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アンセルとフィリアが本邸を出てしばらくが過ぎた。
始めこそ兄に付き合って領内を見回っていたフィリアだったが、政務となってくると出番は無い。
忙殺される兄とは違い、すぐに暇を持て余すようになってしまった。
さらには、幼少期から通っていた礼拝が無いのもなんだか落ち着かない。
このあたりは近くに教会が無いので、少し足を伸ばしてみることにした。
ヴェラコルダ北方に隣接するエウレンクラヴェは王領である。
温泉が湧き出ることから、療養地としての機能を持つ。
ただし実際のところ、少し大きめの教会と温泉があるだけの小さな領地だ。
フィリアは礼拝のためにエウレンクラヴェに通うようになった。
なにしろ小さな村しかないので、数回通えばほとんどの村民たちと顔見知りになった。
「クララおばあちゃん! 私にご用事ってなあに?」
「あぁ、お姫様。ちょっとお願いがあるんだけどね」
「どうしたの?」
「春に孫が生まれるんだけどね。靴下を編んでやりたいんだ」
「素敵! じゃあ代わりに手を動かすからやりかたを教えて」
この村は年寄りが多い。
ひとつ手伝ったことをきっかけに、あちこちから細々したことを頼まれるようになってしまった。
嗜みとして刺繍くらいはやっていたが、今では雑巾も縫える。
フィリアはそんな日々を楽しんでもいた。
そしてもう一つ。
フィリアは大切な出会いをしていた。
「ごきげんよう、フィリア様」
「ごきげんよう、ラティオ様」
このエウレンクラヴェの領主、ラティオ。
金の髪と瞳を持つ彼の生まれは、少々複雑である。




