51 マリーナの断罪
一瞬の出来事に理解が追い付かないチェリシアやアンリーシェをよそに、レイドは立て続けに何度も攻撃を仕掛けた。
胴体を真っ二つにされたヘルハウンドは、既に息をしていなかった。
(な、なんて強いのかしら……!レイドの剣術の腕が最強クラスというのは本当だったようね)
作中では絵だったため、彼の強さが伝わりづらかった。
しかし、こうやって近くで見てみるとその腕は本物だった。
アンリーシェも驚いたように口元を手で押さえている。
「レイド……」
膝をついたままだったステインが、悔しそうにその名を呟いた。
ステインもかなり剣術に長けていたが、スピードも力もレイドよりワンランク下である。
(……ラスボスとは、やっぱりこうあるべきなのかしら?)
ヒーローよりも強くなければ、ラスボスの座にいる意味がないだろう。
「レイド……あの場で前に出るとはよほど目立ちたがりなのね。卑しいったらありゃしないわ」
皇后もまた、レイドに対する反感を露わにした。
助けてもらったとはとても思えない言い草だ。
(レイドがいなければ、あなたの息子はヘルハウンドにやられていたかもしれないのよ?)
それなのに、何故卑しいだなんてそのような暴言が吐けるのか。
ヘルハウンドを倒したことにより、辺り一面に光が戻っていく。
黒い霧が消え、徐々に元の教会が姿を現した。
「ステイン殿下!!!」
アンリーシェが真っ先にステインに駆け寄った。
彼女は目に涙を浮かべながら、ステインの体にそっと触れた。
そんなアンリーシェの姿に、ステインの目が柔らかくなった。
「リーシェ……」
「殿下、大丈夫ですか!?」
ステインはヘルハウンドによって脇腹をやられていた。
聖女アンリーシェはそこに手をかざすと、何やら呪文のようなものを唱え始めた。
突然眩い白い光に包まれたかと思いきや、ステインの傷が修復されていった。
(あれは……癒しの力だわ!)
原作でも何度も見たことがある。この世で聖女アンリーシェのみが持つ特殊能力・癒しの力。
対象の傷を治療する効力があり、その力で治癒された者は聖女の加護を僅かながらに受けられるという言い伝えまで存在した。
ステインは傷一つない綺麗な脇腹を手で触った。
「リーシェ……君はこんなものを使えたのか」
「……つい最近まで使えなかったんです。でも……ステイン殿下のために努力しました」
彼は横にいた彼女を思いきり抱きしめた。
「リーシェ……俺は君さえいれば他に何もいらない」
「殿下……」
その一部始終を見ていたチェリシアは、キャーと心のなかで叫んだ。
(原作にありそうなシーン……でも思い出せないから多分無いのよね?ということは、いつもこんなテンションで過ごしてるわけ!?)
一方、レイドは今までに見たことがないくらい冷たい瞳でバカップ……二人を見下ろしていた。
彼はコホンッと咳払いをすると、この場にいる全員に向けて話し始めた。
「……今回の件は間違いなく、何者かによって仕組まれたものです」
「な、何だと!?」
皇帝を始めとした招待客たちは驚きの声を上げた。
最初から予想のついていたチェリシアだけは、唯一冷静でいられた。
(こんな場所に魔物がいきなり出現するだなんて……そうとしか考えられないわ)
誰がやったのか、おそらくレイドは見当がついているのだろう。
「それが何を意味するのか――つまり、皇帝陛下や皇后陛下を始めとした皇族たちの命を狙う愚か者が、今ここにいるということです」
「……!」
その一言で、場が凍り付いた。
自身の命を狙う者が今この場にいるということが恐ろしいのか、皇帝はあたふたして叫んだ。
「一体誰がそのようなことをしたというんだ!さっさと見つけて牢にぶち込め!」
「……陛下、落ち着いてください。犯人はわかっていますから」
この中の誰かが、意図的に今回のことを仕組んだ。
幸いにも重傷者は出なかったが、間違いなく皇族への殺人未遂が適用されるだろう。最も重くて死刑だ。
「――ロイ、捕まえろ」
「はい、殿下」
レイドの命令を受けたロイが、素早くある人物を拘束した。
彼に捕らえられていたのは――
「キャアッ!何するのよ!」
「マリーナ……?」
チェリシアの異母妹、マリーナだった。
ロイはマリーナの腕を掴むと、そのまま彼女の胸元に手を伸ばした。
「失礼しますね、令嬢」
「やめて、触らないでよ、この変態!」
マリーナは暴れるが、レイドの右腕としてどんな任務もこなしてきた手練れのロイに敵うはずがなかった。
彼女の胸元に隠されていた青いペンダントを、ロイは力で引きちぎった。
「そ、それに触らないで!」
マリーナは焦ったように叫ぶが、ロイは当然聞き入れず、床にそのペンダントを叩きつけて割った。
驚くことに、割られたペンダントの破片から黒いモヤが発生した。
ただの宝石やガラスであれば、割れたところでそんな風にはならない。
周囲から驚きの声が上がる。
「――ペンダントの形をしていますが、魔物を呼び寄せる魔道具です」
レイドはハッキリと断言した。
彼はゆっくりとマリーナに歩み寄ると、そのペンダントを思いきり足で踏んだ。
元々割られていた破片が、さらに粉々になる。
「自分が何をしたかわかっているのか?」
「な、何よ……私はただ……お姉様にちょっと痛い目を見せてやりたかっただけよ……」
「何だと……?」
何ともくだらない理由だ。
そんなもので、一国の皇族たちの命を危険にさらしたというのか。
「一歩間違えれば、皇子殿下や陛下が大怪我をしていたかもしれないんだぞ」
「あ、あそこまで大きな魔物が現れるなんて知らなかったのよ!小さい下級魔物だって聞いてたのに……」
「……聞いてただと?」
レイドはその言葉に眉をひそめた。
何とか責任逃れをしようとするマリーナに呆れているのだろう。
「――近衛騎士」
「はい、殿下」
教会を守っていた皇家直属の騎士団員が、レイドの前で跪いた。
「皇族の殺害を企てたこの愚かな女を、さっさと地下牢に連れて行け」
「承知致しました」
騎士はロイからマリーナを渡されると、暴れる彼女を強引に引きずって行く。
「やめて!放して!放しなさいよ!私、そんなことするつもりじゃ――」
醜い姿のまま、マリーナは騎士たちに連れられて行った。




