13 ステインvsレイド
「ロクサーヌ令嬢、お久しぶりです」
「お久しぶりですね、レジーナ令嬢」
パーティーが始まり、チェリシアは招待客の一人――リリアン・レジーナ侯爵令嬢と話していた。
友人と呼べるほどではないが、少なくともリリアンは他の人のようにチェリシアを見た目で差別したりはしなかった。
「ステイン殿下と聖女様には挨拶に行かれましたか?」
「いえ、実はまだなんです……あんなにもたくさんの人に囲まれていると何だか委縮してしまって……」
チェリシアの視線の先を追ったリリアンが苦笑いした。
招待客として、主催者のステインとアンリーシェに挨拶に行かなければならない。
しかし、二人は多くの貴族たちに囲まれていてとても近付けるような状況ではなかった。
挨拶するのはもう少し落ち着いてからでもいいだろう、とチェリシアはあえて輪からは外れていた。
「ロクサーヌ令嬢の気持ちわかりますわ。私も人混みはあまり好きではありませんもの」
「あら、レジーナ令嬢も?私たち、気が合いますわね」
チェリシアとリリアンは顔を見合わせて笑い合った。
このまま穏やかな時間が続けばいいのにな、と心の中で思うが、そうはいかないだろう。
「あら、何だかステイン殿下と聖女様がこちらへ近付いてくるようですわ」
「そうですか……って、ええ!?」
チェリシアは思わず声を上げた。
リリアンの視線の先に目をやると、本当にステインとアンリーシェが彼女たちの方へやって来ていた。
(ど、どうしてアンリーシェとステインがこっちに来るの!?)
チェリシアは動揺しながらも、リリアンと共に二人の前でカーテシーをした。
「お初にお目にかかります、聖女様。リリアン・レジーナと申します」
「チェリシア・ロクサーヌです」
アンリーシェは元々平民ではあるが、聖女であり、次期皇后でもある。
つまり、高位貴族のチェリシアとリリアンよりも立場は上なのだ。
「顔を上げてください」
その声で、二人は顔を上げた。
美しく微笑むアンリーシェの顔が視界に入った。
「――お久しぶりですね、チェリシアさん!」
「え、ええ……」
アンリーシェはリリアンには目もくれず、チェリシアの手を嬉しそうにギュッと握った。
突然の、しかもこのような人目のある場所での行動に、チェリシアは困惑した。
「何だ?知り合いだったのか?」
ステインが彼女に疑惑の目を向けた。
平民のアンリーシェと、名門公爵家の令嬢であるチェリシア。
あまりにも身分の違いすぎる二人が出会う機会なんて普通は無い。
「ええ、前に神殿でたまたまお会いしたんです!お貴族様だということは知っていましたが、まさか公爵家の令嬢だったとは……驚きました」
「ア、アハハ……言ったら聖女様を困惑させると思ったので……」
チェリシアは何とか笑みを取り繕った。
嬉しそうに笑うアンリーシェとは対照的に、ステインは複雑な表情を浮かべていた。
「ロクサーヌ令嬢が、神殿へ来ていただと?一体何の用だ?」
「そ、それは……」
マズい、ステインの視線が痛い。
完全にチェリシアを疑っているかのような目だ。
原作では、ステインはアンリーシェに危害を加えようとする者がいないかどうか常に目を光らせていた。
たとえ相手が高位貴族の令嬢であろうとも、彼女を傷付けるのなら容赦はしない。
実際、公衆の面前でアンリーシェにワインをかけた令嬢は修道院送りになり、彼女に惚れ込んで体に触れた令息は腕を切り落とされた。
(いやいや、リーシェを愛しているのはわかるけど、いくら何でもちょっとやりすぎじゃない!?)
あのときはヒーローの執着素敵……とか思っていたが、今になって考えてみたらただのイカれたやつだ。
とにかく、何か答えないと。
ここでステインに疑われたら、チェリシアが生き残るのは難しくなる。
レイドだけではなく、ステインにまで気を配らないといけないだなんて。
ホンット、チェリシアが何したっていうのよ。
ステインの鋭い視線に気後れしながらも、チェリシアは何とか口を開いた。
「あの日、私が神殿にいたのは……」
「――兄上、聖女様。こちらにいらしたのですね」
そのとき、爽やかな声が間に割って入った。
「……レイド殿下?」
振り返ると、立っていたのはレイドだった。
彼は颯爽と現れると、チェリシアの横を陣取り、ステインと向き合った。
ステインは弟に向けるとは思えないほど、冷たい目をしていた。
「……お前が今日のパーティーに参加するとはな」
「当然のことではありませんか。今日は聖女様の誕生を祝うものですから」
そこでレイドは、ステインの横に立っていたアンリーシェに視線を移した。
「改めまして、アンリーシェ嬢。聖女となられたことをお祝い申し上げます」
「あ、ありがとうございます……」
レイド・フォン・ベレニウムが敬語を使っている。
彼を近くで見ていたチェリシアは口をあんぐりと開けたまま固まった。
しばらく彼の横顔を見上げていると、振り向いたレイドと視線がぶつかった。
ニコッと微笑まれ、チェリシアは顔を赤くした。
「……!」
顔が整っているせいで、破壊力がすごい。
「……ロクサーヌ令嬢と知り合いなのか?」
「ええ、チェリシア嬢とは親しくさせていただいています」
「ちょ、ちょっと……」
口を挟もうとするチェリシアの腕を、レイドは周囲にバレないように掴んだ。
黙っていろ、という意味だ。
「そうか……ロクサーヌ令嬢と仲が良いんだな……」
「……!」
ステインは冷めた目でチェリシアを見下ろした。
第二皇子レイドと関わりを持つということは、ステインと対立すると言っているようなものだった。
ステインは再びレイドに視線を戻した。
二人の視線がぶつかり、バチバチと火花を散らした。
(ちょっと、アンリーシェが戸惑ってるじゃない!やめなさいよ!)
先に目を逸らしたのはステインだった。
宝石のように美しい皇家の象徴を見るのが辛いのか、彼はレイドとチェリシアから顔を背けた。
「ロクサーヌ令嬢は随分良い友人を持ったようだな……行こう、リーシェ」
「は、はい殿下……」
ステインはこれ以上アンリーシェをレイドと関わらせたくないのか、彼女の手を引いて去って行った。
二人が立ち去ったあと、レイドはそっとチェリシアに耳打ちした。
「俺たちも行くぞ」
「え、ど、どこへ!?」
「いいから、何も言わずに来い」
有無を言わさないような彼の口調。チェリシアは慌ててレイドについて行った。




