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処刑エンドの不幸な悪役令嬢に転生しました。何故か悪役皇子に執着されてます  作者: ましゅぺちーの


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9 聖女アンリーシェ

アンリーシェは驚いた顔でチェリシアを見下ろしていた。

チェリシアは突き刺さるようなその視線を感じながらも、そっと起き上がった。



「あなたは一体……どちら様ですか……?」

「あ、わ、私は……」



本当の身分を明かすべきか、チェリシアはとても悩んだ。

アンリーシェが原作のヒロインであり、チェリシアが悪役令嬢である以上、彼女とはあまり関わりたくない。



それに、公爵令嬢が一人でこんなところにいるのも問題だ。

スカートについた土を払ったチェリシアは、立ち上がってアンリーシェと視線を合わせた。



「チェリシア……といいます……」

「チェリシアさん……ですか?」



ロクサーヌ公爵家だということがバレていなければそれでいい。

チェリシアという名前を聞いても、アンリーシェは特別な反応を示さなかった。

貴族であれば誰しもがロクサーヌ家の令嬢だとわかるはずだが、平民上がりの彼女は知らなかったのだろう。



「ここへは一体何の用で?」

「ああ……たまたま近くに来ていたんですけど、遠くに綺麗な建物が見えたので……気になって来てしまったんです」

「あら、そうだったんですね!」



チェリシアの返答に、アンリーシェは安心したように笑った。



「ここは本当に煌びやかな場所ですよね。私も最初はあまりにも綺麗で、見惚れてしまったんです」

「ええ、そうですね。とっても素敵な場所だと思います」



チェリシアは笑顔で言葉を返した。



「あら、私ったら……まだ名乗っていませんでしたね」



アンリーシェは胸の前に手を置き、膝を曲げて礼をした。

貴族令嬢のカーテシーとは少し違う、聖女独特のお辞儀の仕方だった。



「アンリーシェと申します。元々は北にあるローザル村に住んでいたんですけど……諸事情あって聖女候補としてここへやってきました」

「……」



彼女の言う諸事情とは、叔父に多額の金銭と引き換えに売られたことだろう。

アンリーシェの目が、ほんの一瞬寂しそうに伏せられた。



「チェリシアさんは、どちらからいらしたんですか?」

「私は……首都から来ました」

「わぁ、そんな都会に住んでいるんですね!」



アンリーシェは羨望の目でチェリシアを見つめた。

田舎で育った少女たちにとって、首都は憧れの場所。

皇宮もあり、大聖堂もある。ベレニウム帝国の中心だ。



「チェシリアさんは、もしかしてお貴族様ですか?」

「……ええ、そうです」

「やっぱり!とっても綺麗なので、そうなんじゃないかって思っていたんです」



アンリーシェは予想が的中したことが嬉しいのか、照れたように笑った。

その姿は女であるチェリシアから見ても、愛らしかった。



(何だかステインがアンリーシェに惚れた理由がわかるような気がするわ……)



女の私でも惚れてるもの、そりゃあ男ならイチコロでしょうよ。

チェリシアはアンリーシェに顔を近付け、小声で囁いた。



「ところで、先ほどの話を聞いてしまったのですが……」

「さっきの話……?も、もしかして私が聖女に決まったということですか?」



チェリシアは無言のまま頷き、アンリーシェは狼狽えた。



「そ、それはまだ秘密のことで……!」

「ええ、わかっていますよ、アンリーシェ嬢。明日までは誰にも言いませんから安心してください」



アンリーシェは安堵の息を吐いた。

彼女が聖女として決まったのは、まだ公式に発表されていないことだった。



(まぁ、仮に広まってしまったとしても……それはステインのせいなんだけどね)



