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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第三章 聖女アンリーシェvs悪女チェリシア

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76 ステインに謁見

一度ロクサーヌ公爵邸へ帰宅したチェリシアは、父親の元を訪れた。



「――お父様、失礼します」

「……チェリシア?」



執務中でメガネをかけていた父親が頭を上げた。

彼はチェリシアの突然の来訪に驚きを隠せなかった。彼らは決して、仲の良い親子ではなかった。

むしろ、二人の間にはまだまだわだかまりがある状態だ。



しかし、一度に妻と娘の両方を失った公爵にとって残った家族はチェリシアだけだった。

マリーナは北方の修道院から出られず、妻レイチェルもまともに話が通じる状態ではないと聞く。

チェリシアは二人の悲惨な末路を知ったところで、別に何とも思わなかった。



彼女は目の前にいる父親から目を背けた。



「実は……早急にお願いしたいことがあります」

「お前が私に頼みごとをするとは……珍しいな」



公爵は言ってみろ、と目で合図を送った。

チェリシアは決意を固め、父と目を合わせた。



「――お父様、ステイン殿下への謁見を……申請して頂きたいのです」

「……ステイン殿下に?チェリシア、本気なのか?」



父親は驚いたように目を見張った。

その瞳には、僅かに心配の色が滲んでいた。



チェリシアはステインの宿敵であるレイドの婚約者。ステインと関わって良いような人間ではない。

当然、チェリシア自身もそのことをよく理解している。



しかし、彼女の意思は揺らがなかった。



「お父様、私はどうしてもステイン殿下に会いたいんです」

「……お前がそこまで言うのなら、私が殿下に掛け合ってみよう」



父はチェリシアのやることにいちいち口出しをしない。

少なからず、彼女を信用しているからだ。チェリシアはマリーナのように愚かな真似は絶対にしないのだと。



父から色よい返事を貰えたチェリシアは、安心したように笑った。



「ありがとうございます、お父様」



公爵はその後すぐに、皇宮に一通の書簡を送った。

まさに、ステインへの謁見を申請するものだった。



(私が送っても断られる可能性が高いから……助かったわ)



いくら第一皇子であれど、名門ロクサーヌ家の当主からの謁見申請を無視したりはしないだろう。

権力を持つ者ほど、いかなるときも慎重にならなければならないのだ。



「ていうか、ステインに対して何て言うか全然考えてないんだけど!?どうしよう!」



そして、その日はすぐにやって来た。



***



二日後、第一皇子が暮らす宮殿。

その中にある一室にて、チェリシアは蛇のような男と向き合っていた。



「――ベレニウム帝国の輝く星、ステイン第一皇子殿下にご挨拶申し上げます」

「……顔を上げろ」



頭上から聞こえた不機嫌そうな声に、チェリシアはゆっくりと顔を上げた。

真顔でこちらを見下ろすステインが視界に入った。いつもの正装姿ではなく、今日は白いシャツにズボンという軽装だった。



あぁ、やっぱり機嫌が悪そうだ。私の勘はよく当たる。

このときだけは外れてほしかったのにな。



「お久しぶりでございます、ステイン殿下」

「前に会ったのはチャリティーパーティーのときか。あのときはずいぶん好き勝手言ってくれたな」

「あのとき……」



あぁ、そうだ、どうして忘れていたんだろう。

チェリシアは前のチャリティーパーティーで、ステインのことを憐れだと言った。



「あのときは大変失礼致しました……私も深く反省しております」

「そうだな、アンリーシェがいなければ俺も何をしていたかわからない」



その一言で、チェリシアの背筋が凍ったのは言わずもがな。

ステインはアンリーシェにワインをかけた原作アルセリアを修道院送りにし、彼女に横恋慕して体に触れた令息の手を切り落とした。

普段は品行方正な皇子として知られている彼だったが、アンリーシェのことになるとたちまち理性を失ってしまうのだ。



「それで、今日は何をしに俺の元へ来たんだ?」

「殿下に、許可を頂きたく謁見を申請致しました」

「……許可だと?」



ステインが眉を上げた。

チェリシアが何かとんでもないことを言うつもりなのではないかと思っているようだ。



「――皇宮の地下牢に閉じ込められている神殿長への面会を申請したいのです」

「…………神殿長への面会?」



予想外だったのか、ステインは頬杖をついたまま固まった。



「神殿長に会うだなんて、何を考えている?」

「殿下は私が脱獄の手伝いをするとでも思っているのですか?」



その視線に込められた意味を、ステインは瞬時に理解した。

ステインの手柄となっているあの一件は、実際はアンリーシェとチェリシアのものだった。



(何だか、私がステインを脅迫しているみたいね……)



アンリーシェはともかく、チェリシアに功績を挙げられたというのが気に入らないのだろう。

彼は黙り込み、部屋に重苦しい沈黙が流れた。

ステインの心が揺れているであろう、その隙を狙ってチェリシアは口を開いた。



「殿下、神殿長への面会を許可していただければ……」

「――ロクサーヌ令嬢、レイドと婚約しているからと言って調子に乗りすぎではないか?」

「……ッ」



ステインから放たれる冷気に、チェリシアはビクッと肩を上げた。

カッと目を見開き、彼女を見つめるその顔はまるで蛇のようだった。



ステインは椅子から立ち上がり、ゆっくりとチェリシアに近付いた。

至近距離で顔を見ると、まるでレイドのような冷酷さをチェリシアは瞬時に感じ取った。



(さ、さすがにマズいかな……!?)



膝を床について頭を下げようとしたそのとき、ステインがクルリとチェリシアから背を向けた。



「――いいだろう、許可する」

「ほ、本当ですか……?」



あまりにもあっさりとした了承の返事に、チェリシアは拍子抜けした。



「あぁ……今からでも行ってくればいい。ただし、面会は牢獄の中からだ。近衛騎士を一人監視としてつけるから、それだけは覚えていろ」

「感謝致します、殿下……あと一つだけ、私からよろしいでしょうか?」

「……何だ?」



彼女から距離を取ったステインが振り返った。



「監視役の近衛騎士は、私が選んでもよろしいでしょうか?」

「……?そんなことをして何の意味があるんだ、好きにしろ」



それだけ言い残すと、彼は興味がなさそうにチェリシアの前から立ち去って行った。




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