63 監禁された少女たち
「この子は……一体……」
チェリシアはあ然としたまま、目の前にいる少女を見下ろしていた。
白い服は汚れていて、何日も風呂に入っていないのか髪の毛はボサボサだった。
まるで罪人であるかのように、彼女はそこに閉じ込められていた。
あまりにも惨たらしいその姿に、チェリシアは目を背けたくなってしまった。
「……この子、どこかで見たことがあります」
「し、知り合いなんですか?」
「……そうだ、聖女候補の一人だった気がします」
アンリーシェは思い出した、とでもいうかのように呟いた。
「聖女候補の一人……ということはやっぱりあの噂は本当だったのですね」
「……ええ、一応本人に話を聞いてみた方がいいでしょう」
チェリシアはアンリーシェの言葉に頷き、少女と視線を合わせるようにそっとしゃがみ込んだ。
彼女はチェリシアを敵だと思っているのか、ビクッと身体を震わせた。
「私たちはあなたの敵ではありません。あなたたちを助けに来たんです」
「助けに……?」
少女を安心させるため、穏やかな口調で話しかけた。
「そのために聞かせてほしいことがあります。あなたはどうしてここにいるのですか?」
「私は……」
敵ではないと知って安心したのか、彼女はゆっくりと話し始めた。
「私は、元々聖女候補の一人としてここへ来ていたんですが……聖女が決まった途端にここへ閉じ込められてしまったんです」
「閉じ込められた、とは……」
「理由は私にもわかりません……ですが、神殿長様がそう命じたのだと聞きました。あんなに優しかった神殿長様がどうしてそのようなことをするのか……」
彼女たちは未だに神殿長を誠実な人だと信じていた。
もちろん、チェリシアやアンリーシェだって最初はそう思っていただろう。
(神殿長は外面だけはいいのよね……内面は真っ黒だけど)
アンリーシェは一言も発することなく、少女の話をじっと聞いていた。
「いつかは神殿長様がここへやって来て、助けてくれるのだと信じていましたが……どれだけ待ってもその日は来なくて……むしろ、一日が過ぎるごとに人が消えるんです」
「人が消えるとは……一体どういうことですか?」
チェリシアは前のめりになって尋ねた。
「さぁ、詳しくはわかりませんが……夜寝ていて、目が覚めたら隣の房に入れられていた子がいなくなっているんです。一度だけではありません、そういうことが何度もあって……」
そこで、しばらく黙り込んでいたアンリーシェが口を開いた。
「――間違いなく人身売買ですね」
「リーシェ……」
一歩前に出たアンリーシェを、少女は驚愕の表情で見上げた。
「あ、あなた……もしかして、アンリーシェ!?どうしてこんなところに!?」
「……久しぶりね。ずいぶん変わったみたいで驚いたわ。ルチアナ……で合ってるかしら?」
「……ええ、そうよ。私を覚えていたのね」
アンリーシェは元々聖女候補であるため、当然彼女のことを知っているだろう。
しかし、二人の間に流れている空気は友人同士のものではなかった。
「覚えているかだなんて……当然でしょう?あなたに足を引っかけられて転んだことも、水をかけられてずぶ濡れになったことも全部記憶に深く刻まれているんだから」
「……」
どうやらルチアナというこの少女は、聖女候補時代にアンリーシェを虐めていた一人のようだ。
ルチアナは気まずそうに視線を逸らした。
(そのことについてはきっちり反省してもらわないとね)
「ずいぶん落ちぶれたわね、ルチアナ。あのときはみんなをまとめるリーダーだったのに」
「……いいわよね、あなたは。聖女になれて、今は皇子殿下の婚約者でもあるんでしょう?」
嫉妬が宿る目を真っ直ぐに向けられたアンリーシェは、無感な瞳で見つめ返した。
「……私も最初はそう思っていたわ。でもね、案外羨ましがるほどのことでもないって……あとになって気付いたのよ」
「アンリーシェ……?」
何故か、その瞳はとても悲しそうだった。
「ルチアナ、あなたを始めとしたここにいる全員を助けてあげるわ」
「ほ、本当……?」
「ええ、あなたに恨みはあるけれど……他人にここまでされる筋合いはないはずよ」
ルチアナの目が希望の光を宿した。
前に出たアンリーシェが光魔法で牢の鍵を開けようとしたそのとき――
「――こんなところで何をしている?」
「……!」
その瞬間、アンリーシェの光魔法が突然制御された。
「グッ……!」
「リーシェ!」
彼女の腕は何者かによって作られた糸で縛り上げられ、魔法を使用することができなくなった。
アンリーシェは何とか抜け出そうとするも、ビクともしない。
「――アンリーシェ、見損なったよ。お前がこんなことをするとはな」
カツカツという足音と共に、ある人物がチェリシアたちに近付いてくる。
チェリシアはすぐさまアンリーシェを守るように、前に出た。
そこにいたのは――
「…………神殿長?」




