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その後も王の暴走は続いた。
愛する弟が結婚したのだから、祝いの席を設けなくてはと張り切っているというのだ。
さらには義妹となったフィリアに会いたいと、熱烈なお手紙を非公式に送りつけてきた。
珍しくプリプリと怒ったラティオが兄を叱りつけに城に乗り込むというのを、フィリアは笑いながら止めた。
愛ゆえなのだ、仕方がないではないか。
フィリアが思うに、きっと王にとってラティオは救いだったのだ。
ひたすらに慕ってくれる幼い手を、若き王は孤独の中でどれほど愛しく思ったことだろう。
立場を悟り、自ら清貧の日々を選んだ弟をどれほど痛ましく感じたことだろう。
弟の願いは全て叶えようとする王が、出家だけは断固として許さなかったと聞く。
王は、なんとしてでもラティオを俗世に留めたかったのだ。
なにしろあの生真面目なヴェラコルダ子爵夫妻でさえ、なんだかんだで既に陥落している。
義父上、義母上などと呼ばれ、満更でもない様子であれこれと世話を焼いているのだから始末が悪い。
ラティオは何も求めない。
故に、周りが放ってはおけなくなるのだろう。
「だから、ね? この夜会だけ。お義兄様のためにがんばりましょう」
「……一度だけです。絶対にこれきりだと、兄上には約束していただきます」
フィリアは説得に説得を重ね、なんとかラティオに夜会への参加を決めさせた。
こうして王の望みは叶い、王弟殿下の婚約お披露目の会が催されることが決まった。
一方でシシアスもまた、予定通りにエレインとの婚姻を済ませていた。
どうせ避けられるものではないのだから。
シシアスはこの頃、次期侯爵として己の足場を固めることに躍起になっていた。
立場だ。立場さえあれば。
シシアスはその一心で、求められる以上に振る舞ってきた。
父侯爵はやっとその気になったかと、隠居の時期を考えるところまできている。
あちらの婚姻が済む前に全てを調えれば、まだフィリアをこの腕に取り返すことができる。
いや、もはや婚姻が済んでいようが関係ない。
フィリアとて、領地とも言えない小さな土地で公的な身分もなく過ごすくらいならば、シシアスに囲われて何不自由なく過ごす方が幸せなはずだ。
鬼気迫るシシアスの努力の結果、いつからかセクトウェルス次期侯爵夫妻はまさに貴族の鑑と言われるまでになった。
誰よりも完璧で、誰よりも歪んでいるのに。




