17 執着愛の一族
オリビアは浩人に自分のマンションまで送ってもらって帰って来た。
「ヒロにはいつかは話さないとなのよね……」
部屋にカバンを置きながらオリビアは呟く。
最初に偽名を使って浩人と知り合ってしまったから今更自分がブラックウェル一族だとは言いづらい。
ましてやドレイクヴァロの総帥の娘なんて言ったら浩人は自分から離れてしまう気がする。
オリビアはアメリカの学校に通っていた時から異質な存在だった。
同級生は上流階級の人間ばかりでオリビアがブラックウェル一族だと知るとその地位目当てに寄ってくるような連中ばかりだった。
オリビアがドレイクヴァロの総帥の娘だということは知らない。
けれどブラックウェル貿易会社の社長の一族ということは隠していない。
ブラックウェル貿易会社は世界でも常に三本の指に入るほどの大手企業だ。
各国に支店を持ち、その完全なる実力主義の会社方針は多くの人間が就職を希望する。
ブラックウェル貿易会社はドレイクヴァロの表の顔だがそのことを知っているのは一部の者だけだ。
福利厚生もしっかりしていて給料もいい。人種差別も男女差別も学歴差別もない。
各国の病院や福祉団体にも巨額な寄付をしているホワイト企業だ。
ドレイクヴァロが情報を操っているためドレイクヴァロとブラックウェル貿易会社の繋がりは誰にも分からない。
そんなブラックウェル貿易会社を経営している一族の娘というだけでオリビアは特別扱いされた。
だが地位目当てで近付いて来る同級生に心を開くことはできず、オリビアが本当の意味で心を開けたのは家族のみだった。
父のアランはドレイクヴァロの総帥としてアメリカ国内の屋敷を母と転々と移動しながら暮らしている。
ドレイクヴァロの総帥は命を狙われないように同じ場所に長く滞在することはしない。
そのためシカゴの本宅にいたのはオリビア以外には兄のルーカスとマテオだけだった。
兄たちも寂しかったのか兄たちは妹のオリビアに甘い。
特にルーカスはオリビアのことを気にかけていた。
オリビアも浩人に自分のことを話さないととは思うのだがもし浩人が自分から離れてしまうかもと思うとなかなか勇気がでない。
自分と結婚するということは浩人は白石組を抜けてドレイクヴァロの仕事をしなければならない。
それは浩人にとっては大変なことだ。でも自分は浩人以外と結婚したいと思わない。
するとパソコンがピピピと鳴った。
「誰かしら?」
オリビアはパソコンの通信を繋げる。
相手は兄のマテオだった。
「オリビア、元気にしてる?」
「ええ、元気よ。マテオ兄様」
「ルーカスに聞いたけど彼氏ができたんだって?」
「ええ、そうよ。日本の極道をしている波戸場浩人って人よ」
「相手の情報は知ってるよ。ルーカスはオリビアのことが心配だって大騒ぎしているよ」
(まあ、ルーカス兄さまが私のことで大騒ぎするのはいつものことよね。マテオ兄さまもヒロとのことを反対するのかしら)
「マテオ兄様も反対するの?」
オリビアがそう尋ねるとマテオは少し考えていたが答える。
「いや、俺は反対はしない。波戸場浩人は若くして若頭の仕事もするだけの実力があるみたいだし、オリビアの人を見る目は確かだし」
「ホント? ありがとう、マテオ兄様」
「それに俺たちは恋に一途な血筋だからね」
マテオは笑って答える。
そうなのだ。ブラックウェル一族は恋をすると必ず相手を手に入れなければ気が済まない一種の執着愛が強い人間が多い。
父もそうやって母を手に入れたし、祖父もそうだったと聞いている。
母を溺愛する父の行き過ぎたエピソードや祖母を溺愛した祖父の行き過ぎたエピソードは半ば伝説のように語り継がれてる話が多い。
それほどの執着愛を見せる一族の血をオリビアも受け継いでいる。
「ヒロは私の運命の人よ」
「そうだろうね。今まで異性に興味のなかったオリビアが惚れるんだもん。運命の人に違いないよ」
「ありがとう」
「でも俺からは一言だけ言っておく。オリビア、どんな困難な恋でも想い合ってれば必ず障害は越えられる。だから頑張って」
「分かったわ。必ずヒロを手に入れるわ」
「その意気だよ。それじゃ、またね」
そこでマテオとの通信は切れた。
「想い合っていれば……か。私はまだヒロに好きって言ってもらってないのよね」
そこでオリビアは決心する。
まずは浩人に自分を好きになってもらうのが先決だ。両想いになれば自分の正体をバラしても浩人は受け入れてくれるはず。
「さて、アキバデートではどこに行こうかな」
オリビアは自分の恋を前向きに考えた。




