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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 聖女アンリーシェvs悪女チェリシア

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79 不思議な感情 ステイン視点

「――ロクサーヌ令嬢は無事に家に帰ったか?」

「はい、殿下。ロクサーヌ家の馬車が皇宮から出て行くところを見届けました」

「そうか、ご苦労だった」



見張り役の騎士が部屋を出て行った後、椅子に座っていた彼はふぅと息を吐いた。



(それにしても、不思議な女だったな……)



レイドが婚約者にした理由は理解できないが、まぁどうせロクサーヌ家の持つ権力が目当てだろう。

アイツは何の利益ももたらさない女を傍に置くような男ではない。そのことをステインはよく知っていた。



「わざわざあの地下牢へ行きたがるとは、理解できないな……」



皇宮の地下牢は一言で言えば不潔な場所だった。

血が床や壁などの至るところに付着していて、常に悪臭が充満している。

ステインはあの場所に足を踏み入れたくもなかった。



そんなところに、高貴な家のご令嬢が行くということが到底理解できなかったのだ。

それも大罪人である神殿長に会いたがるとは。



(……まぁ、あの一件はロクサーヌ嬢に借りがあるからな)



ステインの手柄となっている神殿の件は実はアンリーシェとチェリシアのものだった。

チェリシアが彼の愛する女性を救ったということも、ステインは知っていた。

だから、特別に神殿長への面会を許可したのだ。



(レイドの婚約者に借りがあるのは何か不快だし……この一件でチャラだ)



彼は手元にあった紙をグシャグシャにしてゴミ箱へ投げ入れた。

ロクサーヌ公爵から届いた、謁見申請の書簡だった。



チェリシアなら内容を見もせずに捨てていただろうが、公爵ともなれば話は別だ。

公爵家から送られた正式な書状を、無視することは第一皇子である彼でもできなかった。



そのとき、部屋の扉がノックされた。

ステインはその場で返事をすると、ゆっくりと扉が開いた。



遠慮がちに顔を覗かせたのは――



「……リーシェ?」

「殿下!お会いしたかったです!」



顔を輝かせて中に入って来たのは、アンリーシェだった。

いつものように、聖女を表す白いドレスを着ている。



アンリーシェはステインに抱き着いた。

いつものように彼女の体から発せられるフローラル系の香りが――



(……何だ?この匂いは)



今日は何故か、不思議な香りがした。

普段滅多に嗅ぐことのない、血のような匂い。



「殿下?どうかなさったんですか?」

「いや……何でもないんだ」



彼は自身に抱き着くアンリーシェをそっと引き剥がした。

ステインがリーシェに対してこのように振舞うのは初めてだった。



「リーシェ……ドレスの裾に赤い何かが付いているぞ」

「…………あら?」



アンリーシェは聖女であるため、いつもほとんど装飾の無い真っ白なドレスを着用している。

そのため、汚れが付いているとかなり目立つ。



アンリーシェはドレスの裾を両手で持ち上げ、汚れた後ろの裾を確認した。



「本当だわ、全然気付かなかった」

「…………それ、もしかして血か?」



一騎士として戦場にも出たことのあるステインは、一目でそれが血だと気付いた。

彼の顔から血の気が引いていく。



「リーシェ、どこか怪我でもしているのか!?」



彼は慌てて彼女の体を確認した。

しかし、アンリーシェの体に目立った外傷はなかった。



「いえ、私はどこも傷付いていません」

「そ、それはよかった……」



ステインは安心したように笑った。

彼女が無事ならば、それでよかった。



「なら、何故ドレスに血が付いていたんだ?」

「多分……さっき騎士団の怪我人を治癒したことで付いたのかと……」

「そうだったのか」



聖女であるアンリーシェの仕事は、国のために祈ること以外に怪我人の治療なども含まれている。

最初は光魔法をまともに使えなかった彼女だが、今ではすっかり聖女として魔法を操れるようになっていた。



ステインはそんなアンリーシェの存在が誇らしかった。

目の前にいる彼女が愛おしくて、彼は思わず抱きしめた。



「お疲れ、リーシェ」

「ありがとうございます、殿下」



彼の腕に抱かれたリーシェは、愛らしく微笑んだ。

その顔はとても幸せそうで、何だか彼まで幸福な気持ちになった。



「殿下……私たちが初めて出会った日のことを覚えていますか?」

「ああ、もちろんだ。俺が、神殿の外で一人で掃除をしている君を見かけたんだ。あれほど美しい人は初めて見たから……今でも強く記憶に残っているよ」



ステインは興奮気味にそう答えた。



「私もよく覚えています、殿下に出会った日のこと……赤い瞳がとっても印象的でした――あの男にそっくりで」

「……リーシェ?」



アンリーシェの声が、突然低くなった。

ステインは疑問に感じ、彼女の顔を覗き込んだ。



その瞬間、彼女の青い瞳がギラリと鋭く光った。

体から黒い霧が放たれたかと思うと、一瞬にして彼を包み込んだ。



「……」



ステインは彼女の目をただ、ボーッと眺めていた。

思考が支配されていくような、不思議な感覚だった。



(……俺は何を、しているんだ?)



アンリーシェは何事も無かったかのようにステインの顔を見上げて尋ねた。



「ねぇ、殿下……私のことを愛してますか?」

「何を言っている、当たり前だろう」



彼は我に返り、そう答えた。

他のものは何も見えていない、彼がその瞳に映すのはアンリーシェだけ。



何故か、今はその思いがより一層強くなっているようだった。



「私も愛しています、殿下――」



アンリーシェはそう言いながら、彼の首に腕を回した。

彼女にそんなことをされると、全てがどうでもよくなった。

このままずっと、彼女の温かい体に包まれていたい。



ステインは呆然としたまま、彼女に向けての言葉を紡いだ。



「愛し……て……る……リーシェ……」



生臭い血の香りですら、今は何故かかぐわしく感じられた――




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