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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第一章 悪役令嬢に転生からの悪役皇子との偽装婚約!

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35 解毒

初めて乳母のラリサに出会ったとき、とても穏やかで心優しい、レイドの実の母親のような人だなと思った。

いつも彼のことを思い、彼のために叱り、彼を一人の人間として扱う。まさに侍女の鑑で、理想の母親だったラリサ。

そんな彼女が将来彼の手によって殺されてしまうことに胸が痛んだ。



あのときは理解できなかった。

何故、原作のレイドがラリサを殺害してしまったのかを。

前世で漫画を読んでいた当時も、ただレイドが狂ったやつだという印象を受けただけで、そこまで深く考えはしなかった。



当然だ、レイドもラリサも原作の中では脇役に過ぎないのだから。

ステインとアンリーシェを中心に回るこの世界では、彼ら脇役の抱えている事情など関係ない。

脇役がどれだけ辛い思いをしていようと、その声は誰にも届かないし報われることはない。



悪役として登場するレイドとチェリシアならなおさらだ。



(どこまでも狂った世界だわ……)



チェリシアは拳をギュッと握りしめた。

主役二人ばかりが注目されるこの世界にはもううんざりだ。



(ずっと不思議に思っていた……レイドがどうしてラリサを殺してしまったのか)



しかし、彼女の裏切りが垣間見えた今なら何となくわかるような気がする。

実の母親のように慕っていたからこそ、余計に辛かったのだろう。



チェリシアは横たわるレイドの額に手を当てた。

自分の持つ知識をフル活用して看病したが、まだ彼の熱は下がっていなかった。



(疲れている……というだけではここまでならないわよね)



やはり、ラリサが盛った毒が原因のようだ。



「解毒剤はありますか?」



チェリシアは正気を取り戻したラリサに尋ねた。

すると、彼女は言いづらそうに視線を逸らした。



「それが……解毒剤はいつの間にか無くなっていたんです」

「何ですって……?」



チェリシアの視線が鋭くなった。



「ほ、本当です。ちゃんと毒と一緒に棚の引き出しに閉まっていたのですが……気付けば無くなっていて……」

「気付けば無くなっていた……いつですか?」

「い、一週間ほど前のことです……」



ラリサの慌てようからして、嘘をついているとは到底思えない。

しかし、突然無くなったとは一体どういうことか。



(誰かが盗んだ?いや、そもそもこの宮殿に出入りする人はラリサとレイド以外いないんだから……)



いるとすればロイくらいだが、彼は事件が起きた翌日からレイドに命じられて北部へ行っていた。

何でも大切な主君の婚約者を守りきれなかったことへの罰なのだと。



(レイドは身内には甘いタイプだけれど、やらかしたときは結構厳しいのよね……)



北部と言えば、夏がほとんど訪れないと噂の極寒の地だ。

そんなところで任務を遂行するだなんて、今頃北部で彼が泣いている姿が頭に浮かんだ。



「誰かが持って行ったのでしょうか……」

「……いえ、そんなことをしても何の得にもなりません」



大体レイドが毒を盛られているということはラリサ以外知らないのだし。

ステインや皇后の仕業でもないだろう。



「……そうですね。解毒剤が無いなら、作るほかありませんね」

「作る……?私たちにできるでしょうか?」

「できるできないではなく、やってみるのです!」



チェリシアはそう意気込み、早速本を読んで解毒剤の製作に取り掛かった。

しかし――



「ぜ、全然上手くできない……」

「こ、この本上級者向けですよ……!何て書いてあるか全く理解できません……」



チェリシアは第二皇子宮にある書庫から薬学の本を全て取り出し、部屋に運んだ。

しかし、どれもある程度薬について勉強した上級者向けに書かれた書物だったのだ。



(レイドめ……難しい本ばっかり読みやがって!)



レイドの聡明さは帝国内でも有名だった。

そんな彼の読む本を、凡人である二人が理解できるはずがなかった。



(それにしても……皇子のくせに薬学を学ぶだなんて……)



チェリシアはさっきよりもほんの少し顔色がマシになったレイドを見下ろした。

彼女の看病の成果が今になって現れたのだろうか。



「ラリサさん……皇宮にいる薬師は……」

「……ステイン殿下の息がかかっております」

「……でしょうね」



皇宮にいる人間は、レイドにとっては全てが敵。

チェリシア以上に過酷な環境で、彼は生き抜いてきたのだ。



彼女は眠っているレイドの頬にそっと触れた。

まだ熱があるのか、真っ白な肌は熱かった。

何としてでも彼を助けたい。たしかに彼は高潔に生きてきたわけではなかったけれど、こんなところで死なせるわけにはいかなかった。



頭の中で思考を巡らせたチェリシアはあることを思い出した。



「……そうだ、あの薬がまだ残っていたはず」

「……令嬢?どちらへ行かれるのですか?」



突然部屋を出て行こうとするチェリシアに、ラリサが声をかけた。



「私が大怪我を負ったときに聖女様から頂いた薬が、まだ残っているんです!」

「な、何ですって!?それは本当ですか!?」



レイドの自室を出たチェリシアは、一目散につい今朝まで住んでいた部屋へ向かった。

彼の部屋からそう遠くはなく、すぐに辿り着いた。



「あった……!」



ベッドサイドにある棚の引き出しを開けると、たしかに余った薬がしまわれていた。

瀕死の彼女を僅か十日で全快させた、聖女様お手製の薬。



「聖女アンリーシェの作った薬なら……!」



――もしかすると、彼を助けられるかもしれない。

チェリシアは大急ぎでレイドの元へと戻った。




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