57 チャリティーパーティー①
一週間後、チャリティーパーティーが開催される日となった。
チェリシアは父親から贈られたドレスに身を包み、馬車に乗り込んだ。
今回、パーティーに行くのはロクサーヌ家ではチェリシアだけである。
マリーナがいたところで、彼女はそのような会に興味はないし、父も仕事で来れなかった。
そのためいつもマリーナたちが使っていた豪華な馬車は、今日彼女が独占していた。
(アンリーシェとステインは間違いなく参加しているはず……)
実は、チェリシアがパーティーに行くことを決めた目的はまさにアンリーシェだった。
チェリシアはレイドからアンリーシェがあの一件の黒幕かもしれないということを聞いたそのときから、彼女のことが気になって仕方が無かった。
(アンリーシェが聖女という立場である以上、前のように気軽に会いに行くことはできない……)
この世界が原作通りに進んでいるのなら、間違いなく彼女はチャリティーパーティーに訪れる。
時空の杖はどうせ彼女の物になるのだから、最初から狙ってすらいなかった。
チェリシアの目的はただ一つ。
アンリーシェと話し、彼女の真意を探ること。
もし、アンリーシェが危険な人だったとしたら――
(遅かれ早かれ、彼女と対峙することになるんだろうか……)
原作のようにステインとアンリーシェ対レイドとチェリシアが実際に起きてしまう。
彼女はそれだけは何とか避けようと、奔走してきた。
しかし、そうはいかないのかもしれない。
強制力か何かが動いているのなら、そのような未来が確実に訪れるだろう。
しばらくすると、馬車は神殿へ到着した。
「チェリシアお嬢様、到着しました」
「ええ、ありがとう」
チェリシアは御者に礼を言うと、馬車から降りた。
彼女の目の前に、この国で皇家に引けを取らない権力を持つとも言われる神殿が広がった。
(あの日よりも活気が溢れているわ……今日がパーティーの日だからかしら?)
年に一度のチャリティーパーティーが開かれるからか、周りには神殿を象徴する旗がいくつも掲げられていた。
「チェリシア・ロクサーヌです」
「どうぞお入りください」
彼女は入口の扉の前で神官の一人に挨拶をした後、中へ通された。
前に訪れたときと、あまり変わっているところがない。
(中は思ったより普通なのね……王宮で開かれる舞踏会みたい……)
既に貴族たちが集まっており、今か今かとパーティーが始まるのを待っていた。
参加している貴族たちがどこかソワソワしているように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
今日ここへ訪れた貴族たちが狙っているのは皆同じ。
時空の杖。それを手に入れるために参加しているのだ。
適当に神殿内をうろうろしていると、突然声をかけられた。
「――あら、リシアがこんなところにいるだなんて!」
「……その声は」
振り返ると、そこに立っていたのはアルセリアだった。
仲の良い友人に会えたという安心感からか、チェリシアはパァッと顔を輝かせた。
「リア!」
「久しぶりね、リシア」
いつものように華やかな姿でパーティーに参加していたアルセリアは、ワイン片手にニッコリと微笑んだ。
「ところで、リシアがこんなところに来るということは……あなたもやっぱり例の物が目当てなのかしら?」
「そ、そんなことないわよ!ただちょっと会いたい人がいただけで……」
「冗談よ、冗談。リシアはそんな強欲な人じゃないってこと、ちゃんとわかってるから」
アルセリアはフフッと笑った。
例の物とは、まさに時空の杖である。
「リアはどうしてこんなところに?」
「私は皇太子妃として情報を集めるために、いつもこういう会にはできるだけ参加していたのよ。まぁ、もうその必要もなくなったけれど……そのときの癖みたいな?」
「なるほど」
チェリシアもアルセリアも、時空の杖には全く興味がない。
まぁ、どうせアンリーシェの物になるのだから、欲しがったところで意味がないのだが。
「でもきっとここにいる多くの人が、例の物を目当てに訪れているでしょうね」
「ええ、そうよね……」
「まったく、あんな物を手に入れて何に使うんだか……理解できないわ」
貴族たちは欲深い人間が多く、他者を貶めてでも成り上がりたいと思う者もたくさんいる。
時空の杖を手に入れ、時空間を移動することによって得られるものは大きい。
今日ここへやって来た貴族たちはそれを狙っているのだろう。
(それより、神殿がどうやってそんな貴重なものを手に入れたのかが気になるわね……)
黒い噂が絶えない神殿のことだ。
何か違法なことでもしているのではないだろうか、と疑ってしまう。
「オークションは夜に開催されるそうよ。今からはしばらくダンスパーティーが行われるみたい」
「そう、楽しみね」
「リシア、オークションは初めて?」
「ええ」
チェリシアが頷いたそのとき、周囲からワァッと歓声が上がった。
「――第一皇子ステイン殿下と、聖女アンリーシェ様よ!」
「「……!」」
チェリシアはアンリーシェの名に、アルセリアはステインの名にそれぞれビクリと反応した。




