表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黄金の瞳は深海の夢を見る  作者: マスターオブあんかけうどん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/17

3

礼拝を終え、両家は昼食を共にすることになった。

教会の側の薔薇園で美しい花々を楽しみながら、軽食に舌鼓を打つ。

どこまでも穏やかな時間だ。


そして食後のお茶を楽しむ両親を机に残し、子ども達はいつも通り散策に向かう。


「あまりリネットを歩かせるなよ」

「分かっていますよ!」


セクトウェルス侯爵が声をかけ、シシアスが軽く手を上げる。

少し歩いて死角に入ったところで、先行していたシシアスが足を止めた。


「じゃあ、頼むな」

「はいはい。フィリアをあまり歩かせないでくださいね」

「嫌味な奴だなお前は」


シシアスが拗ねた顔をすると、アンセルは小さく笑い、そして気取ったようにリネットの手を取った。


「ではリネット様、お邪魔虫はあちらへ参りましょう」

「そうね。私たちったらお邪魔虫だものね」


アンセルとリネットにからかわれて、フィリアは顔を赤くする。

ここからは子ども達の秘密の時間だ。


「フィリア、こちらへ」


そういってシシアスは薔薇の生垣の裏にフィリアを引き寄せ、そして抱きしめた。


「会いたかった」


耳元で囁かれ、フィリアは更に顔を赤くする。

少し苦しいほどの抱擁に、その想いの強さを感じて嬉しくもなる。


「私も、会いたかったです」


いつからだったのだろう。

フィリアが恋を自覚するより早く、シシアスは動いた。


その日、真剣な顔でアンセルに何かを耳打ちしていると気づいてはいた。

また何か悪戯を企んでいるのかと思っていたが、気づけばフィリアはシシアスと二人きりになっていた。

そしてその想いを打ち明けられ、二人の秘密の逢瀬が始まった。


実際のところ、アンセルはこの時間にあまりいい顔をしていない。

ただ、リネットがやたらと乗り気で協力してくれている。

妹分なりに、お姉様の役に立ちたいのだろう。


しばらく抱き合っていた二人だったが、肩を寄せて隠れるようにして座る。

フィリアの豊かな髪に口づけたシシアスは、指を通して質感を楽しむ。


「私の目の色のリボンにしてくれたの?」

「……改めて言われると恥ずかしいわ」

「かわいい。私のフィリア」


顔を赤くして目を伏せるフィリアを、シシアスは満足気に見つめる。

そのまま二人は、薔薇の香りに包まれながら束の間の逢瀬を楽しんだ。


フィリアはこの時間が一番幸せだった。

アンセルとリネットが戻って来なければいいのにと願うほどに。


しかし、ある程度で戻らなければ両親が探しにきてしまうだろう。

アンセルはその辺りはかなり厳密な性質なので、多少リネットがごねようと必ず時間通りに戻ってくる。


それを合図に、フィリアとシシアスはまた幼馴染の立ち位置に戻る他ないのだ。


「それでは、また」

「はい、また」


両家の当主が別れの挨拶をし、それぞれ帰路につく。

フィリアは馬車の中からそっと、セクトウェルス侯爵家の馬車を見やった。

離れていくそれに、心がバラバラになったように痛む。


「フィリア。きちんと前を向いて」

「はい、お母様」

「あなたも間もなくデビュタントなのだから。娘気分も卒業しなくては」

「そうね」


沈んだ顔をするフィリアを助けるように、アンセルが明るい声を出す。


「お前だけじゃ不安しかないけど、リネット様が一緒ならなんとかなるかもな」

「お兄様ったら! 失礼ね!」


空気を変えてくれた兄に感謝しつつ、フィリアは調子に合わせてドレスの話などを続けた。

父は黙ってそれを聞き、母は時折嗜めつつも明るく応えてくれる。


フィリアはこの真面目で穏やかな家族が大好きだ。

だからこそ、自分のしていることに後ろ暗さを抱いている。


それでもシシアスを求める心は止められなかった。


邸に着いて馬車から降りたあと、フィリアは自室に下がろうとした。

その後ろを兄が着いてくる。


「お兄様?」

「……お前、分かっているよな?」


いつになく真剣な顔に気押され、フィリアは息を呑む。


「お前もリネット様も、間もなくデビュタントなんだ。これ以上は」

「分かってる!」


思わず大きな声を出し、フィリアはハッと口をふさぐ。

伺うように兄の顔を見れば、その瞳はただ憐れな妹を心配していた。

叱られた方が、どんなにか楽だろう。


「分かっているならいいんだ。変な夢は見るなよ」


いつになく優しい手つきでフィリアの頭を撫で、アンセルは部屋を出て行った。

扉が閉まる音と共に、フィリアはベッドに座りこむ。


「分かっているわ……」


涙が頬を濡らす。

身分を考えれば、シシアスと添い遂げる未来などあり得ないことなど分かっている。


シシアスの妻とは、すなわち未来の侯爵夫人である。

子爵家とて貴族の一員ではあるが、もっと相応しい子女がいるのだ。

その地位はそんなに甘くはない。


だからこそ、フィリアはデビュタントを先延ばしにしてきた。

社交界に入ってしまえば、自分だっていつどこに嫁入りしてもおかしくないのだから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