55 パーティーの準備
レイドからアンリーシェの話を聞いた一週間後。
ふとあることを思い出したチェリシアは、ポツリと呟いた。
「そういえば、もうすぐ神殿でチャリティーパーティーが開かれる時期だったわよね?」
「え、あ、はい……」
独り言のつもりだったが、部屋にいる侍女が反応を示した。
(あ……いつも無視されてたから癖で声に出しちゃってたわ……)
侍女は顔色を窺うように彼女をチラチラと見ていた。
まるで虐められているかのようなその反応に、何だか腹が立つ。
虐めていたのはチェリシアではなく、紛れもなく彼女たちの方なのだ。
「いつ開かれるんだっけ?」
「い、一週間後だとお聞きしております……お嬢様、チャリティーパーティーに行かれるのですか?」
「そうねぇ……」
――神殿が主催するチャリティーパーティー。
毎年開催されている、社会福祉のための資金を集めることを目的としたパーティーだ。
開催されるオークションの利益や、参加費などは全て孤児院や病院への寄付に当てられる。
……というのが表向きだが、実際はわからない。
神殿には昔から黒い噂が絶えないからだ。
寄付金を着服しているだとか、どこかの貴族と繋がって皇家と敵対しようとしているとか。
まぁ、それらも全て噂に過ぎないので真偽は不明である。
チャリティーパーティーは王宮で開かれる舞踏会のように、貴族全員が参加するというわけではない。
しかし、最近は参加する貴族が増えているのだという。
――特に今回のチャリティーパーティーは、多くの貴族がオークションにかけられると噂のある物を狙って訪れるだろう。
「そう、その噂はたしかよ……原作でも出てきたもの……」
原作内で、アンリーシェが幻想魔法にかけられたステインを救い出すときに使った魔道具。
――時空の杖。
レイドが持っていた幻想の杖と同じ類の魔道具であり、それを使えば時空間を移動することができるという特性がある。
アンリーシェは幻想の世界に閉じ込められたステインを救うため、時空を移動して彼に会いに行ったのだ。
(そこからのアンリーシェの説得が一番の見どころだったわ……愛するステインを何としてでも現実世界へ連れ戻そうとするところはまさに純愛って感じで……)
原作内では、オークションに勝利したのは第一皇子ステインだった。
彼はやっとの思いで手に入れた杖を、何の迷いも無くアンリーシェにプレゼントするのだ。
時空の杖はこの世にたった一つしか存在しない、大変貴重なものである。
「……アンリーシェが来るのなら、行ってみようかしら?」
「お嬢様?」
侍女がきょとんと首をかしげた。
「一週間後のチャリティーパーティーに行くことにしたの」
「そ、それは本当ですか?」
「何か問題でも?」
「い、いえそういうわけでは……お嬢様はそういうものには興味が無いとばかり思っていたので……」
転生前のチェリシアは引っ込み思案で、不要な外出はしない性格だった。
そのため、彼女がそのような反応になるのも当然かもしれない。
「パーティーに向けての準備をしましょうか?」
「……そうねぇ、そうしようかしら」
チェリシアのその言葉に、侍女は嬉しそうにパァッと顔を輝かせた。
***
それから数日後、チャリティーパーティーに向けての準備をしていたチェリシアに、予期せぬ贈り物が届いた。
「――お嬢様、こちらは旦那様から贈られたドレスです」
「……お父様から?」
つい昨日、父親に近いうちに神殿で開かれるチャリティーパーティーへ行くつもりだということを話したばかりだった。
反対されることも覚悟していた彼女だったが、案外すんなりと許可を取ることができた。
そして今日、彼女の元には父親から十着近いドレスを贈られたのだった。
しかもその全てがマリーナが着ていたような高価なドレスであり、それと一緒に宝石があしらわれた装飾品までもが付いてきた。
「……理解が追い付かないんだけど、これ全部?」
「ええ、旦那様からは全てお嬢様のものだと伺っております」
「……何を、急に」
チェリシアは困惑した。
マリーナがいなくなり、義母が部屋から出てこなくなってからというもの、父親の彼女への接し方が変わりつつあった。
(今さらこんなことされても困るわ)
しかし、チャリティーパーティーに着て行けるようなドレスはちょうど彼女の手元には無かった。
そのため、チェリシアはその中から気に入ったものを一着選び、あとはドレスルームに閉まった。
「お嬢様、よかったですね」
「……」
チェリシアは何も言うことができなかった。
マリーナが修道院へ行ってからもうすぐ一週間が経とうとしている。
「旦那様はきっと、お嬢様との仲を縮めようとなさっているのではないでしょうか」
「……そうね、たしかにそのように見えるわ」
愛する娘がいなくなったから、その代わりとしてチェリシアを手元に置こうとしているのではないか。
どうしても、そのように思えてならないのだ。
「それと、今日の晩餐はお嬢様と共にしたいと旦那様がおっしゃっておりました」
「……私に来いと?」
「はい、是非来てほしいと」
チェリシアは悩みに悩んだが、結局断ることができず、父親の待つ晩餐室へ足を運んだ――




