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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第一章 悪役令嬢に転生からの悪役皇子との偽装婚約!

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4 相容れない家族

その日、チェリシアは随分と不思議な夢を見た。

姿かたちの見えない誰かが、夢の中の彼女に語り掛けていた。



「――チェリシア」



聞いたことのない、鈴の鳴るような柔らかい声だった。

不明瞭な視界の中、彼女は声の主を探した。



しかし、辺り一面を見渡しても誰もいなかった。

この声は一体誰?どうしてさっきからずっと私を呼んでいるの?



返事をしようとしたが、何故か声は出なかった。

それだけではなく、まるで何かに縛り付けられているかのように足が動かなかった。

その場から移動することもできず、彼女はただじっと周辺に視線を彷徨わせながら立ち尽くしていた。



声はだんだんと大きく、鮮明に聞こえてくる。



「チェリシア……お願い……」



あなたは一体誰なの?私に何を望んでいるの?

言葉にならない問いかけは、喉の奥に詰まったまま出てこなかった。



「――どうか……――を……幸せにしてあげて……」



彼?彼って一体誰のことを言っているの?

その瞬間、視界が突然クリアになり、再び彼女は暗闇の中へ飲み込まれていった。



「……」



チェリシアはそこで目を覚ました。

いつもと変わらない、自室の天井。



(もう転生してから一週間以上が経っているけれど、相変わらずこの部屋には慣れないわね……)



チェリシアが暮らしているのは、ロクサーヌ公爵邸の隅にある小さな部屋だった。

そこは貴族令嬢が、ましてや公爵家のお嬢様が暮らすような場所ではない。



聞くところによると、この部屋をチェリシアに与えたのは義母と異母妹なのだという。

あの二人ならやりそうなことだ。



(私が転生する前、チェリシアは相当辛い思いをしていたようね……)



あのような環境で育ったのなら、レイドのように性格が歪んでしまってもおかしくはなかった。

しかし、それでもまともな心が残っていたのは、チェリシアが根っからの良い子だからだ。



(あら?もしかして、幸せにしてあげてっていうのはチェリシアのことだったのかしら?)



当然、言われなくてもそうするつもりだ。



彼女はベッドから起き上がると、部屋で着替えを始めた。

チェリシアには専属侍女がついていなかったため、全てを一人でやらなければならなかった。



(チェリシアの記憶によると、彼女に親切にしていたメイドたちは全員追い出されてしまったから……)



