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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 聖女アンリーシェvs悪女チェリシア

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77 神殿長との面会

その後、多くいる近衛騎士から一人を選んだチェリシアは早速地下牢へと足を運んだ。

皇宮にある地下牢は、あの日見た神殿の地下室のように汚く、異臭がした。



(血がべっとりだわ……拷問の痕跡かしら)



何回来たところで慣れることは無いだろう。

彼女は長く続く地下牢の中間まで来ると、突然立ち止まって見張り役の騎士の方を振り向いた。

ゆっくりと近付き、懐から取り出したあるものを彼に渡した。



「騎士様、こちらはいつものお礼です……」

「何だ……俺にか?」



騎士はニヤッと口角を上げながら、その物を受け取った。

彼の手に握られていたもの――それは賄賂だった。



皇宮に勤務する下級騎士の一ヵ月分の給料を、チェリシアは何とその場で用意したのだ。



「しばらく一人にしてくれるかしら?」

「ああ、そうだな……俺は外の見張りでもしておこう」

「話が早くて助かるわ」



チェリシアはニコッと笑った。いつものような屈託の無い笑顔ではなく、意地汚い悪役令嬢のような笑みだった。



(やっぱり、私の予感は的中したわ。彼を選んで正解だった)



ステインは自身に忠誠を誓った近衛騎士たちが皇家を裏切ることなんてないと思っていたようだったが、やはりどこにでも性根の腐っている人間はいるものだ。



チェリシアが指名した騎士は、素行が悪いことで社交界では有名な人物だった。

そんな彼ならきっと、提案に乗ると思ったのだ。



「……彼は外へ出たことだし、私も行きましょう――神殿長の元へ」



騎士が見えなくなったのを確認すると、チェリシアは再び歩き出した。

皇宮の地下牢は、奥に行けば行くほどより罪の重い人間が閉じ込められている。



(あの人、見たことがあるわ……たしか妻への暴行殺人で終身刑が下されたんだったかしら)



ここに捕らわれている人間は、全員が重罪を犯している。

生きてこの場所から出られることはほとんど無いと言われるほどに、罪の重い者たちが入れられている。



歴史に残るほどの大悪党である神殿長は、最も奥にある一室に収容されていた。

そこに行くにつれ、だんだんと血の匂いが濃くなった。



――血だまりの中に、人が倒れていた。

凄惨な拷問を受けたのか、体中が傷だらけになっている。着ていた灰色の服は、至るところが血で赤く染まっている。



「……ずいぶん落ちぶれましたね、神殿長」

「……お前は」



その声で神殿長は顔を上げた。虚ろな目がしばらく泳いだあと、チェリシアを捉えた。

言われなければ誰だかわからない。以前の高潔な姿は見る影も無かった。



彼はチェリシアを見ると、ゆっくりと口を開いた。



「……私を始末するためにここへ来たのか?生憎だが、もう私の死刑は決まっている。放っておいたところでどうせ死ぬ命。わざわざ高貴なご令嬢が手を下す必要なんてない」



そう言うと、彼は瞳を閉じた。

体が辛いのはわかるが、寝てもらっては困る。



「神殿長、あなたにお聞きしたいことがあります」

「……何だ」



痛みで眠れなかったのか、神殿長は目を開けた。

そんな姿を見てもなお、チェリシアは全く同情できなかった。



全てが自業自得だった。彼はそうやって死ぬまでの残り少ない日数を苦しんで過ごすべきである。



「私が今回お聞きしたいのは――聖女に関することです」

「……」



気のせいか、神殿長の体がピクリと動いた。



「聖女候補たちの定義は、光魔法を持つ十代後半の若い少女たちということになっています。ですが、私はそれを信じていません。本当は何ですか?」

「……いきなり、物凄いことを聞いてくるんだな」



神殿長はハッと笑うと、力尽きたようにポツリと呟いた。



「私は……一体いつから間違えたんだろうか」

「何を言って……」

「今さら悔いたところで何の意味も無いな」



悲しげに放ったその一言を、チェリシアは聞き逃さなかった。



「私の質問に答えないつもりですか?」

「そうだな……どうせ死ぬんだ。少しだけ……昔話をしよう」



その言葉を皮切りに、神殿長は自身の過去について語り始めた。

体をそっと起こした彼は、さっきよりもかなりマシになった目でチェリシアを見上げた。



「私は……帝国の公爵家という高貴な家の長男として生まれ、父の反対を押し切って神殿に入り、神に仕えた」



神殿長は、何も最初から歪んでいたわけではなかった。

高い身分を鼻にかけて傲慢に振舞うこともせず、ただ一神官として真面目に働いていた。



『お前、何で公爵家の出身のくせにこんなとこで働いてるんだ?俺には到底理解できない。身分を利用して皇宮の文官にでもなればいいものを。あそこは楽な仕事の割にはなかなか高給取りだって聞くぜ?』



同僚がそんな疑問を口にした。

当時、神殿は今のように権力を持っていなかった。

行き場に困った低位貴族の次男や三男たちが、仕方なく働きに出る場所として広く知られていた。



『ここで働くのは私の幼い頃からの夢なんだ。私は神を崇拝している。昔、神に救われたことがあったからだ』



彼は幼い頃、原因不明の病にかかっていた。

その病を治したのがまさに、神官だった。十歳まで生きられないと言われていた彼がこうして元気に過ごせているのは、その神官――及び彼が仕える神のおかげなのである。



『じゃあ結婚も爵位継承もしないんだ?』

『ああ、私は神と結婚する。公爵家は弟に継がせることにするよ』

『……ホンット、理解できないな』



同僚は呆れたように彼を見つめた。

平凡な貴族令息たちが多く集まる中で、公爵家出身の彼はあまりにも異質な存在だったのだ。



『俺はもうやめたいよ、こんな仕事。男児のいない家門の貴族令嬢と結婚できないかな』

『やめたければ好きにすればいい、私は一生ここで働き続ける』



彼の熱意は、周囲の同僚たちも思わず引いてしまうほどだった。

そんな思いが上に届いたのか、彼は早い段階で出世し、異例の若さで神官長まで上り詰めた。



神殿長は全てにおいて完璧だった。

高い身分と真面目な性格に加え、彼の魔法の腕は一流で、光魔法を自由自在に操ることができた。



(私はこのまま上まで駆け上がるぞ!神殿長になり、困っている人々のために尽くすんだ!)



得意の光魔法を使い、困っている人々を助けたい。

彼が遠い昔に抱いていた、今はすっかり泡となって消えてしまった夢だった。



今では到底信じられないが、神殿長はそのときまでは全うな人間だったのだ。



――彼の前に、一人の女が現れるまでは。




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