23 令嬢たちのお茶会
アルセリアを公爵邸に招待してから数日後。
チェリシアは同年代の貴族令嬢たちを集めたお茶会へ赴いていた。
「聖女様との婚約式と同時に、皇太子就任式が行われるようです」
「あら、やっぱりそうだったんですね!」
チェリシアは今、自分を含めて六人ほどの貴族令嬢で一つのテーブルを囲んでいた。
その中には前のパーティーで軽く話したレジーナ侯爵令嬢リリアンの姿もある。
(転生前のチェリシアはこういう会にあまり参加してこなかったみたいだけど……)
やっぱり、貴族令嬢として情報を集めるためにもサロンには行った方がいいだろう。
もしかすると原作には書いてなかったことが知れるかもしれないし。
『リシアはもっとたくさんの人と交流なさるべきですわ!こんなにも素敵な方なのですから』
まぁ、一番大きなきっかけは親友となったアルセリアに背中を押されたことだろう。
「パーティーでご覧になられました?聖女様と第一皇子殿下を。とてもお似合いのお二人でしたわね」
「ええ、特に殿下の聖女様を見る目ったら。聖女様のことを深く愛しておられるのですね」
まだ歳若い令嬢たちはキャーキャーと騒ぎ立てた。
彼女たちにとって第一皇子ステインは憧れの存在だ。
「婚約式はいつ頃になられるのでしょうか?」
「さぁ?聖女様の淑女教育が終わり次第ではありませんか?」
「あら……なら、だいぶ先になるかもしれませんわね」
「……」
本来ならば、皇太子の妻となる皇太子妃は国内の身分の高い家の令嬢から選出される。
そうでなければ隣国の王女だ。
今回のように平民が皇太子妃となる例はかなり珍しい。
アンリーシェは聖女ではあるが、淑女教育すら終えていないただの平民だ。
彼女にはこの先厳しい道のりが待っているだろう。
淑女教育を終えたところで皇太子妃としての教育が始まる。
(アンリーシェが逃げ出してしまわないか心配だわ)
まぁ、仮に妃教育が終えられなかったとしてもステインはきっと強引にアンリーシェを娶るだろう。
驚くほどに彼女しか目に入っていない彼のことだ。十分にあり得る。
「聖女様が殿下とご結婚なさるのなら、この国の将来は安泰ですね。きっとお二人がベレニウム帝国に安寧をもたらしてくれるでしょう」
「ええ、本当ですわ」
「……」
ステインとアンリーシェを称賛する声を聞くたびに、チェリシアは何だか複雑な気持ちになった。
彼女たちは何も知らないのだ。
彼らの真実の愛の犠牲になり、裏で泣いた者がいるということを。
アルセリアの涙を見た後では、二人を祝福するのがはばかられる。
「パーティーと言えば、レイド殿下もいらしていましたわ」
「……!」
突然レイドの話に変わり、チェリシアは動揺した。
彼との婚約が内定していることは、まだ世間には明らかになっていない。
「ええ、レイド殿下はいつ見ても美しいですわね。あの見た目で恋人がいないことが信じられないくらいですわ」
「あら、明かしていないだけで本当はいるのでは?」
「たしかに、その可能性も十分にありますわ」
どうやらレイドの美貌は貴族令嬢たちの中でもかなり人気な方らしい。
ならば、とチェリシアは口を開いた。
「そ、それなら……どなたか、レイド殿下と婚約してみては……?」
「「「……」」」
ここで代わりを作れば早いうちに彼から逃げられるかもしれない。
そう思ってのことだった。
しかしその言葉に、部屋の中がシンと静まり返った。
チェリシアがやらかしたことに気付いたときには、既に遅かった。
「レイド殿下と婚約……?冗談ですか?」
「いやいや、勘弁してほしいですわ」
「あの方は性格がちょっと……見た目は最高級に良いのですけれど」
令嬢たちは小声でありえない、と何度も口にした。
明らかに皇族に対する不敬罪である。
貴族令嬢たちからのレイドへの評判はあまり良くないようだ。
やっぱり結婚相手には顔より性格を求めるのか。
隣にいたリリアンが苦笑いしながら、チェリシアに耳打ちした。
「ロクサーヌ令嬢、何だか今日は変なことをおっしゃるのですね」
「レジーナ令嬢……」
リリアンは口元を手で押さえてフフッと笑っている。
(わ、笑われてしまった……!)
チェリシアはそのことにショックを受けながらも、令嬢たちの話に耳を傾けた。