聖女は国中に発表されるまで本人にすら知らせないのが条例だ。

つまり、事前にアンリーシェに知らせたステインが全て悪いのである。



「ですが、これだけは言わせてください。おめでとうございます、アンリーシェ嬢」

「あ、ありがとうございます……チェリシアさん……」



アンリーシェは恥ずかしそうに頬を染めた。



「ところで、ステイン殿下と恋仲だったなんて知りませんでした」

「え?あぁ……ステイン殿下は、聖女候補たちの中で馴染めずにいた私にとても良くしてくださったのです」



ステインが、一人だけ平民のアンリーシェをどれだけ気にかけていたかは知っている。

漫画では、アンリーシェが嫌がらせを受けるたびに毎回彼女を助けていたし、彼女のことが心配で毎日のように神殿へ通っていた時期もあったほどだ。



「ステイン殿下にプロポーズされたシーン、見ましたわ。すごく素敵でした」

「あら、そんなところまで見ていたんですね……」



アンリーシェの頬が熟れたリンゴのように真っ赤になった。

かと思えば、今度は突然その顔から表情がすぅっと消えていった。



「ですが、何だか申し訳ないです……――私が()()からその座を奪ってしまったようで」

「……彼女?」



その言葉の意味がわからず、チェリシアは首をかしげて尋ねた。



「……どういう意味ですか?」

「あ、いえ、何でもないんです……今のは忘れてください」



アンリーシェはそう言うと、ニッコリ笑った。



(……何かしら?なんか変な感じ……)



チェリシアは目の前の無垢な少女に、奇妙な違和感を抱いた。



「それより、チェリシアさんはお貴族様なんですよね?それなら、皇宮で開かれる聖女お披露目パーティーにはいらっしゃいますか?」

「ええ、もちろんです。その前に行われる聖女認定式も行きますわ」

「本当ですか?嬉しいです」



それを聞いたアンリーシェはさっきと変わらない笑顔で喜んだ。

チェリシアが前世、漫画内で見た絶対的なヒロインの顔。

恐れを知らず、どんなときも明るく振舞うヒロイン・アンリーシェ。



(やっぱり、さっきのは私の勘違いだったのかな?)



漫画を最初から最後まで全て読んだ彼女は、アンリーシェがどれだけ善人かをよく知っている。

どれだけ理不尽な目に遭っても、一切文句を言わず誰も恨まないような心優しい少女なのだ。



「私が聖女だなんて未だに信じられません。その座が務まるかどうか……」

「大丈夫ですよ、アンリーシェ嬢。きっとステイン殿下が傍で支えてくださいます」

「そうですよね、殿下もそう言ってくれました」



アンリーシェは次代の聖女であり、次期皇后なのだ。



(リーシェを虐めていた聖女候補の令嬢たちはさぞ悔しい思いをしているでしょうね……)



チェリシアは心の中でニヒヒッと笑った。

アンリーシェを聖女だと知ったあの人たちの反応を見てみたいものだ。



「あら、もうこんな時間。そろそろ戻らないといけないみたいです」

「……何か用事が?」

「いえ、毎日三時にはお祈りのために聖女候補全員が神殿へ戻らないといけないんです」

「そういう決まりがあったんですね、初めて知りました」



聖女候補たちの生活には修道院のように厳しい規則があり、自由な行動ができなかった。



「チェリシアさん、お話できてとっても嬉しかったです。また機会があれば」

「ええ、こちらこそ。認定式で会えるのを楽しみにしています」



チェリシアは、差し出されたアンリーシェの手を握った。



(わぁ、すごい力強い……見た目華奢だけどパワーあるのね……)



アンリーシェは意外と握力が強いようだ。

チェリシアは何だか圧倒されてしまった。



「では次は認定式で!早く行かないと!」

「ええ、頑張ってください!」



チェリシアはアンリーシェが見えなくなるまで手を振り続けた。

彼女が去った後、チェリシアは無意識に顔を綻ばせた。



(アンリーシェ……癒しすぎるわ……)



あんな健気な子をどうやって貶めろというの。

やっぱり、私には悪役令嬢なんてできません!



レイド一人で勝手にやっててください!




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