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勇者誕生の儀 

 シリアスさん、こんにちは

最近シリアスばっかりな気がする。早くハッチャケたい(笑)

 あの重厚な扉が開き、智成達の目に飛び込んできたのは、中流階級の民家一軒がまるまる入るようなホールの中央に鎮座している一振りの刀であった。


 いかにも、私が聖剣です、といわんばかりに堂堂と佇み、鎖が巻きついた渋みのある銀色の鞘に収められた刀。ちなみに刀は鞘諸共小高い丘に半ばまで埋まっている。




 ──まるで誰かを弔うために建てられた墓の持ち主を象徴するかのように──。




 宇宙を閉じ込めたと言っても過言ではない、満天の星空が広がる天井に、己の命を託す得物を向ける兵士達。六角形の壁沿いにブワッーと一部の隙間なく整然と並んでいる。勿論、歴戦の兵士ばかりで隊を預かる隊長やそういった人と、遜色のない実力をもつ隊長格ばかりだ。

 みんながみんなゴツイとは限らないが、無言で迫られたら泣きそうにはなるほどには圧力がある人種が所狭しと並んでいる。


 そんなことを意にも介さずに、歩を進める智成。最初から、何をすべきか、なんて自然と頭に浮かんだ。一度も来たことのない筈のこのホールに、何故か既視感を覚え、聖剣をみて胸が痛んだ。この感情を言葉にするとするならば、罪悪感と果てしない感謝、だろうか。いずれにせよ、悠々と歩く姿には似合わず、智成の内心には困惑の二文字が浮かんでいた。



 小高い丘を迂回して、出入り口の反対側、つまり真正面、上座へと向かい一段高くなったステージの中央で立ち止まる。エミューは粛々と智成の三歩後ろをついていく。いつもとは違う凛々しい雰囲気に胸をときめかせながら。


 そして、それはなにも彼女だけではない、ということをここに明記しておく。



 智成が、所定の位置についたことを中央を空けて立っていた、王族や騎士団長やそれに準ずる騎士達は身じろぎもせずに気配だけで感知した。……否、身じろぐこともできなかった(・・・・・・)

 本来、非戦闘員である王妃や王女、第一王子は気配などほとんど読み取れない。それなのに読み取れたのは、いまの智成が濃厚な気配を発しているからだ。


 彼らの心境を表すとしたら『なんて神々しいんだ』といったところか。そんな、濃密な神々しく、聖なる気に当てられた人々は、歴戦の兵士はおろか、様々なプレッシャーに打ち勝ってきたアンティカノス王国現国王でさえも、身動きはおろか、息をすることをも忘れようとしていた。例え、正の気だったとしても、いき過ぎたものは毒へと成り下がるのだ。

 意図せず、気を引き締めただけで大量殺人を犯そうとしていた智成は、だんだんと酷くなる頭痛に辟易としていた。そんななか、必死で痛みをこらえ、モヤがかかり、鍵がかかったかのように判然としない思考でアクションが起きることを待っていた。


 突如として、静謐な空間に、雑音が交じる。


 ──ザワ……ザワザワザワ……ザワザワ

 ──ガヤガヤガヤ、ガヤ……ガヤガヤ


 いつまで経っても、始まらない勇者誕生の儀に痺れを切らした民衆だ。各地にマジックビジョンは張られているが、王城前の広場には一際大きいものが浮いている。それを目当てにした、大量の人民が集まっていたのだ。それ故、一人が騒ぎ出したら、水紋が拡がるように不安に駆られて伝染していった。



 ──フウ



 そんな智成のため息と共に、異常に引き締まり、息苦しい空間が弛緩する。


 ハッ、と我に返ったアレクは伝統に従い儀式の始まりを、若干震えが残ってはいるが、威厳のある声で宣言する。


 ──シン


 今度は民衆が押し黙る番だった。これから起きることに何かを感じ取ったのかもしれない。


 国民中が注目する中、脈々と受け継がれてきた手順に沿って式は進む。



「──民草を守り、秩序を正す王国の盾となりしもの達よ、勇者に近き力を持つものを選定し、聖剣が聖剣であることを確かめよ。」


 朗々と、深い低めの美声が響く。震えは完全になくなり、威厳を滲ませた声色は聞くものを従わせる。これが、王たるアレクの公での姿だ。


「はっ!」


 すぐ側に仕えていた、身長は190cmを優に超にし、身の丈ほどの大剣を背負い、白銀の鎧に身を包んだ巨漢が、少し野趣に溢れる精悍な顔に似合った声で返事をする。正義にいきる、王国の盾。騎士団、最強の男。アンティカノス王国騎士団団長、バリーだ。


 今時、チープな設定となりつつある真の勇者にしか抜くことの出来ない聖剣。それを勇者しか抜くことの出来ぬものだと、認識させるだけの行為。あまり生産性のないことだが、誰が勇者であるかを印象付ける、大事な過程である。


