62 神殿の地下室
しばらく歩くと、神殿の端の方までやって来た。
(何となく想像はついていたけれど……神殿ってとっても広いのね……)
チャリティーパーティーが行われているのは敷地内にある別棟のホールの中だ。
ホールと神殿は一本道で繋がっていて、前に聖女認定式が行われたのがまさに神殿の一階である。
(そして私は何故か、二階に来てしまったのよね……)
前世でも方向音痴だったせいか、チェリシアはとんでもないところに足を踏み入れてしまった。
それから少しして、階段のところに差し掛かった。
「今から一階へ降ります。おそらく神官がたくさんいるでしょう」
「だ、大丈夫なんですか……?」
「ええ、私の魔法で短時間だけであれば神官たちを眠らせることができます。その前の記憶は無くなるので、ご心配なく」
「それは心強いですね」
一体アンリーシェはどれだけの魔法を使えるのか。
魔力の弱いチェリシアでは到底敵わないだろう。
一階へ降りると、アンリーシェの言った通り、神官たちが何人も立っていた。
「ア、アンリーシェ様!?一体どうしてこちらに……」
「……」
アンリーシェは神官たちの言葉を無視したまま呪文を唱えた。
彼女の手から黒い霧のような物が現れたかと思えば、そのまま神官たちを飲み込んでいく。
霧が全て消えた頃には、神官たちは床に倒れ込んでいた。
「一時的に意識を失っている状態です。数分で目覚めるでしょうから、早く行きましょう」
「はい」
チェリシアは倒れた神官たちの横をすり抜け、前に進んだ。
(変だな……前は光だったのに……今はまるで闇みたいだった……)
――偶然か、それはあの事件が起きた日、教会内を取り囲んだ黒いモヤとそっくりだった。
もしかすると、本当にあの一件はアンリーシェが仕組んだのだろうか。
そのような疑念がより一層強くなっていくものの、今は彼女しか頼れる人がいない。
せっかくここまでしてもらっているのに、疑ったままついて行くというのはいくら何でも失礼だ。
(私はアンリーシェを信じるわ)
――少なくとも、今自分の目の前にいるアンリーシェは信用に値する。
チェリシアはそう信じ、彼女のあとを歩き続けた。
「アンリーシェ、地下室への鍵は持っているんですか?」
「いいえ、地下室へは鍵では行くことができません」
「鍵がない……とはどういうことですか?」
アンリーシェはチェリシアを一瞥すると、表情を変えることなく答えた。
「――それは行けばわかります」
***
アンリーシェが立ち止まったのは、一階の廊下の突き当たりだった。
そのときになってようやく、チェリシアは彼女の言っていたことを理解した。
「鍵が無いって……そういう意味だったんですね」
「ええ、そもそも扉が存在していないので鍵は必要ありません」
「隠し扉ということでしょうか……何か後ろめたいことがあると言っているようなものですね」
アンリーシェは何も無い壁にそっと手を置いた。
「――この扉は、光の魔力で開く仕組みになっているんです」
「光の魔力……?どうしてそのような仕掛けが……」
「さぁ?神殿ですからね。大昔に作られたものですし、何故こんな扉があるのかは神殿長も知らないでしょう」
しばらく手を当て続けると、突然突き当たりに謎の扉が現れた。
「地下室への入り口です。行きましょう」
アンリーシェが扉を開けると、中は真っ暗だった。
チェリシアは不安になったが、アンリーシェは迷うことなく進んでいく。
そんな彼女の姿に、チェリシアも覚悟を決めた。
(リーシェを一人にするわけにはいかないわ!私が言い出したんだから、私も行かないと!)
チェリシアはそっと、暗闇の中へ足を踏み入れた――
中へ入ると、異常なほどの悪臭が鼻をついた。
それに加え、足元に水が流れているのか歩くたびにピチャピチャと音が鳴った。
真っ暗で、アンリーシェの姿すら見つけることができない。
「わ、私!携帯用のライトを持ってます!」
「……そんなものを、常に持っているんですか?」
「念のためですよ、念のため」
チェリシアは懐からライトを取り出し、辺り一帯を照らした。
すると、壁や地面にこびりついた血が鮮明に映し出された。
「血……?どうして……」
「やっぱり、何か不吉な予感がしますね」
アンリーシェは鼻を手で押さえながら言葉を発した。
とても人が住んでいるようには思えない、こんな場所に一体何があるのか。
チェリシアは進む道をライトで照らしながら、歩き続けた。
「一体何があるんでしょうね」
「さぁ……私もここには来たことがありませんから」
チェリシアはアンリーシェを庇うように、前を歩いた。
こちらの我儘でついて来てもらった以上、彼女に怪我をさせるわけにはいかない。
「アンリーシェ、私から離れないでくださいね」
「……あなたよりかは私の方が強いと思います」
しばらく歩き続けると、チェリシアはどこからか人の気配を感じた。
アンリーシェもそれを感じ取ったのか、魔法を使う準備をした。
(あそこから音がするわ……!)
チェリシアは、自身に向けられる視線を一瞬で感じ取り、その場所にライトの光を当てた。
「だ、誰……!?眩しい……!」
「あ、あなたは……?」
見知らぬ少女の声が、ハッキリと聞こえた。
チェリシアの照らすライトの先にあったのは、鎖で首を繋がれて拘束される少女の姿だった――




