64 神殿長vsアンリーシェ、チェリシア
その頃、パーティーホールではアルセリアが会場の中である人物を探し回っていた。
「リシアったら、どこに行ったのかしら……」
彼女は姿の見えないチェリシアのことを心配していた。
ダンスをしていて彼女がいなくなったことに、全く気付かなかったのだ。
「あと少しで夜の部が始まってしまうというのに……帰ってしまったのかしら?」
そして別のところでは、ステインがアンリーシェを探していた。
「リーシェがどこに行ったか知らないか?」
「い、いえ……私たちは見ておりません」
険しい顔で尋ねるステインに、令嬢たちは慌てて首を横に振った。
彼は苛ついた様子で髪の毛をかき上げた。
「もうすぐオークションが始まる……私は捜索に加われないな……」
今すぐにでもアンリーシェを探しに行きたかったが、どうしても外せない用があった彼は騎士たちに彼女の捜索を命じた。
***
一方、アンリーシェとチェリシアは神殿の地下室で神殿長と対峙していた。
「し、神殿長様……!?」
ルチアナはまるで救いの神でも見るかのように、目を輝かせて牢屋の鉄柵を掴んで揺らした。
「神殿長様!どうか助けてください!神官たちにここに閉じ込められてしまったのです!他にも犠牲になっている子たちがいます!どうかお助け――」
「……口を閉じろ、煩わしい」
「………………え?」
冷たく吐き捨てられたその一言に、彼女の目から光が消えた。
「未だに自らの置かれた状況を理解していないとは、愚かにもほどがあるな」
「神殿長様……?」
呆然とする彼女に、アンリーシェが現実を突き付けた。
「ルチアナ、あの人は最初からずっとああいう人だったのよ。善人の皮を被った悪魔ね」
「そ、そんな……嘘よ……神殿長様はいつも優しく私たちを見守ってくれていて……」
「社交界に流れている神殿に関する黒い噂、あれは全て事実よ。神殿長は聖人なんかじゃない、極悪卑劣な犯罪者だったのよ」
アンリーシェはその間にも拘束を解こうとするが、なかなかうまくいかない。
「神殿長様……嘘ですよね……?」
「……」
神殿長は何も答えなかった。その反応がまさに、肯定を表していた。
ルチアナの顔が、みるみるうちに青くなっていく。
「そんなぁ……なら、女の子たちが毎日のようにいなくなっているのも……」
「おそらく、神殿長の命令で売り飛ばされていたのでしょう」
チェリシアが発した一言は、ルチアナにとっては残酷極まりないものだった。
彼女は神殿長の正面に立ち、彼を真っ直ぐに見つめて尋ねた。
「神殿長様……いえ、神殿長。どうしてこのようなことをするのですか?やはり、神殿内部の情報漏洩を恐れているのですか?」
「……それをお前に答える必要はないな」
神殿長はその質問には答えなかった。
無言のまま、二人の視線がぶつかり合う。
「――無駄よ、チェリシア」
「……リーシェ?」
ようやく拘束を解いたアンリーシェが、チェリシアに近付いた。
「あの人は生粋の悪人、何を言っても意味が無いの。自分は間違ったことをしていないのだと、信じて疑わないんだから」
「そんな……」
アンリーシェはチェリシアを後ろに下がらせると、自ら神殿長と向き合った。
「アンリーシェ、お前は一体どこまで知っているんだ?」
「……あなたがやってきた悪事ならほとんど知っているわ……地下に候補だった者たちを閉じ込めていることまでは知らなかったけどね」
「そうか……聖女候補として暮らしている間ずいぶん余計なことをしていたようだな」
神殿長はアンリーシェを鋭く見つめた。
その目を見ただけでわかる、彼はチェリシアとアンリーシェを生かしておくつもりなど無いのだろう。
「聖女とはいえ、秘密を知られた以上容赦はしない……」
その瞬間、神殿長は何らかの呪文を唱えた。
四方八方から現れた光の縄が、物凄い速度でアンリーシェに向かって伸びていく。
「二度はかからないわよ!」
アンリーシェはそれを何とか避けた。
光魔法を使える人間はアンリーシェを含めて複数人いるが、神殿長の魔法はレベルが違う。
(神殿長はもうかなりご高齢だと聞いているけれど……まだまだ魔力は衰えていないのね)
言い換えるなら、彼はこの国で最も強力な光魔法の使い手だった。
いくら聖女とはいえ、年若い少女が勝てるような相手ではなかった。
「下賤な生まれのせいか、身体能力が高いな」
侮蔑の言葉を浴びせながら、神殿長は攻撃の手を緩めなかった。
次々と呪文を唱えては、アンリーシェに向けて仕掛けていく。あまりにも強力な攻撃魔法が続き、アンリーシェは防ぐことで手一杯だった。
「リーシェ!!!」
チェリシアは見ていられなくて飛び出そうとしたが、彼女の元にも神殿長による攻撃は降り注いだ。
「キャアッ!」
彼女は何とか床に転がってそれらを避け切った。
アンリーシェも光の盾で何とかガードしているものの、攻撃を食らいすぎているせいか、盾はもう限界だった。
神殿長は盾を破壊しようと、アンリーシェにのみ集中攻撃をしている状況だった。
その隙を、チェリシアは好機と捉えた。
(そうよ……必ず一対一で戦わなければいけないってわけじゃない……極悪人には、卑怯な手を使ってもいいはずだわ!)
チェリシアは傍にあった長い棒を手に取り、神殿長に向かって駆け出した。
思いきり棒を振り上げると、それを神殿長に向けて振り下ろす。
「……!」
しかし、流石は歴戦の猛者。
潜り抜けてきた修羅場の数が違うのだろう。彼は片手でチェリシアの棒を難なく受け止めた。
「キャアッ!」
神殿長は掴んだ棒をチェリシアごと床に倒した。
彼女は床に転がり、声を上げた。
「貴族令嬢とは思えないほど活きがいいな……ならお前からやってやろう……」
「……」
神殿長がチェリシアの太ももを踏みつけた。
絶体絶命だと思われたが、彼女はそんな彼にニッコリと笑った。
「……?」
何かがおかしいと思ったときには、既にアンリーシェが彼に向けて魔法を唱え始めていた。
神殿長はすぐに避けるためその場から動こうとするが、チェリシアが彼の足を両手で抱きしめた。
「は、離せ……!」
「リーシェ!!!」
チェリシアのその叫びと同時に、準備を整えたアンリーシェが彼に向けて魔法を放った――