 ちなみに、初代の遺したこの聖剣は歴代の勇者は1人も抜くことは出来ていない。それを幻影やら何やらで誤魔化しているのは宮廷魔術師長だ。このことは、その魔術師のトップと国王しか知らない。


 言い方を変えれば、歴代勇者はまんまと踊らされていたわけだ。聖剣ではない聖剣を握って。薄々、感ずいていた者も居たが、総じて頭の回転が速かったため、深入りすることは無かった。まあ、力は本物で当時世界には勇者にかなう力を持つものは存在しえなかったのだが。



 通年通りであれば剣に触れて抜く動作をするだけで、確認作業は終わるはずだ。全国民が注目することのよる、プレッシャーで緊張はすれども、バリーにはほとんど関係の無い話である。魔物との戦いに比べたら簡単な仕事だ。ハプニングなんて起こるはずもない。そう、誰もが想像していた。イレギュラーな存在がいるにもかかわらず。


 いつまでたっても剣を抜く動作をしないバリーの異変に、最初に気付いたのは、ミスターイレギュラーこと智成だ。一度小高い丘に焦点を当てよう。



 聖剣に触れたバリーは、脂汗を流し、必死で何かから耐えるように剣の柄を握り微動だにしない。ナニカに取り憑かれたかのように。


 ──彼の両手からは聖剣へと魔力が大量に流れていた。異変の真っ最中だ。


「──まずいっ! 誰か止めろ!! 魔力が枯渇して、生命力まで使い始めたら死ぬぞ!?」


「お、仰せのままにっ!」


 叫ぶようにして現状を伝える智成の声に、一番近くにいた騎士が素早く駆け寄り、体当たりをかます。


 ──が、びくともしない。


 しまいには、弾き飛ばされる始末である。


 王が舌打ちのモーションに入り、音がなると同時に、バリーの体は木の葉のごとく投げ出された。


 寸の間遅れて、一陣の風が吹く。今日も今日とてメイド服を着ていた、蒼い髪をした少女は、髪とスカートを抑えて目を見張り、驚きをかすかに顕にした。


 いつの間にか、騎士団長は元の位置に戻り、今代の勇者が柄に手をかけようとしていたのだ。



 ──ドッ、クン



 音ともいえない音がかすかに鼓膜を震わす。


 今度は、誰もが異変が起こっていると認知した。目に見えるほど緻密で質が高く、膨大な量の魔力が聖剣へと流れている。あまりの魔力に誰もが固唾を飲み、見守ることしか出来なかった。


 そして、緩やかに明滅する、聖剣。


 やがて、光っている時といない時の境目がなくなった時、虹色の光が辺り一面を塗りつぶした。




 side ???


 その男は、怪しげな移動式迷宮の研究室の一室で、優雅に紅茶を嗜んでいた。

 昨夜からの徹夜でようやく、ようやく、満足のいく研究結果が出て、一段落ついたところだ。


 ボサボサな、くすんだ金髪頭に、よれよれの白衣を着ているが、その不潔さも様になっているイケメンは、満足げに口角を上げていた。世の女性が、狂乱しそうなニヒルな笑みは次の瞬間に脆くも崩れ去った。


 

 ──莫大で、膨大で、絶大で、卓絶で、傑出した魔力を感じたからだ。



「……はっ!? な、んだ? この魔力は。この方向はアンティカノス王国……? 待てよ……今日は勇者誕生の儀か……!?」


 ブツブツと呟き、いつもの飄々とした雰囲気はどこへやら、かなり真剣なご様子。




「──この気配はっ!? 奴らが目覚める。まずいっ! まだ、足りてないぞ、あいつには!」


 彼しかいない筈の研究室はにわかに騒々しくなる。フワフワと漂っていた精霊達が突然のことに慌てふためく。そんな精霊達の様子を尻目に緊迫した様子で、術式を構築する。


 ──念話だ。


『おい! 聞こえるか? 朱雀!!』


『そんに怒鳴らんくとも聞こえております。──さま。どうなさったので?』


『────様が……いや、今は智成、か。彼が勇者としてそっちにいるはずだ。』


『ええ、おりますね。久しぶりに質のいい魔力で叩き起こされて、つい夢中で食べちゃったわ。うふふ。』


『そのことは別にいいんだ。ただ、あのことは絶対言うなよ。絶対だ。これはお願いじゃなく命令だ。彼にはまだ、格が足りてないんだ。当然、覚悟もな。』


『さて、あのこととは、なんのことでしょう?』


『とぼけるなよ。今のあいつに知られたら、何が起こるかわからん。もしかしたら、この次元そのものが吹き飛ぶかもしれん。』


『存じておりますよ。また、あのような想いをするのはヤですから……』


『……。お前らも頼んだぞ……!』


『『『御意』』』



 一段落着いた彼らの上位者は──


「……ったく。そんなに魔力を放出して。元気いいねぇ、智成君。何かいいことでもあったのかい?」


 ──いつもの様子に戻り飄々と呟く。


 そして、しがない研究者はいつもの平穏な研究ライフへと軌道修正するのであった。

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