28 二人の夜
「う~ん。ヒロ~」
「だから飲み過ぎだって言ったんだ」
白ワインを飲み過ぎて泥酔したオリビアを浩人は抱きしめるようにしてオリビアのマンションに送って来た。
だがオリビアが酔っ払っていて自分では立てない状態だ。
仕方なく浩人はオリビアのバックから部屋の鍵を取り出してオリビアの部屋の中まで連れて行く。
初めてオリビアの部屋に入ったがきちんと整理整頓されていて綺麗な部屋だ。
家具も高級品を使っている。
浩人はオリビアを寝室のベッドに寝かせた。
「オリビア。俺は帰るからな」
そう言って浩人はオリビアから離れようとしたがオリビアはガチッと浩人の腕を掴んで離さない。
「ヒロ~、むにゃむにゃ」
意識は無いようなのに浩人を掴む腕の力は半端ではない。
「おい。離せよ」
浩人はなんとかオリビアを離そうとするが全然腕の拘束が解けない。
(こいつ、わざと寝たフリしてんじゃねえだろうな)
疑う浩人だったがオリビアは半分以上夢の中でいることは間違いない。
「たく、仕方ねえか」
浩人はオリビアを振りほどくのを諦めてオリビアの隣に寝転ぶ。
「ヒロ~」
オリビアは安心したように寝息を立てる。
その寝顔は幸せいっぱいのように見えた。
「全く、警戒心が無さすぎるぞ」
浩人はオリビアの顔を見ながら溜息をつく。
泥酔している女に手を出す趣味は浩人には無い。
それでも隣にオリビアが寝ていると思うだけである種の興奮は覚える。
オリビアは美人だ。
(この状態で手を出せないなんてなんかの苦行か)
だがオリビアの正体が分からない今の状況では下手に手を出すわけにもいかない。
(まあ、こいつも20歳なんだし一緒に寝ても問題はないか)
このマンションにはオリビア以外は住んでいないようだし未成年だといろいろ面倒なことになりかねないがお互い大人同士だ。
同じベッドで一晩一緒に寝たところで大きな問題にはならない。
別に浩人が実際にオリビアに手を出す訳ではないのだから。
浩人はこのままオリビアのマンションに泊ることにした。
自分にしがみつきながら眠るオリビアを見てるとなぜか心が安らぐ。
考えてみれば女と何もせずにただベッドで一緒に寝るなど久しぶりだ。
(自分の隣りに人の温もりがあるだけでこんなに違う夜が過ごせるとはな)
極道をやっていると寝ている時でも緊張感が抜けることはない。
だが今は本当に自分の心が穏やかになっているのを感じる。
(オリビアか…不思議な女だな)
そう思いながら目を瞑ると浩人にも眠気が襲ってきてそのままオリビアのベッドで寝てしまった。
翌日。オリビアは目を覚ました。
「ここは……」
オリビアは見慣れた天井が見えるのを不思議に思う。
「たしか、昨日はヒロとアキバデートして夕飯食べたはず……」
寝返りをうったオリビアは悲鳴を上げるところだった。
オリビアの隣には浩人が寝ていたのだ。
(な、なんで、ヒロが!)
浩人はぐっすり眠っているようで目を覚まさない。
オリビアは昨夜のことを思い出そうとするが記憶がないことに気付く。
(ちょっと待って! 私、ヒロと寝てしまったの!?)
オリビアは自分の衣服を確認するが外出着のままだ。
服を脱がされた形跡はない。
「う~ん」
そこで浩人が目を覚ました。
浩人は気怠そうにオリビアを見る。
「オリビアか。気分はどうだ?」
「だ、大丈夫よ! それより何でヒロが私のベッドにいるの?」
「なんだ、覚えてないのか。お前が俺の手を離してくれないから俺もここに泊ることにしたんだ」
浩人はそう言ってベッドから起き上がる。
(私がヒロの手を離さなかったの?確かにとても温かいものに包まれている感じがしたような気がするけど。と、とにかく真実を確認しなきゃ!)
「ヒロ……私たち何もなかったわよね?」
オリビアは恐る恐る浩人に尋ねた。
「なんかあった方が良かったか?」
浩人はニヤリと笑う。
オリビアはブンブンと首を横に振った後に慌てて言う。
「ヒ、ヒロのことが好きなのは本当よ。でもこういうことはもっと親密になってからでないと」
「心配するな。何もしちゃいねえよ。一緒にベッドで寝ただけだ」
「そ、そう。ならいいんだけど……」
オリビアはようやく平静を取り戻した。
(とりあえずヒロとは何もなかったようね。身体にも異変はないようだし)
「シャワー借りてもいいか?」
「え? ええ、いいわよ」
オリビアはベッドを出て浩人をシャワールームに案内する。
「ここよ。タオルはここにあるから」
「ああ、分かった」
浩人はシャワールームに消えていった。
オリビアは急いで服を着替えると浩人のために朝食を作った。
やがて浩人が髪をタオルで拭きながらリビングにやって来る。
「朝食は作っておいたから食べて。私もシャワー浴びてくるから」
「ああ」
オリビアは急いでシャワーを浴びた。
(どうしよう。何もなかったとはいえ、ヒロと一晩を共にしてしまったわ)
シャワーを浴びながらオリビアは見悶える。
男性経験のないオリビアにはただ一緒にベッドで男性と眠っただけでも衝撃的なことだった。
しかも相手は自分の愛する男性なのだ。
(大丈夫よ。私たちは恋人同士だもの。お母様だってお父様だって怒らないはずよ)
オリビアは冷静さを取り戻しシャワールームを出てリビングに行った。
浩人はトーストをかじりながらテレビを見ている。
「簡単な朝食でごめんなさい」
「いや、充分さ」
そして二人で朝食を食べた。
まるで新婚夫婦の朝のようだ。
そう考えると自然とオリビアは自分の顔が熱を持って赤くなるのを感じる。
しかし浩人は平然としていて特に意識しているようには見えない。
「俺は組事務所に行くからまた連絡する」
「分かったわ。いってらっしゃい」
オリビアはそう言って浩人をマンションから送り出した。




