12 初体験
昼食の時間になり浩人とオリビアは遊園地内にあるレストランにやって来た。
ここでは軽食が食べられる。
「俺はラーメンにするか。オリビアは何がいい?」
レストランのメニューを見ながら浩人が訊くとオリビアは不思議そうな顔をした。
「どうした?」
「ラーメンって何ですか?」
「は?」
オリビアの言葉に浩人は絶句する。
(まさかこいつ、ラーメンを知らないのか!?)
そこで浩人はオリビアが外国人だったことを思い出した。
緑の瞳以外は顔は日本人と言ってもいいし日本語も完璧に話すのでつい忘れていたが。
「ラーメンを食べたことないのか?」
「はい。ラーメンというのはどういう物ですか?」
「マジか!?」
「はい」
オリビアの瞳に嘘をついてる様子はない。
(アメリカから来たって話は本当のことかもな。だけどラーメンを知らないとは驚きだな)
日本にいてラーメンを知らない奴がいるわけはない。
少なくともオリビアは日本育ちではなさそうだ。
「じゃあ、食べてみるか?」
「はい。私もヒロと同じ物にします」
「分かった」
浩人はラーメンを二つ注文した。
窓際の席に着くとオリビアは笑顔で話しかけてくる。
「ヒロと初体験できて良かったわ」
「ぶっ!」
浩人は水を喉に詰まらせてゴホゴホと咳をした。
心配そうにオリビアが浩人に声をかける。
「大丈夫? ヒロ?」
「ごほっごほっ!……初体験って!?」
「あら、ヒロも遊園地初体験でしょ?」
「ああ、そっちの初体験か……ごほっ!」
(たく! 驚いたぜ。誰かに聞かれたら絶対誤解されるだろうが!)
周囲を見るが客は疎らで浩人たちの会話は聞こえてないようだ。
いくら極道の浩人と言えど羞恥心というモノはある。
「私、何か変なこと言った?」
オリビアは咳込む浩人を不思議そうに見つめる。
(まったく、時々爆弾発言しやがるな。京介が言っていたがこいつはただの天然の世間知らずな金持ちのお嬢様かもしれない)
浩人は「何でもない」とオリビアに言った。
オリビアがどこかの組の手先かと疑っていたが浩人は段々疑うのが馬鹿らしくなってくる。
こんな天然女が何かを企んでるようには思えない。
(だが、言動に不審な点はあるんだよなあ。極道の知り合いがいそうな)
浩人のことを白石組の若頭と知って事務所に尋ねて来たことなどを考えると怪しい部分はある。
しかしオリビアと話していると本当に無垢な少女を相手している気がするのも事実だ。
「オリビア。お前、今いくつだ?」
「20歳よ」
「今まで誰かと交際したことはあるか?」
「いいえ、無いわ。今までの人生では運命を感じた人はいないもの」
「そうか」
浩人はもしやオリビアは極道と付き合ったことがあるのかと思ったがどうやらその考えも違うようだ。
まあ、オリビアが正直に答えているのかは分からないが。
(だけど極道の俺と付き合うのを許す親がいるとも思えねえんだよなあ)
オリビアは自分の親が極道の浩人と付き合うことを許してくれたとは言ったが普通の親はそんなことは許さないだろう。
ましてや金持ちのお嬢様であるなら余計に娘と付き合う男を親が吟味するのが当たり前だ。
(まさかこいつの親も頭が少しおかしいのか?)
考えれば考えれるほど疑問ばかりが浮かぶ。
そこへラーメンが運ばれて来た。
「これがラーメンなのね。麺類だったのね」
「ああ。まあ、遊園地にあるレストランで出るラーメンがそんなにうまいとは思えねえが食べてみろ」
「どうやって食べるの?」
「箸を使って食べるんだ。箸使えるか?」
「ええ。大丈夫よ。自宅では日本食も食べたことあるから」
オリビアは箸でラーメンを食べ始める。
確かに箸の使い方は間違っていない。
「へえ。なかなか美味しいわ」
浩人も一緒になって食べる。
やはり遊園地のレストランのラーメンでは浩人には物足りない。
「今度、もっと美味しいラーメン屋に連れて行ってやるよ」
「ホント? じゃあ、今度はラーメン屋デートね」
オリビアは嬉しそうな顔をする。
その笑顔に浩人は胸がドキッとして熱くなった。
(なんだ? この気持ちは)
浩人はオリビアに対する自分の気持ちが変化していくのを感じていた。
まるで大昔に「恋」をした時の感情に似ている。
(まさかこの俺がこんな天然女に惚れているのか。いやいや、しっかりしろ!そんなわけねえ)
自分の想いを無理やり抑え込んで浩人はラーメンを食べ続ける。
ここで自分の想いを認めてしまったら自分がどこまでも堕ちてしまうようなそんな気がしたのだ。
「これも初体験ね」
ラーメンを食べながらオリビアが呟く。
「その初体験って言葉はあんまり使うな」
「あら、どうして?」
「いろいろ紛らわしいからだ。とにかく使うな」
「…? 分かったわ」
オリビアは不思議そうに浩人を見つめる。
思わず浩人は溜息を吐いた。




