03-02.撤退
暫く進むと開けた空間に出た。
大きな水場が存在し、その脇を通って先に進める場所だ。
ゲームでは魔物が存在せず、休憩イベントが発生する場所だった。スチルで見覚えがある光景だ。
少し休憩しようと提案しようとしたところで、真っ青な顔をしたセーナが私の口を塞ぐ。
何事かと視線の先を追うも、見たものを一瞬理解できなかった。
私達など丸呑み出来そうな巨大なヘビが鎌首をもたげる。
同じ様に真っ青になった私はセーナと共に、ヘビを刺激しないよう少しずつ後ろに下がっていく。
ヘビは震えながら後ずさる私達に興味など無いのか、上げた首を降ろし、追ってくることは無かった。
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十分に距離を取り、ヘビの入ってこれない狭い場所まで戻ってきたところで呼吸を落ち着ける。
「視認するまで全く魔力を感じなかった……」
まだ青い顔をしているセーナが呟く。
ヘビは何らかの手段で探知を妨害できるようだ。
しかも、意図的に魔力をコントロール出来る程の高い知性を持っている。
魔力を発して威嚇したのかもしれない。
もろに見たセーナはまだ震えている。負けん気の強いセーナがただの迫力だけで気圧されたとも思えない。
たぶんあの蛇はセーナだけを敵と認識して威圧したのだ。だからセーナはこんなに怯えているのだろう。半端にレベルが高かったのが良かったのか悪かったのか。生還は喜ばしいことだ。あとは心の傷になっていないといいのだけど……。
セーナも相当強くなったはずなのに、あのヘビはそれ以上だった。今の状態でこの先に進むことは不可能だろう。
広い場所とはいえ、一か八か飛行魔法で突っ込む気にすらなれない。地竜にすら補足されたのだから、あっさり叩き落されるだろう。あの平和主義な……或いはビビリな大蛇も、魔力を放って向かってくれば容赦はすまい。
そしてここを通れなければ目的地にはたどり着けない。
魔力増幅の指輪は惜しいが、言っても仕方がない。今回は諦めよう。大丈夫。魔王討伐までにはまだ二年以上もの時間があるのだ。また強くなってから出直せばいい。もう一年もレベル上げを続ければ、セーナなら十分戦えるはずだ。
ゲームではあの場所に魔物はいなかったが、これも現実になった影響なのだろう。あんな快適な場所、魔物だって放っておく方がおかしいのだ。考えてみれば当然のことだった。
水場に気を取られたとはいえ、今回は油断し過ぎだった。セーナが気付いていなかったらと思うと、またも震えが湧いてきた。あのヘビは水場に陣取っているようだった。もう少し近づいていたら問答無用で排除されていただろう。
もう二人共先に進もうなんて気にはならず、逃げるようにして洞窟を抜け出した。
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洞窟の一件以来、セーナは鬼気迫る様子でレベル上げに励んだ。
あのヘビは地竜と比べても別格だ。
強い魔物はボスの近くにいるはずとは何だったのか。現実になった影響で魔物にも個性が生まれているのだろうか。
少なくとも、この夏の内に再挑戦するのは不可能だ。地竜とは違い、どう見ても洞窟を出てこれるサイズでは無かったのが、せめてもの救いなのかもしれない。
仮に掘り進めてくるにしても、今日明日に出てくることもないだろう。だいぶ奥の方だったし。
いずれリベンジするにしても、今は一旦忘れよう。
最近のセーナはたまに追い詰められたような表情をする。
何を気にしているのだろう? やっぱり大蛇の件が?
レベルが上がるにつれ、上がりづらくなっていくのは当然だ。焦らずとも少しずつ前に進んでいるし、魔王復活までに十分強くなれるはずだ。
そんな話をしても変な笑顔を浮かべるだけだった。私にもセーナの様に感情を読める力があればいいのに。
少しだけ、私たちの関係にぎこちなさが混じりながら、夏季休暇は終りを迎えた




