03-03.新学期
セーナとの関係がぎこちない。
夏季休暇が明け、新学期が始まってもセーナとの間に壁を感じていた。
話しかければ普通に答えてくれるし、いつも一緒にいるのは変わらない。なのに会話は極端に少なくなっていた。
私が何かしてしまったのだろうか。
そう問いかけてもセーナは答えてくれない。「何もありません」と、相変わらず変な笑顔を浮かべるだけだ。
それでも多忙な日々は変わりなく過ぎていき、忙しさのお陰で私も気が紛れるな、なんて思考を鈍らせていった。
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魔物たちは倒しても倒しても湧いてくる。
勉強はしてもしても終わらない。
この世界がいくら過酷だからって、本当に私たちがここまでしなきゃならないものなのだろうか。
魔王を倒せば人生が終わるわけじゃない。むしろその先の方がずっと長いのだ。だから王妃教育を始めとした沢山の勉強が必要なことも理解は出来る。
魔王を倒したってこの世界の魔物たちが一匹残らず消え去るわけじゃない。今いる魔物たちは、魔王が産み出したわけじゃない。最終ダンジョンとは一切関係のない魔物たちだ。
そして勇者パーティー以外がまともな戦力になるとも思えない。この世界でまともに戦えるのは私たちだけだ。称号システムによって縛られている限り、人々がダンジョンを完全に克服する未来は訪れない。
なんて歪な世界なんだろう。
私たちの人生っていったいなんなんだろう。
貴族に生まれたから。
予言によって選ばれたから。
前世の知識を持って生まれたから。
私たちは戦い続けるしかないのだろうか。
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ある日、再び学院に呼び出された。
話を聞くと、今後はレオン王子を始め、数人の生徒を連れて討伐に行くようにとのことだった。そういえば、普通の生徒にもそろそろ魔物討伐の義務が生じるころだった。
数人の生徒とは攻略対象たちの事だろう。
このあたりはゲームの時と殆ど同じなんだなと、呑気に考える。
一応レオン王子だけ、先に仲間になってチュートリアル戦があったはずだから若干変わってはいるけれど。
その時、セーナが発した言葉に衝撃を受け思考が止まる。
「リリィ・アランシアとのチームを解消してください」
セーナは今度は私に向かって言葉を続けた。
「今のお嬢様では足手まといです。ただでさえ殿下たちの面倒も見なければならないのです。メンバーが増えるのならお得意の飛行魔法で飛んで行くこともありません。あなたは必要ないのです」
「なに……言ってるの?」
あまりにもあんまりな言葉に私の口は上手く動かない。
「ご不満ですか? ならば今から模擬戦をしますか? もし私に一撃でも入れられれば、お連れすると約束しましょう」
なにも言えない私を放ってセーナはその場を立ち去った。
その日からセーナは屋敷に帰らなくなった。
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あの日、気がつくといつの間にか帰宅していた。どうやって帰ったのか記憶がない。
私はそれから一週間程塞ぎ込んでいた。
まさかセーナに突き放されるとは思ったことも無かった。
様子のおかしいセーナにもっと気を使うべきだった。
そんな事をぐるぐる考えている内に、もう一度話をしようとようやく思い直し、なんとか学院へと向かった。
学院で聞いて回ったところ、セーナは次の討伐指示で移動するところだと聞き、慌てて馬車乗り場に駆けて行く。
私が駆けつけると、王子たちを引き連れたセーナが待ち構えていた。
「やっと復活したのね。思ったより長かったじゃない。待ちくたびれちゃったわ」
セーナは制服姿だった。
あれほど拘っていたメイド服は着ていなかった。
「セーナ!? 家にも帰らないでどうしちゃったの!? その格好は!? なんでメイド服脱いじゃったの!?」
「リリィが制服を着てくれって頼んだのよ? 忘れたの?」
本当にメイド辞めちゃったの!?
なんでそんな馬鹿にするような言い方をするの!?
私はそこまで酷いことをしていたの!?
言いたいことは沢山あるのに、またも言葉が出てこない。
「また黙りなのね。用も無いようだし、もう行くわ」
そのまま私を置き去りにして、セーナは去っていった。




