13 初めてのキス
「ヒロは何で極道になったんですか?」
遊園地のベンチに二人で座っていた時にオリビアが浩人に訊く。
「俺が極道になった理由か?」
「ええ」
浩人は自分の過去を思い出す。
正直、あまり思い出したくないことの方が多い。
だが自分の過去を話すことでオリビアが怖がって自分のことを諦めるかもしれないと思い話すことにした。
「そうだなあ。俺は両親を亡くして施設で育ったんだが中学の頃から喧嘩が好きでよく喧嘩してたんだ」
「喧嘩が好き?」
「まあ、ガキの頃によくある俺様が一番喧嘩が強いなんて思い込んでいてな。ある時極道相手に喧嘩を吹っ掛けちまった」
「それでどうなったんですか?」
「危うくその相手に殺されそうになったところを今の親父である白石組の組長に助けてもらった。それから親父について極道の道に入った」
「そうなんですか。白石組長さんはヒロの命の恩人なんですね」
あの時から浩人は白石に恩義を感じて白石の為なら自分の手を汚すこともためらわなかった。
「まあな。オリビアは大学卒業したらどうするんだ?父親の会社で働くのか?」
オリビアは僅かに頷く。
「はい。それが私の使命ですから」
おそらくオリビアは社長令嬢だろうから親の会社で働くのは当然だろう。
だが親の敷いたレールを歩んでいくことはオリビアのためになるのだろうか。
ついついそんなお節介とも言える考えが浩人に浮かぶ。
「使命ねえ。自分のやりたいことはねえのか?」
「私は父の仕事の手伝いをしたいと思っています。これはお父様から強制されたわけではありません」
「そうか。もし俺と一緒になるんなら日本で暮らさないとかもだぞ?」
「それなら日本で仕事もできます。父の弟のエドワード叔父様のところで働くのもいいわ」
「エドワード叔父様?」
「エドワード叔父様は日本人の奥さんと結婚するために日本に移住したんです」
「そうか」
浩人はオリビアの横顔を見つめた。
オリビアが日本にいてくれるなら自分と所帯を持っても自分も極道を続けられる。
しかし次の瞬間、ハッと浩人は我に返る。
(何考えてるんだ! オリビアのような純粋な人間を俺の嫁にしていいわけねえ!)
浩人はオリビアと結婚することを考えている自分に驚く。
こんな会って間もない女と結婚を考えるなど頭がどうかしたとした思えなかった。
(それにオリビアは俺に父親の会社で働いて欲しいと言ってたじゃねえか。俺が白石組を抜けられるわけがねえ)
オリビアと自分とは住む世界が違う。
なぜかそのことがチクりと胸に棘が刺さった気分になったが浩人は平静を装った。
「オリビア。俺は極道を辞めるつもりはねえ。今からでも遅くない。一般人と付き合ったほうがいいんじゃねえか?」
オリビアは浩人を見つめる。
「いえ。私にはヒロしかいません。必ずヒロを連れてアメリカに戻ります」
オリビアは断言した。
力強い緑の瞳はどんなことでも成し遂げると言わんばかりに輝いている。
その意志の強さは惚れ惚れするくらいだ。
「まあ。夢見るのは勝手だがな」
浩人はオリビアから視線を外して答える。
夢を見たところで現実は夢のようにはならない。
浩人はそういう生活を送ってきた。
「夢とは実現するためにあるんですよ。たとえどんなに犠牲を払っても」
(犠牲を払っても?)
浩人がオリビアの言葉に疑問を持ったがオリビアは真摯な顔で浩人を見つめている。
その緑の瞳に吸い込まれそうになる。
そして浩人は無意識にオリビアの体を抱き寄せその唇にキスをしていた。
「んっ!」
オリビアの甘い声で浩人は我に返った。
慌ててオリビアから体を離す。
(俺はいったい何を?)
オリビアの緑の瞳を見ていたらキスをしたい欲求に我慢ができなかった。
「すまん。急に」
「謝らないでください。私たち恋人同士ですよ」
オリビアは嬉しそうに浩人を見る。
浩人の直感が告げる。この女は「危険だ」と。
関わらない方が自分のためだと思うのにそれと同じくらい他の男にオリビアを渡したくないと思った。
(俺はこの女を愛しているのか)
浩人の心の中でオリビアの存在は大きくなる一方だった。




