16 アキバデートの約束
「ちょっと来い!」
浩人は組事務所からオリビアを引きずるように連れ出して近くの喫茶店に入る。
コーヒーを注文してから浩人は口を開いた。
「組事務所には女一人で来るものじゃないと前に言ったろ?」
「あら、大丈夫よ。組員の人には顔を覚えてもらってるし、白石組長さんともお友達になったわ」
オリビアは悪びれることなく返事をする。
「どうやって親父を丸め込んだんだ?」
「別に、白石組長さんもアイドルナ〇トのファンだって言うからその話で盛り上がっていたのよ」
「親父は自分の趣味を話したのか!?」
「ええ。アイドルナ〇トが好きって言ってたわよ」
驚く浩人をオリビアが不思議そうに見る。
浩人は頭を抱えた。
(あれほど組員に「俺の趣味のことは秘密だからな。誰かに漏らしたら分かってるだろうな」って脅していたのに。何やってるんですか、親父……)
「アイドルナ〇トのファンに悪い人はいないって言ったら白石組長さんが私のこと気に入ったとか言って」
「ああ、そうなのか……」
(それで親父は上機嫌だったのか)
「ヒロはアイドルナ〇トのこと知ってる?」
「俺は別にファンじゃないが親父の好きなモノってことは知ってる」
「そう。今度ヒロにも漫画本貸してあげるわ」
オリビアの言葉に浩人は首を横に振る。
浩人はアニメや漫画に興味はない。
「いや、貸してくれなくていい」
「ヒロも読めばファンになるわよ。そうだ! 今度はアキバデートしない?」
「アキバって秋葉原か?」
「そうよ。アニメの聖地よ」
「聖地ねえ……」
「私、まだアキバには行ってなかったのよね。いいでしょ?」
(遊園地の次はアキバかよ!)
常に自分の予想の範囲を超える提案をするオリビアに浩人は脱力する。
「ね? ダメ?」
オリビアが緑の瞳を潤ませながら浩人に両手を合わせてお願いのポーズをとる。
その姿に思わず浩人は唸る。
「うっ!」
オリビアの緑の瞳で見つめられるとなぜか逆らえない気分になってしまう。
(本当にこいつは魔女か何かじゃねえよな…いやいやファンタジーの世界じゃあるまいし、しっかりしろ!)
だがオリビアの本当の目的を探る為にもオリビアとは一緒に行動した方がいい。
そう思った浩人は秋葉原に行くことを決断する。
「分かった。アキバに連れて行ってやる」
「やったわ! 念願の夢が叶うわ!」
「そんなに喜ぶことか?」
満面の笑顔で喜ぶオリビアを浩人は呆れた顔で尋ねた。
「世界のアニメファンにとってアキバで買い物できるなんて夢なのよ」
「そういうもんか」
「そうよ。じゃあ、今度の休日でいい?」
「ああ、分かった。予定を空けておく」
「ありがとう。ヒロ」
彼女の無邪気な笑顔には何か企みがあるようには見えない。
(オリビアに裏があると思ったのは俺の勘違いか?)
そんな気がしてくる浩人である。
だがそれでは浩人の正体を誰に聞いたかという疑問はまだ残る。
(どっちにしろ、もう少し様子を見るか)
浩人は運ばれてきたコーヒーを飲む。
「親父と仲良しになったんなら組事務所に来てもいいが絶対親父に失礼なことするなよ」
「分かったわ。気をつける」
浩人としてもオリビアと話をしていた時の白石の上機嫌な様子を見ていたらオリビアのことを怒ることもできない。
(親父はあの趣味さえなければ極道として完璧なんだが……)
白石がアニメ好きということは白石組の機密情報に近い。
アニメに興味のない浩人からしてみれば白石には趣味を変えて欲しいくらいである。
「それよりヒロは毎日何の仕事してるの?」
「シマの見回りしたりいろいろだ。極道の仕事なんて雑用ばかりさ」
「ふ~ん、そうなんだ」
オリビアは緑の瞳で浩人を見つめる。
やはりオリビアに見つめられると心臓がドキドキする。
まるで初恋をしたように落ち着かない。
(まったく俺もどうかしてる。中坊のガキじゃあるまいし)
その日も浩人はオリビアをマンションまで送って行った。




