15 組長の趣味
次の日。大学が終わるとオリビアは浩人の組事務所に向かった。
組事務所に来るとオリビアは組員に話かける。
「こんにちは。浩人さんはいる?」
「あ、あなたは若頭の…」
「そうよ。浩人さんの彼女よ」
オリビアの笑顔に声をかけられた組員は顔を赤くする。
コホンッと咳払いをして組員はオリビアに教えてくれた。
「若頭は今は京介さんと出かけてます」
「そう。中で待たせてもらってもいい?」
「はい。どうぞ」
オリビアは組事務所に入る。
すると組長の白石が新聞を読んでいた。
「白石組長さん、こんにちは」
「ん? おお、君は浩人の恋人だったな」
「はい。オリビアです」
組長が相手でもオリビアが動じることはない。
「今、浩人は外に出ているがここで待ってなさい」
「ありがとうございます」
白石の言葉にオリビアは遠慮なくソファに座る。
「しかしあの浩人がこんなべっぴんさんをいつの間に恋人にしたんだ?」
「べっぴん?」
「美人さんってことだよ」
「やあだ。白石組長さんったら。褒めてくれてありがとうございます。まだヒロとは付き合って間もないんですよ。昨日はヒロと遊園地デートして来ました」
「遊園地!? 浩人と?」
「はい。ヒロも遊園地は初めてらしくてとても楽しかったです」
「ハハハ、浩人が遊園地か!」
白石は豪快に笑う。
「なんか変なこと言いましたか?」
「いやいや、何でもない。そうか、遊園地か…」
お腹を抱えるように白石は笑っていた。
そしてしばらく笑った後にオリビアに質問してくる。
「それでオリビアさんは大学生と聞いたが留学生かい?」
「はい。アメリカから来ました。二年間の予定で大学に通っています。白石組長さん、私のことはオリビアと呼んでください」
「そうか。では遠慮なくオリビアと呼ばせていただくよ」
「はい」
白石との会話が一段落してオリビアは読書でもして時間を潰そうとカバンから一冊の漫画本を取り出す。
その漫画本を見て白石は顔色を変えた。
「オリビア、君はアニメが好きなのかな?」
「はい。ヒロが来るまで漫画本を読んでようかなって」
「それは『アイドルナ〇ト』だよね?」
「白石組長さん、『アイドルナ〇ト』を知ってるんですか?」
オリビアが驚いた声を上げると白石はコホンと咳払いした。
「実はな。私もアイドルナ〇トのファンなんだよ」
「ええ! そうなんですか?」
「うむ。極道の組長やってながらアニメ好きなんてカッコ悪いだろ?」
「とんでもない! 白石組長さんは私と『同志』ですわ」
「笑わないのかい?」
拍子抜けしたような表情で白石がオリビアを見る。
「なぜですか? アイドルナ〇トを好きな人に悪い人はいません!」
つい拳を握り締めてオリビアは声を上げてしまった。
このアイドルナ〇トは漫画本の中でも特にオリビアはお気に入りなのだ。
同じ漫画のファンである白石のことをオリビアが悪く思う訳はない。
むしろ日本に来て「同志」に出会えたことが嬉しかった。
「ハハハ、オリビアは面白いな。極道の人間に悪い人はいないなんて言うなど。うん、私はオリビアが気に入ったぞ」
「ありがとうございます」
「もし浩人に泣かされることがあったら私に言いなさい。浩人を叱ってやるから」
白石は上機嫌になった。
そこへ浩人が組事務所に帰って来る。
「ただいま帰りました……って、オリビア!?」
浩人は白石組長と仲良く話しているオリビアを見て驚いた。
(こいつ! また勝手に組事務所に来やがって! しかも親父に気安く声をかけて居座るなんて何を考えてやがる!?)
「すみません! 組長。こいつがまた勝手に来たみたいで」
「いやあ。かまわんぞ、浩人。オリビアは良い子じゃないか」
「は?」
(今、親父はなんて言った?)
戸惑う浩人の前で白石は笑顔で浩人に告げる。
「こんなに気の合う娘さんはいない。浩人もいい嫁見つけたな」
「やだあ。白石組長さんたら嫁なんて気が早いわ」
オリビアも白石組長に笑いかける。
まるで二人は昔からの友人のようだ。
(何で親父とこんなに仲が良くなってるんだ?)
浩人はこんなに機嫌のいい白石を見るのは久しぶりだった。
「組長。オリビアは失礼なことしませんでしたか?」
「とんでもない。浩人、オリビアを泣かすことはするなよ」
白石が浩人を軽く睨んでくる。
その迫力はいつもの白石と変わらない。
「は、はい!」
思わず背筋が伸びる浩人だ。
(何がどうなってるんだ?)
しかしそんな浩人のことなど気にせず白石とオリビアが笑い合っているのを見て浩人は呆気に取られた。




