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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 聖女アンリーシェvs悪女チェリシア

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97 兄弟対決

その頃、レイドは変わらずステインと戦っていた。

互いの刃がぶつかり合い、バチバチと火花を散らしている。



「いい加減にそこを退けッ!!!」



レイドが怒り任せに剣を振り上げ、それをステインが受け止めた。

一刻も早くチェリシアの元へ向かわなければならないというのに、何故こうも邪魔ばかりしてくるんだ。



ステインはこんなにも実力があったのか、とレイドは驚いた。魔法でパワーアップしているとはいえ、彼もまた身体能力は元々高い方だ。一瞬たりとも気を抜くことはできなかった。



レイドは焦りからか、何度もステインに向けてその刃をぶつけた。

彼はそれを難なく受け止め、いつしか周辺のものたちを巻き込むほどの激しい戦いになっていた。



「そういうわけにはいかない、全ては我が愛するリーシェのためなのだから」

「その言葉は聞き飽きた。自我も持たない人形のようだな」



挑発するような言葉にも、ステインは特別な反応を見せなかった。

いつもなら顔を赤くして反論してくるくせに。



相変わらずデボラの魔法が解けていないのか。まるで操り人形のようで、何て憐れな男なんだ。

そう思っていたレイドだったが、この後彼は意外な反応を示した。



「……お前のことは昔から気に入らなかった」

「……何だと?」



そんな当たり前のことを、何故今になって。

彼は理解できず、ステインの目をじっと見つめた。



「俺は昔からずっと、お前と比べられていた。勉強も運動も……瞳の色も」



ステインは悲しそうな瞳で、ポツリと呟いた。

普段から濁っていると言われる彼の目が、さらに暗く淀んだ。

レイドは彼の発言が理解できなかった。比べられていたのはお前ではなく、こっちの方だ。



「何を言っている?俺はどれだけ努力したところで、絶対にお前より上には行けなかった。お前は帝国の輝く星で、俺は汚点だったんだから」



ステインは皇后から生まれた希望の光で、レイドは汚らわしい妾腹の子。

帝国民ならば、誰もが知っていることだった。

しかし、ステインはその発言を真っ向から否定した。



「――そう思っているのはお前だけだ」

「……何を」



ステインが勢いよく剣を下ろし、受け止めたレイドはピクリと眉を上げた。

彼がどれだけ腹違いの兄のことを羨ましがっていたか、ステインはもちろん知らないだろう。



「母上はいつも俺に対してお前に負けるなとばかり言った。父上も権力や地位を得ることしか考えていなくて……」

「……」



ステインは第一皇子として両親から愛されて育ったかと思われていたが、実際はそうではなかった。

父親である皇帝は仕事人間で、家族を顧みない人だった。

母である皇后は性に奔放な人で、父に内緒で他の男と遊んだりもしていた。

そのせいで、彼はあらゆる中傷を受ける羽目となった。



『ねぇ、あの噂をお聞きになりました?』

『あら、ステイン殿下の出生に関してですか?もちろん知っていますわ』



社交界で広まったある噂に、彼は幼い頃から苦しめられていた。



『――ステイン第一皇子殿下が、実は皇帝陛下の御子ではないのだと』



ありえないことだったが、その噂を信じている者たちがいるのもまた事実だったのだ。



『陛下のように輝く瞳をお持ちならまだしも……あの目ではそのような噂が立ってしまうのも仕方がありませんね』

『ええ、出自が疑わしい皇子を次期皇帝と祀り上げるだなんてどうかしていますわ』



レイドは生まれながらに全てを持っていたステインを羨ましく思っていたが、それはステインも同じだった。

天才と持て囃され、皇家の象徴である瞳まで。

むしろ彼にとって全てを持っていたのはレイドの方だったのだ。



そんな彼が気に入らなくて、キツく当たったりもした。

今思えば、ただの八つ当たりだ。あのときは、それほどまでに心に余裕が無かった。



「心から俺を思ってくれている人なんて一人も……いや、一人だけいたか」



そのときのステインの脳裏に浮かんだのは、緑色の瞳をした少女だった。アンリーシェではない、彼を大切に思ってくれていた人。

レイドは感傷に浸るステインに、冷静に言葉を返した。



「……俺もお前のことが気に入らなかったよ、お互い様だな」



レイドはステインの抱えている複雑な心の闇を、このときになって初めて知った。

話している間にも、二人の剣は一歩も退かずにぶつかり合う。



(俺は、腹違いの兄のことをまともに見てこなかったようだな……)



剣を握るレイドの手に、力が入った。ステインのことを羨ましがっていたが、彼は彼なりに悩んでいたようだ。

今のステインは、先ほどとは打って変わって瞳に光を宿し始めている。



ようやく本当に大切なものに気付けたのか、と思ったのも束の間――



「……いや、違う。あんなヤツのことはどうでもいいんだ。俺が愛しているのはリーシェだけで……」

「……お前、まだ術が解けていないのか」



解けかかっていたにもかかわらず再び疑心暗鬼になるステインに、レイドは怒りを通り越して呆れてしまった。



(……お前、どれだけ心が弱いんだよ)



