2
フィリアの家は子爵の位を持つ貴族家だ。
大きくはないが、豊かで穏やかなヴェラコルダ領を治めている。
そしてヴェラコルダは元々、隣接するセクトウェルスの一部だった。
その縁もあり、セクトウェルスを治める侯爵家との関係は今も深い。
教会が領地の間にあることもあり、両家は礼拝のたびに顔を合わせることになる。
「アンセル!」
「ごきげんよう、シシアス様」
教会に入ると、陽の光に透けた若葉のような瞳がこちらを捉えた。
セクトウェルス侯爵家の嫡男、シシアスである。
彼はいつも、真っ先にアンセルに声をかける。
そしてフィリアへとあたたかな眼差しを向ける。
「フィリアも」
「ごきげんよう」
シシアスは髪も稲穂のような金髪で、少し暗い教会内でさえ光を集めて輝いている。
そんな彼の後ろから、同じ色彩を持つ少女が顔を出した。
「ごきげんよう。アンセルお兄様、フィリアお姉様」
「ごきげんよう、リネット様」
アンセルの挨拶を受けると、リネットはそそくさとフィリアに寄ってくる。
リネットはシシアスの妹で、彼と同じく輝くように美しい少女だ。
非常にフィリアに懐いていて、実の兄であるシシアスよりも頼りにしている節がある。
いつも兄同士で着席して話し始めてしまうので、必然的に妹同士で話すことになる。
男同士でしか話せないことがあるというのが彼らの主張だが、要するにお守りは御免というわけだ。
「今日のお姉様も素敵。若葉のようなリボンですね」
「まぁ、ありがとう。リネットもとっても綺麗なブローチね」
「あのね、前にお姉様が着けていらしたブローチがとっても素敵だったから」
「あら。……真似したのね?」
フィリアがからかうように言うと、リネットはツンとすました顔をする。
「違うわ。お揃いにしたのよ」
「リネットったら。うれしいわ」
リネットはいつもフィリアの真似をしたがる。
それは純粋にフィリアが憧れのお姉様だからだし、フィリアはそれを微笑ましく受け止めている。
両家の両親は、そんな子どもたちの交流を少し離れて温かく見守っている。
少々身分に差はあるが、アンセルもフィリアもその辺りは弁えている。
なにより、貴族の子どもたちにとって年齢の近い子どもとの交流の機会は貴重なのだから。
そんなフィリアも間もなく18歳になる。
デビュタントとしては少々遅れているが、リネットの16歳の誕生日を待つことになっていた。
それはリネットの強い要望もあったし、なによりフィリア自身がまだ社交界に出たくは無いと思っていた。
フィリアには分かっていた。
デビュタントを迎えてしまったら、もうこの日々には戻れないことを。




