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【第二章完結】処刑エンドの悪役令嬢に転生したので破滅回避を目指したら、悪役皇子に溺愛されました  作者: 春乃りぜ(ましゅぺちーの)
第一章 悪役令嬢に転生からの悪役皇子との偽装婚約!

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34 生きる意味

レイドがやっとの思いで見つけた母親は、自分のことなどとうに忘れ、新しい家族を作って幸せに暮らしていたのだ。



「あのときのレイド殿下のことは今でも忘れられません。捨てられたのは自分だけだったのだと、酷く落胆しておられました」

「何て残酷な……」



チェリシアは絶句した。

いくら辛い環境に置かれていたとはいえ、あまりにも無責任なのではないか。



「さっき、殿下は生まれてくるべきではなかったと言いましたよね。最初からそんなことを思っていたわけではありません」



最初から生まれてこない方がいいと思っていたのであれば、そもそもあんな風に命をかけて助けたりはしない。

きっと彼女は、レイド殿下と過ごしているうちにそのような考えを抱くようになっていったのだろう。



「――わからなくなったんです、レイド殿下が何のために生きているのか」

「ラリサさん……!」



そんなこと言わないで、と言いかけたチェリシアの言葉を遮るようにラリサは続けた。



「殿下の生きる意味って何なのでしょうか?幼い頃から暴力と罵声を浴びせられ続けること?周囲から捨てられた皇子だと嘲笑されること?」

「それは……」



レイドの今の目的は皇帝の座に就くことだった。

しかし、ラリサから母親の話を聞いた後では、本当に皇座を欲しがっているのかすらわからない。



そんなチェリシアの疑問を読み取ったかのように、ラリサは口を開いた。



「皇帝になることは一つの目的かもしれません。でもそれは彼が本当に欲しているものではありません」

「……どういう意味ですか?」



やはり、レイドは皇座など求めていないのか。では何故、あそこまでその椅子に執着するのだろうか。

その答えは、少なくとも原作には書かれていなかった。



「――皇帝の座に就くことは、彼が生き残れる唯一の手段だから」

「……」



レイドは権力を得るために皇帝になりたがっているわけではない。

彼が生き残るためにはそうするしかなかったのだと、ラリサは言った。



「欲しいものと、手に入れなければならないものは違うでしょう?」

「……」



ラリサは自らを嘲笑するかのように笑みを零した。



「あの方は、死ぬ理由が無いから生きているんです」

「そんなことはありません、殿下にだって生きる意味くらい……」

「ロクサーヌ令嬢は綺麗事ばかり言うのですね。まぁ、育ちの良いお嬢様には彼の苦痛なんてわからないでしょう」



ラリサはチェリシアに軽蔑の目を向けた。



(レイドの苦痛がわからないですって?そうね……でも少なくとも、本物のチェリシアは彼と似たような境遇に置かれていたわ……)



なら、原作のチェリシアもレイドと同じように死ぬ理由が無いから生きていたのだろうか。

いや、そんなことはないはずだ。それらは全てラリサの思い込みである。



「……殿下を助けたこと、後悔しているのですか?」

「……どうでしょう、今ではよくわかりません。当時の自分の感情も思い出せない」



ラリサはチェリシアから離れると、今度はレイドが眠るベッドの傍へゆっくりと歩み寄った。

穏やかな顔で顔色の悪い彼を見下ろすと、チェリシアの方を振り返ってハッキリ言った。



「――令嬢、殿下をこんな風にした張本人は私です」

「い、今……何と……!?」



チェリシアは衝撃で言葉が出なかった。



「殿下が夜寝るときにいつも口にする睡眠薬を混ぜたお茶に……少量の毒を仕込み続けました。彼の命はもう終わりでしょう」

「長く仕えた主人に毒を盛るだなんて、正気ですか!?早く解毒をしないと!」



慌てふためくチェリシアを前にしても、ラリサは冷静だった。

茶番でも見ているかのように、つまらないという感情を顔に出している。



「さっき言いましたよね。殿下は生まれてくるべきではなかったと。あの方がこの世に生を受けたこと自体間違いだったんですよ」

「……何が言いたいんですか?」



チェリシアは険しい表情で問い詰めた。



「あの日、私が殿下を助けたことがきっかけで彼の地獄のような生活は始まりました。だから、あのときと同じように私が終わらせる必要があるのです」

「だから殿下に毒を盛り、彼の人生を強制終了させようとしたのですか?」



彼女はもはや、ラリサに対する怒りを抑えることができなかった。

勝手に助けておいて、今度は可哀相で見てられないから殺す?

あまりにも自分勝手ではないか。



チェリシアは目の前で歪んだ笑みを浮かべるラリサを正面から見据えた。



「ラリサさん、さっき殿下は死ぬ理由が無いから生きていると言いましたよね?それは違うと思います」

「令嬢に殿下の何がわかるんですか?」

「私はたしかにあなたのように長く殿下の傍にいるわけではない……だけど、彼が誰に心を許しているのかくらいは横から見ているだけでわかります」



チェリシアはキッパリ言い放った。



「――ラリサさん、あなたの存在が殿下にとって生きる意味になっていたのではないですか?」

「……」



その言葉に、ラリサは意表を突かれたかのように目を丸くした。



「実の母親に捨てられた彼にとっては、あなただけが心の拠り所だったのでしょう。あなただけが彼の希望の光だったんですよ」

「……そんなことは、」



彼女は否定しようとしたが、チェリシアにはハッキリとわかる。

レイドはラリサといるときだけは表情を変え、彼女の言うことは素直に聞き入れる。

それはラリサが長年彼を支え続けてきた賜物なのではないか。



「いいえ、レイド殿下はラリサさんをとても大切に思っていらっしゃいます。あなたがいなければ彼はこの世にはいなかったでしょう」

「……」



ラリサは黙り込んだ。

チェリシアの言葉に、間違いなく心を動かされている。



「ラリサさん、あなただって本当は殿下に毒なんて盛りたくなかったはずです」

「……どうしてそんなことが言えるのですか?」



顔を上げたラリサに、彼女はニコッと笑いかけた。



「――あなたは、殿下を愛しているから」



恋人同士みたいに熱烈に互いを求め合うような愛ではないが、親から子へ向ける慈しむような愛を、少なくともラリサは彼に抱いていた。

でなければ、実の子でもないレイドを二十年も育て上げることなどできないだろう。



「実母のことはたしかに不幸ではあります。ですが、彼にとっての母親はもうラリサさんです。殿下は殿下なりに過去を乗り越え、前を向いて生きているのではないでしょうか」

「……」



彼女はチェリシアの言葉を聞いてガックリと項垂れた。

母親という言葉がよほど心に沁みたのだろうか。ラリサの目から涙が零れた。



「……さぁ、ラリサさん。殿下の看病を手伝ってください。今日のことは、殿下には内緒にしておきますから」



チェリシアは彼女の背中を優しくさすった。

今は感傷に浸っている場合ではなかった。

ラリサを味方に付けたチェリシアは、未だ目を覚まさないレイドに視線を移した。



「レイド……」



――待っててね、今度は私があなたを助けてみせるから。





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