だから、今公爵邸には彼女を虐げる者しか残っていなかった。

それに加えて義母と異母妹、彼女をことごとく無視する父親。



着替えを終えたチェリシアは、朝食の席へ向かうため部屋を出た。



「あら、チェリシアお嬢様だわ……」

「今日はずいぶんとお早いお目覚めだこと」



すれ違う使用人たちが嫌悪の視線でチェリシアを見ていた。

チェリシアは幼い頃からずっとこのような視線に耐えてきたのだろう。



彼女は胸を張って堂々と邸宅内を歩いた。

使用人たちにまで見下されるわけにはいかない。

公爵家の長女としての威厳だけは、何としてでも保たなければならない。



しばらくして、公爵邸の晩餐室に到着した。

今日は久しぶりの家族揃っての食事会だった。



チェリシアは大きく深呼吸をした後、扉を開けた。



「失礼します」

「……来たか」



長いテーブルに、三人の人物が座っていた。

正面に父親であるロクサーヌ公爵、左奥に義母の公爵夫人、そしてその手前に異母妹のマリーナだ。



「遅くなって申し訳ありません」

「……いいから、早く座りなさい」



父親の声でチェリシアは右奥、義母の正面の椅子に座った。

普段仕事が忙しい父親は、あまり家庭に介入することがない。



そのため、チェリシアがどのような状況に置かれているかを知らないのだ。

知っていたとしても、愛人母娘を深く愛する彼が助けてくれるかどうかは怪しいが。



元より、原作のチェリシアはそのような期待を捨てていたから父親に何も言わなかったのだろう。

彼女は誰にも助けを求めることができなかった。



シンと静まり返った部屋で、父親が口を開いた。



「……最近は、変わりないか」

「ええ、旦那様」



義母が媚びへつらうように返事をした。

義母は元平民の成り上がりだ。



運良く公爵であった父の目に留まり、彼の愛人となった。

それから寵愛を得てマリーナを産み、母の死後、その座にのし上がった。

義母が父と再婚したのは、何と母が亡くなった一ヵ月後のことだった。



そのせいで母は死後、平民の愛人に負けた憐れな女というレッテルを貼られることとなった。



(公爵夫人の座を手放したくないからって……必死になって笑っちゃうわ……)



チェリシアは義母たちの会話に耳を傾けながら、黙々と食べ進めた。

早くこの苦痛な時間が終わってほしい。



「ところで旦那様……一つご相談があるのですが……」

「何だ?」



義母は父の手に触れながら、猫なで声で囁いた。



「マリーナの婚約者としてルバーニ公爵令息が決まった今、姉のチェリシアの婚約者も決めるべきだと思うんですの」

「……!」



チェリシアはフォークを持つ手を止めた。



「そう思いませんか?旦那様」

「そうだな……チェリシアももう十七歳。婚約者がいてもいい年齢だ」



父親は無表情で頷くと、チェリシアを一瞥した。



(ちょっと待ってよ……私は結婚する気なんてないし、何だったらこの家を出て行くつもりなんだから!)



彼女のその願いは、貴族令嬢としてはあるまじきことだった。

しかし、そうでもしなければチェリシアは生き残ることができない。

彼女なりに考えた苦渋の決断なのだ。



それだけでは足りず、義母は続けざまにとんでもないことを言い出した。



「それで、チェリシアの婚約者選定を私に一任していただきたいのです」

「……お前が?」



父は驚いたように目を見張った。

驚愕したのは父だけでなく、チェリシアも同じだった。



「ええ、チェリシアはあまり異性と関わったことが無いでしょう?だから変な相手を選んでしまうんじゃないかって不安なんです。彼女に代わって私が選べば、その心配もないでしょう。ルバーニ公爵令息のように、良い相手を見つけてきますわ」



義母はそう言うと、チェリシアにニッコリ笑いかけた。

優雅で上品な笑みだったが、チェリシアは彼女の本心を知っている。



嘘つけ。お前どうせとんでもない相手と婚約させる気だろ。

昔から執拗に彼女をいたぶってきた義母のことだ。



二回り以上年上の老いた貴族の後妻か、アル中の女好き伯爵か。

まだ前者のほうがマシかもしれない。



「それは良いわね、お姉様。お母様ならきっと私のときのように素敵な男性と巡り会わせてくださるわ」



マリーナの唇が醜く弧を描いた。

彼女は母親の意図を知っていて、あえてそのようなことを言っているのだ。



マリーナとルバーニ公爵令息の婚約が決まったのはつい最近だった。

元々マリーナは母親に似て、多くの貴族令息との浮名を流していた。

そのせいで、良縁は望めないと言われていた。



しかし、義母はどんな手を使ったのか、名門中の名門ルバーニ公爵家の次男との婚約を取り付けたのだ。

プライドの高いマリーナは、自分より格下の貴族と結婚することを嫌がった。

地位も高く、見た目も悪くないルバーニ公子を、マリーナは気に入ったようだった。



「そうだな……お前が選べば安心だろう。頼めるか?」

「はい、旦那様。必ずチェリシアに相応しい相手を見つけてみせますわ」



義母はそう言いながら、勝ち誇ったような笑みでチェリシアを見た。

”お前の負け”とでもいうかのようなその顔つきに、もう我慢の限界だった。

そこまであなたたちの好きにさせてたまるか。



「――ちょっと待ってください、お父様」

「……チェリシア?」



彼女は二人の会話に割って入った。




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