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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第二章 皇子との婚約からの家族とさよならします!

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53 ネックレス

父の書斎を出たチェリシアは、一人部屋までの道を歩いていた。

彼女の脳裏には、先ほど見た父の顔が浮かび上がったまま離れなかった。



(あんな風に言って正解だったのかな……)



彼女はどうするべきか、悩んでいた。

何が正しいのか、どれだけ考えてもわからない。



原作のチェリシアはずっと家族からの愛を求めていた。転生する前の本物のチェリシアの記憶が何度も頭に流れてきていたから、それはわかる。

しかし、手に入れられそうになったところで彼女はそれを拒絶した。



今までチェリシアにしてきたことを思うと、とても受け入れられなかったのだ。

通りすがりの使用人たちが、すれ違う彼女に対して深くお辞儀をした。手のひらを返したのは実は父親だけではなかった。

チェリシアがレイドの婚約者になってからというもの、使用人たちは態度を改め始めた。



だけどやっぱり、彼女は受け入れられない。

今朝、お世話をしますと遠慮がちに部屋にやってきた侍女を強い口調で突き返した。



(みんな、私が第二皇子妃になると思っているのね)



実際、そんな予定は無いし、この婚約も数年後には破棄される。

チェリシアは部屋の扉を開け、中に入った。



公爵邸の一番隅っこにある、小さな部屋。

彼女が幼い頃から使っていた使用人が暮らす部屋だ。



チェリシアは扉の鍵を閉めると、ほっと一息ついた。

一人でいる時間は一番気楽とは、何とも皮肉なものだ。



「婚約はどうせ破棄するんだから、そんな風に尊重しなくても……」

「――破棄?何の話だ」

「キャアッ!!!」



突然耳元で囁かれ、チェリシアは驚いて飛び上がった。

足をつまずいて転びそうになった彼女の腰を、彼が抱き寄せた。



「何そんなに落ち込んでいるんだ?」

「…………殿下?」



至近距離でこちらを見下ろしていたのは、レイドだった。

毎回毎回、背後を取るのはやめてほしいものだ。



レイドはチェリシアの腰を抱いたまま、口を開いた。



「ところでお前、いつもこんな部屋に住んでるのか?」

「ええ……今気付いたんですか?」



レイドは部屋の中を見回した。

彼女の部屋へ来るのは初めてではないはずだが、今そのことに気付いたようだ。



「……お前、俺のとこで住むか?」

「冗談言わないでください。同棲でもするつもりですか?」

「お前が望むなら、俺はかまわない」

「……」



チェリシアはレイドの言葉をスルーし、気分を変えて明るく尋ねた。



「今日は何をしにここへ来たんですか?」

「……何か無ければ来てはいけないのか?」



笑顔は逆効果だったようで、彼が不機嫌そうに眉をひそめた。



「いえ、そういうわけではありませんが……殿下はお忙しい方ですので」

「そうだな、だが婚約者と一緒に過ごす時間くらいは作れるさ」

「本当はそんなことを言いに来たわけではないんでしょう?」



その言葉に、彼は面白そうにニヤリと笑みを深めた。正解、とでも言いたそうな顔だ。

レイドはチェリシアの腕を引くと、再び耳元で囁いた。



「――あの一件、黒幕がいるぞ」

「……何ですって?」



チェリシアは驚いて彼を見上げた。



「マリーナが犯人ではなかったんですか?」

「そうだな、あの女が一端を担っていたことに違いはないが……おそらく別に黒幕がいる」

「一体誰が……」



彼の言葉が意味するのは、マリーナを裏で操っていた人物が今もどこかに潜んでいるということだ。

そのことを考えると、チェリシアはゾッとした。



「黒幕の正体に、見当はついているんですか?」

「……そうだな、一人だけ怪しい人間がいる」



レイドが怪しいと言うのならば、それはほとんど犯人だと確定しているようなものだろう。

チェリシアは小声で尋ねた。



「一体誰なんですか?」



レイドは周囲に怪しい影が無いことを確認すると、ゆっくりと口を開いた。



「俺が最も怪しいと思っているのは――聖女アンリーシェだ」

「………………そんな、冗談でしょう?」



彼が挙げたのは、チェリシアが最もそうであってほしくないと願っていた人物だった。

あのアンリーシェがそんなことに加担したって?チェリシアは信じたくなかった。



「殿下……本当にアンリーシェがそのようなことを企んだのでしょうか?」

「ああ、むしろあの女以外にはいないんだ」



レイドはチェリシアの腕を引いたまま歩き出した。

部屋の中にあるソファにドサッと座り込むと、彼女に隣に座るように命じた。



「マリーナ嬢が持っていたあの魔道具……たしかに魔物を呼び寄せるものだったが、それだけだ」

「それだけ、と言いますと?」

「あのときのことを覚えているか?周囲に黒い霧のようなものが現れただろう」



レイドの言葉で、チェリシアはあの事件が起きたときのことを思い浮かべた。

辺り一帯に真っ黒な霧がかかり、チェリシアたちは完全にその空間に閉じ込められてしまったのだ。



「――あれは間違いない。あの中にいる誰かの魔法だった」

「……マリーナがやったという可能性は」

「牢にいるときに調べたが、あの女にあんな巨大な魔法が使えるほどの魔力は無かった」



マリーナはあくまで魔物を呼び寄せる魔道具を所持していただけで、あの空間に皇族たちを閉じ込めた人物は他にいる。レイドはそのことを示唆していた。



(もしも、本当にアンリーシェがあの一件の黒幕だったとしたら……)



彼女と関わるのも、危ないかもしれない。



「――チェリシア」

「……殿下?」



すぐ傍から聞こえた彼の声に、チェリシアは顔を上げた。

そういえば、あの事件から彼はロクサーヌ令嬢ではなくチェリシアと呼ぶようになった。



「今日はお前に渡したいものがあってここへ来たんだ」

「渡したいもの……?」



レイドは胸ポケットから小さな箱を取り出すと、その中身を目の前で開けた。

中から出てきたのは、あの日マリーナが着けていたものとどことなく似たネックレスだった。

違うところがあるとすれば、青ではなく赤い光を放っているという点だろう。



「お前の身を守るためのものだ、いつも身に着けるように」

「は、はい……」



拒否権は与えない、というかのようなその口ぶりに、チェリシアは無意識に首を縦に振っていた。

その日から、彼女の胸元では常に彼の瞳にそっくりな赤い光が輝くようになった。




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