18 犬猿の仲
太田は苛立っていた。
九条会本部で九条会長から上納金が足りないことを叱責されて土下座して謝っているところをこともあろうか白石に見られるとは。
現在太田は九条会の若頭補佐だ。
足りない上納金はなんとか金をかき集めて本部に納めることができた。
だがこれ以上失態が続けば若頭補佐の地位も危なくなる。
白石組の白石とは何かにつけて太田は比べられる。
太田にとっては白石に負けることは屈辱以外の何ものでもない。
「津田! 津田はいねえか!」
太田が声を張り上げると隣の部屋から太田組の若頭の津田が部屋に入って来る。
「何か御用ですか? 組長」
「ああ、そこに座れ」
津田は太田の前のソファに座る。
「白石には毎回煮え湯を飲まされてばかりだ。何か白石組を潰すネタはないか?」
「白石組ですか。白石組には波戸場がいて目を光らせていますからね。調査してみないと分かりませんが何か白石組の弱みを握ればいいんですね?」
「そうだ。これ以上失態を晒せば九条会での俺の立場も悪くなる。何でもいいからネタを探せ」
「分かりました。俺も波戸場にはでかい顔されるのは嫌なんで」
「おう。調査の方はお前に任せる」
「はい。必ず白石組を潰して見せます」
津田は組長室を出た。
白石組の若頭の波戸場と太田組の若頭の津田は何かと比較されて津田は波戸場のことが嫌いだった。
いつかは白石組を潰したいと思っている。
「さて、とりあえずは白石組を見張ってみるか」
津田はそう呟いた。
「会長。白石と太田は何か面倒起こすんじゃないですかね」
そう言ったのは九条会若頭の松林だ。
ここは九条会の会長の部屋だ。
「何だ? 松林は二人のことが気になるのか?」
会長の九条は松林を見る。
「ある程度競争させた方が組織としても利益が上がりますが、あの二人は犬猿の仲過ぎて問題起こさないか心配です」
「ふむ。確かにな。だが最近は白石の方が働きが良いのは事実だ。太田も若頭補佐とはいえ無能であれば切り捨てることも考えなければな」
「それは慎重に判断した方がいいですよ、会長。太田組が暴走しても困ります」
松林は九条に進言する。
「確かにな。問題起こして九条会が十和麗月会から目をつけられても困る」
九条会は関東最大の極道組織の十和麗月会の二次団体だ。
九条は十和麗月会の幹部の一人である。
今の十和麗月会の会長は鹿沼道彦という人物だ。
鹿沼は組織経営には厳しい。
幹部の九条と言えども鹿沼会長の機嫌を損ねることがあったら大変なことになる。
「太田組が暴走しないように、松林、お前が見張っていろ」
「分かりました。会長」
松林は九条に頭を下げる。
「俺はこれから十和麗月会の幹部会に出かける。留守中のことは任せたぞ」
「はい。いってらっしゃいませ」
九条は部屋を出て行った。
松林は部屋に残り一人思案する。
松林の個人的な意見としては白石のような人物に九条会を支えてもらいたい。
だが白石を特別扱いすると太田が黙ってはいないだろう。
九条会としても太田組を破門したりすると組織の弱体化に繋がる恐れもあるため、そう簡単に太田組を切ることはできない。
十和麗月会には九条会のライバルとなる二次団体は多く存在する。
他の団体に足元を見られることのないようにするのも松林の仕事だ。
「どうしたものかな」
松林はタバコに火を点けた。