魅了などの精神に干渉する魔法は、心が不安定な者ほどかかりやすいという特性がある。

レイドがデボラの術に全く影響されなかったのもそれが理由だ。彼はチェリシアを心から愛し、皇座を手に入れるという目標を掲げて生きていた。そこに一抹の不安も迷いも無い。

つまり、ステインが最初からアルセリアにだけ目を向けていればこのような事態は起きなかったのだ。



自分を一途に想ってくれていたアルセリアのことを見ようともせず、居心地の悪い皇宮から逃げ出した先にいた女に心を動かされた。

窮屈な貴族社会ではなく、穢れを知らない平民の少女がいる外の世界。彼女と過ごす時間は心地よく、まるで天国のようだっただろう。

結局はその女と彼女の作る空間にのめり込み、婚約者を捨ててまで彼女を選んだ。



傲慢で自分勝手でどうしようもない男だった。



――あぁ、そうか。

そこでレイドは気が付いた。



「俺がお前を気に入らない理由がようやくわかった」

「……何?」



レイドはステインの剣を強く押し、押されたステインが後ろによろけた。

彼はあ然とするステインに、剣先を真っ直ぐに向けた。



「お前は他者よりもずっと恵まれていた。だが、困難に直面しても向き合おうとせず、都合の悪いことから逃げ出してばかりいるんだ」

「何だと……?」



アンリーシェの元へ通っていたのも、全ては貴族社会から逃げ出したかったがため。

彼女を気にかけたのも、仕事を押し付けられていて可哀相だという同情心から始まったのではないか。

ステインの性格を考えれば、十分にあり得ることだった。



「お前は何を言っているんだ、俺とリーシェは真実の愛で結ばれていて……」

「元婚約者を深く傷付けておいて真実の愛とは笑わせるな!」



さっきよりも激しく、二人の剣はぶつかり合った。

一撃一撃が今までのよりもずっと重い。



レイドもステインもとっくに全力を出し切っていた。

これ以上は体力が持たない、レイドはあと五分以内に決着を着けることを心に決めていた。



「俺はお前を……――絶対に皇帝とは認めない」

「……生意気な」



彼のその言葉に、ステインが大きく剣を振りかぶった。

レイドは彼の渾身の一撃を何とか受け止めた。



「婚約者すら幸せにできない男に、国民を幸せにできるわけがないだろう」

「……何を言っている、俺の婚約者はリーシェただ一人だ」



レイドは薄々勘付いていた。

ステインが婚約者だったアルセリアを本当は大切に思っていたことを。そのことに気付いたのは、皇太子妃宮の近くに位置するあの薔薇園を彼女のために作ったことを知ってからだったが。

ただ、優秀な彼女に対する劣等感ゆえ、素直になれなかったのだろう。



(今は顔を見るだけでムカつくからさっさと終わらせるぞ)



ステインの剣を受け止め続けていたレイドが、突然横に避けた。

予期せぬ彼の動きに、ステインは一瞬だけたじろいだ。

その瞬間を、レイドは見逃さなかった。



レイドは一瞬の隙を狙ってステインの右の手首を掴んだ。

そのまま、彼の手を逆方向に折り曲げた。



「ギャアアアア!!!」



あまりの痛みに、ステインがうめき声を上げた。

レイドは剣術だけではなく、体術においても達人だった。



「あ……あぁ……ううっ……」



利き手を折られてしまったステインは、よろめいた。

ステインの使う剣はかなり巨大で重みがあるため、片手では上手く扱うことができないのだ。

その瞬間、レイドが彼に飛び掛かった。



「――いい加減目を覚ませ、馬鹿が!!!」



まともに戦えなくなった彼を剣で斬る――のではなく、その拳で顔面を殴った。

後ろに倒れたステインを、レイドは馬乗りになって何度も殴り続けた。

彼の顔から血が噴き出し、ボコボコに腫れ上がるまで。



数十発殴り続けると、ステインは抵抗する気力も無くなったのかピクリとも動かなくなった。

レイドはそんな彼の髪の毛をひっつかんだ。



「お前、こっちに来い!!!」

「な、にをするんだ……」



レイドは動けないステインを無理やり立たせ、そのまま引きずっていく。



しばらくして二人がやって来たのは、皇太子妃宮の薔薇園だった。

レイドはステインをその真ん中に放り投げた。



「な、何だここは……」



彼は床に転がった状態で、その薔薇園を見回していた。



「……お前が、愛する女に贈ったものだ。覚えてないのか?」

「……ッ」



真っ赤な薔薇を視界に入れたステインは、頭が痛くなったのか額を手で押さえた。

何かを思い出せそうで、彼はしばしの間その場にうずくまっていた。



「ああ……うう……」



真っ黒な瘴気が彼から抜けていったかと思えば、ステインがゆっくりと顔を上げた。



「お、俺は……何を……?」

「……やっと我に返ったんだな。遅すぎるんだよ、全部」



レイドが呆れたようにステインを見下ろした。

一年間魅了魔法にかけられていたのだ、今の状況が理解できないのも仕方が無いだろう。



「――俺はチェリシアのところに行く。お前は医務室で寝とけ」

「……医務室?」



最後まで殴られていることに気付いていないステインが首をかしげ、レイドはそのまま近くにあった馬でロクサーヌ公爵邸へと向かった。




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