイクヴァロを敵に回せば恐ろしいが利用できればこれほど信頼できる相手はいないと判断している。
そうやって裏世界を牛耳っているのがオリビアの父の「双頭の鷲」なのだ。
それにオリビアはドレイクヴァロが目指す「ドレイクヴァロの夢」について父から聞いている。
それは途方もない夢だがその夢実現のためならオリビアもドレイクヴァロで働くのも嫌ではない。
オリビアは自販機でジュースを買って飲みながら街を散策した。
すると後ろから男に声をかけられた。
「お姉ちゃん。俺たちと遊ばない?」
オリビアが振り向くとそこには4人の男たちがいた。
服装からして真っ当な仕事をしている人間じゃないことはオリビアにも分かる。
「お! 姉ちゃん、綺麗な緑の瞳だねえ。外国人かい?」
「俺、外国人とやってみたかったんだよなあ」
男たちが下品な笑いを浮かべる。
オリビアは溜息をついた。
このぐらいの輩はオリビアの敵ではない。
オリビアは幼い頃から古武術を習っているし銃の腕前だってプロ並みだ。
実際ある国の特殊部隊に所属していた者から体術も習っている。
それぐらいでなければドレイクヴァロの総帥の娘として今まで無事に生きて来れなかったからだ。
(ああ、めんどくさいなあ)
オリビアがそう思った時にそこにもう一人の男の声が聞こえた。
「てめえら、人のシマで何やってんだ、こら!」
オリビアに声をかけた4人の男がその声に反応して振り返る。
オリビアもその声の主を見た。
そしてオリビアの体に電撃が走った。
遡ること少し前。
浩人は京介の運転で車で今日もシマの見回りに出ていた。
今日も残暑が厳しい。
シマの見回りをするのもうざったく思うほどだ。
「今日は特に異常なしですね」
京介がそう言いながら車を運転してN女子大の側を通りかかった。
女子大生たちが明るくおしゃべりしながら通りを歩いているのを浩人は眺めていた。
その時男たちに囲まれた女性が見えた。
女性の顔はよく分からないが周りを囲む男たちには見覚えがあった。
太田組の奴らだ。
太田組は白石組と同じく「十和麗月会」の三次団体だ。
それに太田組の組長は九条会の若頭補佐をやっていて白石とはライバル関係にある。
「たく! ここは俺たちのシマだぞ! 京介、車停めろ!」
「はい!」
京介は慌てて車を停める。
浩人は車から降りると4人の男たちに向かって声を張り上げる。
「てめえら、人のシマで何やってんだ、こら!」
4人の男が振り返る。
「なんだ? てめえは?」
最初4人の男は浩人のことが誰だか分からなかったらしい。
「うっせんだよ!」
男の一人が浩人に殴りかかったが浩人はあっさりとそれをかわしてその腕を掴んで捻り上げる。
「いてててて!!」
腕を捻り上げられた男が苦し気な声を出す。
「やべえ、こいつ、波戸場だ!」
他の3人は逃げ出した。
浩人が男の腕を放すとその男も逃げ出す。
「太田組は躾がなっちゃねえな」
浩人は男たちに囲まれていた女性に目を移した。
その瞬間浩人は固まる。
その女性は吸い込まれるような緑の瞳をしていたのだ。
「兄貴! 大丈夫ですか?」
京介の声で浩人はハッと我に返った。
「大丈夫か? あんた……って外国人だから言葉分からねえか」
「いえ。分かります。助けてくれてありがとうございました」
その女性は流暢な日本語を話した。
よく見ると緑の瞳以外は日本人の顔立ちだ。
「あの、お名前伺っていいですか?」
「俺の名前?俺は波戸場浩人だ。こっちは佳賀里京介」
「私はオリビア・ブ………ラッドと申します。オリビアと呼んでください」
「ああ。ケガはないか?」
浩人がオリビアに訊くとオリビアは頷く。
「はい。大丈夫です。あ、あの波戸場さん、私と付き合ってくれませんか!」
「はあ!?」
浩人は素っ頓狂な声を上げた。




