12 聖女お披露目パーティー
認定式が無事に終わりを迎え、お披露目パーティーの時間となった。
一度家に帰ったチェリシアは、ドレスを着替えた。
レイドから貰ったドレスを着たチェリシアは、鏡の前でクルリと一周した。
「こういう華やかな服装も、たまにはいいわよね?」
今日のパーティーは聖女の誕生を祝う特別なものだ。
着飾るのは当然のこと。
(それにしても、このドレス結構チェリシアに似合ってるじゃない。レイドったら、趣味が良いわ)
あんなに冷たいこと言ってたくせに、ちゃんと似合うドレスを選んで贈っていたのね。
チェリシアは心の中で笑った。
ネックレスや髪飾りなどの装飾品を付けて完成。
準備を済ませたチェリシアは下へ降りた。
「――お父様!私のドレスはどうかしら?」
「ああ、とっても似合っているよマリーナ」
エントランスでは、既にマリーナたち三人が集まっていた。
マリーナはまた新しいドレスを買ってもらったらしい。
飾り一つ自由に買えないチェリシアとは違い、マリーナや義母は公爵家の財産を湯水のように使っていた。
新しいドレス、宝石、着ていないものがたくさんあるだろうに、それでも散財をやめないのだ。
まぁ、一番の問題は二人を溺愛するがゆえに何も言わない父親だが。
エントランスへ降りると、マリーナの視線がこちらへ向けられた。
「あら……お姉様?何なのよその格好……」
「マリーナ……」
マリーナは不快そうに顔を歪ませた。
チェリシアが高価なドレスを着ていることが気に入らないようだ。
それに加えて、今日の彼女はメイクもしている。
いつもの地味な姿はどこに行ったのか。
マリーナはそのことが不愉快極まりなかった。
「親しくしている知人から頂いたのよ。今日のパーティーのためのドレス一式をね」
「親しくしている知人……?まさか、前に言っていた人のこと?」
「ええ、そうよ」
チェリシアは悔しそうなマリーナに、淡々と言葉を返した。
横を通り過ぎる際、彼女はポツリと小声で呟いた。
「そんなドレスをプレゼントできるだなんて……一体何者なのよ……」
「さぁ、それは今日行けばわかるはずよ」
今日のパーティーにはアンリーシェに加え、第二皇子であるレイドも参加することとなる。
(そのときに私たちがちょっとだけ親しいってことをアピールしちゃえばいいんじゃない!?聖女に加えて、第二皇子と親交があるって知ったら悔しがるぞアイツ……)
チェリシアは黙ったまま彼女を見つめていた父と義母に視線を向けた。
「お父様、お義母様。私は先に皇宮へ行きます。いつもみたいに三人で行きたいでしょうし」
「あ、ああ……」
チェリシアが乗る馬車が他の家族たちと分けられているのはいつものことだ。
今さら、何とも思わない。
チェリシアは馬車に乗り込むと、皇宮のパーティーホールへ向かった。
皇宮へ到着した彼女は、扉からホールへ入場した。
「あちらの美しいご令嬢は一体……」
「ブラウンの髪……もしや、ロクサーヌ公爵令嬢ではないか!?」
「ロクサーヌ家の長女といえば、あの地味で目立たない……」
人々の驚いたような声が耳に入る。
そのような反応になるのも当然だろう。
チェリシアはいつも義母と異母妹の選んだみずぼらしいドレスを着てパーティーに参加していたのだから。
「――しかし、今日は何だかいつもと雰囲気が違うようだ」
「ええ、とっても綺麗だわ……」
チェリシアは服装のせいで誤解されていたというだけで、元々かなり美人な部類だ。
今日の彼女は一際輝いている。
(本物のチェリシアではないけど……褒められると何だか嬉しいわね……)
チェリシアはそのまま歩き続け、ホールの隅で立ち止まった。
それからしばらくして、マリーナたちが入場してきた。
「見て、マリーナ・ロクサーヌ令嬢よ!いつ見ても美しいわ!」
「さすがは社交界の華と呼ばれるだけあるな……」
マリーナは現在の社交界の中心であり、社交界の華とまで言われていた。
彼女が社交界を牛耳ることができるのは、ベレニウム皇家に皇女がいないことが大きな要因だろう。
そのため、次に位の高い公爵家の令嬢であるマリーナは社交界デビューを果たしてすぐに令嬢たちのトップに君臨した。
そんな彼女の周りには、いつだって人だかりができる。
今も令息たちに囲まれては勝ち誇ったような笑みでこちらを見ていた。
(好きでもない男たちに囲まれて何が嬉しいんだか……)
フッと鼻で笑ったそのとき、会場に騎士の声が響き渡った。
「――レイド・フォン・ベレニウム第二皇子殿下のご入場です!」
「……!」
その言葉と同時に、正装姿のレイドが扉から入ってきた。
黒いスーツに、赤いマントを羽織った彼を見た貴族令嬢たちが歓声に近い悲鳴を上げた。
もちろん、チェリシアも例外ではなかった。
(わぁ……悔しいけどとってもカッコイイ……!)
レイドは別名美形一族とまで言われるベレニウム皇家の血を半分継いでいる。
普段は下ろしている前髪を、今日は半分上げている。
そのせいで、何だかいつもと違った雰囲気である。
「血の皇子様のご登場だぞ……」
「卑しい母親から受け継いだ見た目は随分ご令嬢たちに人気のようだな……」
「シッ!聞かれたら何をされるか……」
「……」
チェリシアはレイドに投げかけられる心無い言葉たちをスルーした。
(次に入ってくるのはきっとあの二人ね……楽しみだわ……)
第二皇子であるレイドよりも後に入場する者はかなり限られている。
次はいよいよ、今日の主役二人の登場だった。
「――第一皇子ステイン殿下と、聖女アンリーシェ様のご入場です!」
レイドの次に扉から姿を現したのは、お揃いの色で統一した衣装を着たステインとアンリーシェだった。
ステインは隣を歩く彼女を優しい目で見つめながら、その手を引いている。
(わぁ、さっきぶりのステイン&リーシェ!)
やっぱりいつ見てもお似合いで絵になるなぁ。
あの二人が皇帝と皇后なら、ベレニウム帝国の未来も安泰だろう。
ステインとアンリーシェはホールの中央まで来ると、立ち止まった。
彼が優しく彼女の肩を抱き、その笑顔に安心しきったアンリーシェが招待客たちに向けて口を開いた。
「今日は、私の聖女認定を祝うパーティーに来てくださり、ありがとうございます……」
ホールがシンと静まり返った。
貴族たちの視線を受けながら喋るアンリーシェの緊張が伝わってくる。
「……民たちから愛される聖女になれるよう、精一杯努力しますので、よろしくお願いいたします。今日は楽しんでいってください」
よく言った、リーシェ!
会場に拍手の音が鳴り響いた。
まだ十七歳の少女が、このような場に突然連れ出されたのだ。
緊張するのは当然のことである。
「皆も既に知っていることだろうが、私第一皇子ステインは聖女アンリーシェと婚約することを決めた。私は彼女を次の皇后とすることをここに誓う」
ステインはリーシェの肩を抱き寄せ、至近距離で見つめ合った二人は微笑んだ。
その一言と同時に、聖女お披露目パーティーが始まった。




