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ラティオは現王の異母弟であり、本来であれば王弟にあたる。
ただしあくまで庶子であり、本人も既に王族としての正式な権利は全て返上している。
幼少期から聖職者を目指すほどに穏やかで、政には向かず。
まして軍人の気質などとても持たないラティオを、兄王は殊の外可愛がっているらしい。
その溺愛ぶりは貴族中に広まっており、今もなお誰もが彼を丁重に扱わざるを得ないほどである。
王は立場の弱いラティオを守るため、この小さくも穏やかな領地を任せ、のんびりと過ごさせているのだ。
そして療養を名目に、可愛い弟の様子を見に定期的に通っているらしい。
なんとも微笑ましい話である。
礼拝で顔を合わせるようになったフィリアとラティオは、始めこそ会釈を交わすのみだった。
しかし、フィリアが村民たちにこき使われていると勘違いしたラティオが慌ててフィリアに謝罪を申し入れたことから交流が始まった。
誤解は解けたものの、ラティオの目にはやはりフィリアがこき使われているように見えたらしい。
自領の民たちが申し訳ないと、なぜかラティオまで手伝いを申し出た。
村の老人たちは恐れを知らないのか、平気な顔でラティオに水汲みをさせるので肝を冷やした。
しかし当のラティオは全く気に留めていないようで、ニコニコとこき使われている。
以来、フィリアとラティオは揃ってあれこれと村のために働くようになった。
老人の手助けをし、子どもたちに字を教え。
反対に花の名を教わり、質素でも温かい料理をふるまわれる。
そんな穏やかなラティオとの交流は心地よく、フィリアの心を癒した。
こうしてなんの因果か、またもや七日に一度、顔を合わせる相手ができてしまったのだった。
そんな日々を過ごしていたある日。
フィリアが館に戻ると、眉間に皺を寄せたアンセルが待ち構えていた。
「フィリア、お前ってやつは次から次へと……」
「えっ?」
アンセルが差し出したそれは、手紙だった。
差出人は、父。
「読んでもいいの?」
「ああ」
兄の様子を不思議に思いつつ、手紙を開く。
『アンセル、フィリア。息災だろうか。
この度、フィリアに縁談の申し入れがあった。
ついては、急ぎ本邸へ戻るように。』
フィリアは思わず手紙を落とした。
アンセルは額に手を当てて大きなため息をつき、手紙を拾ってから妹の肩を叩いたのだった。




