25 交際はお試し期間
三人はラーメン屋にやって来た。
「ここの豚骨ラーメンは美味しいんだよ。すみません、豚骨ラーメンに全部のせでチャーシュー追加でね。麺はカタで」
エドワードは慣れた様子で注文する。
(このエドワードって人物はラーメンを分かってる奴だな)
ラーメンを知らなかったオリビアとは違い少なくともこのエドワードという男は日本に長く暮らしていることが浩人にも察せられた。
浩人は慎重深くエドワードを観察する。
「浩人さんとオリビアは何にする?」
「私は叔父様と一緒でいいわ。ヒロは?」
「俺も同じで」
「じゃあ、店員さん。今の三つね」
「はい。分かりました」
店員が行ってしまうとエドワードは一口水を飲む。
「ところで浩人さんは何の仕事してるんだい?」
エドワードの質問に浩人は少し考える。
この人物が浩人のことを極道だと知っているとは限らない。
ここは様子を見る為にも普通のサラリーマンのフリをした方がいいかもしれないと浩人は判断した。
少なくとも今の浩人の服装は一目で極道だとは分からない服装をしているからエドワードを騙せるだろう。
「会社員です」
「へえ、今は『極道』は会社員って言うのか」
浩人は顔色を変えた。
(こいつ、わざと訊きやがったな)
涼しい顔で浩人を極道だと言ったエドワードは浩人を怖がる様子もなく最初から浩人の正体を知っていたとしか思えない。
「エドワード叔父様。ヒロが何者かは私が話したでしょ?」
オリビアはエドワードが浩人のことを試すことを言うのでムッとする。
(エドワード叔父様ったらヒロに意地悪しないでよ!)
責めるようなオリビアの視線を受けてエドワードは僅かに苦笑した。
「ごめんごめん。オリビア。極道にもいろいろな人がいるからね」
「俺が極道なのを知ってオリビアに交際を許したのはあなたですか?」
自分が極道だと知っても堂々としているエドワードこそオリビアの後ろの黒幕なのかと浩人は探りを入れてみる。
しかしエドワードは首を横に振った。
「交際を許したのは正真正銘のオリビアの父親さ。私は後から聞いただけだよ」
「叔父さんとしてはオリビアが極道と付き合うのは反対でしょう?」
浩人の言葉にエドワードはその緑の瞳を細める。
その緑の瞳に見つめられた瞬間、浩人は背筋がゾクリとした。
(何だ? この妙な迫力は!?)
エドワードから立ち昇った他者を圧倒する気配は一瞬で消える。
まるで今の気配は幻であったかのようにエドワードからは普通の人間としての存在感しか感じなくなった。
浩人は背中に嫌な汗が流れる。
こういった自分の気配をコントロールできる人間は普通の一般人ではない。
(この男は何者なんだ?やはりどこかの裏組織の人間なのか?)
疑惑は深まるが別にエドワードは表面上では浩人に暴力などの攻撃をしてきた訳ではないので浩人がエドワードを捕まえて締め上げることはできない。
騒動を起こして警察沙汰になったら浩人も都合が悪い。
「身内としてはちょっと心配だけど、浩人さんはオリビアを守ってくれているから問題はないかな」
エドワードはにこやかな表情を浮かべる。
「それは確かにそうですが……。普通の親は極道と娘の交際なんて認めないでしょう?」
「まあね。でも私は兄から浩人さんがどんな人物か確かめるための交際を許すと聞いているから本当にオリビアとの交際を認めたというのとはちょっと違うんじゃないかな」
「オリビア。今の話は本当か?」
浩人がオリビアの顔を見るとオリビアは渋々頷く。
「確かに、エドワード叔父様の言う通りよ。でも私はヒロと付き合ってみてやっぱりヒロしかいないと思ってるわ」
(なるほどな。俺との交際はお試し期間か)
オリビアの親の正体は分からないが何の条件も無しに二人の交際を認めた訳ではないらしい。
交際させておいてその後にオリビアが浩人に何か仕掛けてくる可能性はまだあるということだ。
油断はできない。
「オリビアが言うなら浩人さんはいい人なんだろうね。私は二人の恋を応援するよ」
エドワードがニコリと笑う。
「いやいや、エドワードさん。極道がいい人な訳ないでしょう」
浩人はエドワードの言葉を否定する。
するとエドワードは不思議そうに浩人を見た。
「私は職業でその人物の価値は決めないよ。極道だからって差別はしない」
(クッ、さすがオリビアの叔父だぜ。こいつも一筋縄ではいかないな。それともこいつもオリビア同様に天然なのか?)
そう思わないでもないがそれにしては先ほど一瞬だけ感じたエドワードを包んだ気配が気になる浩人だ。
そこへ豚骨ラーメンが運ばれて来た。
「こないだ遊園地で食べたラーメンより匂いがいいわ」
「まあ、食べてごらんよ。オリビア」
エドワードはオリビアに豚骨ラーメンを勧める。
オリビアは一口食べてその美味しさに目を丸くした。
「美味しい!」
浩人も一口食べてみる。
「うん! うまい」
「フフ、ここは私のおすすめのお店さ」
エドワードもラーメンを食べる。
オリビアは美味しくて一気に食べてしまう。
「ああ。美味しかったわ」
「もう、食ったのか?」
「だって美味しいんだもん」
驚いた浩人にオリビアは笑みを浮かべる。
「オリビアが気に入って良かったよ」
エドワードも満足そうだ。
(とりあえず今は無難にこの男とのやり取りを受け流すか)
後日、このエドワードという男の素性を調査してもいい。
相手の目的が分からないうちに自分から喧嘩をふっかけるのは得策ではない。
浩人は自分のラーメンを食べながらそう考えた。
そして浩人もエドワードも食べ終わり店を出る。
「じゃあ、オリビア。私はこの辺で失礼するよ。二人のデートを邪魔して悪かったね」
「エドワード叔父様も気をつけてね。ヒロ、行きましょう」
オリビアは浩人の腕を掴み歩き出す。
「ああ」
浩人は強引にオリビアに引っ張られて歩き出す。
二人の後ろ姿を見送っていたエドワードだったがその顔から笑みを消した。
「キール」
すると人混みに紛れながらエドワードを護衛していたキールが側に来る。
「何でしょうか? エドワード様」
「一応、オリビアの監視を続けるように」
「承知しました」
エドワードはキールを連れて近くに待たせてあった車に乗り込む。
エドワードから見た浩人はそんなに変な人間には思えなかった。
調査報告にあったとおり仁義を通すタイプの極道だ。
これならドレイクヴァロの仕事をさせても問題はないだろう。
「後は二人の気持ちしだいだけどね」
二人に強い絆が生まれればそれは「力」となる。
ドレイクヴァロの組織で生きていくには己の力が最後にはものを言うのだ。
エドワードを乗せた車は走り出した。




