晩餐会数分前
寝落ちしました……
確認作業が終わり、雑談を交わすこと数分。
──カチリ
子龍が戯れている様子があしらわれた、アンティーク調の掛け時計が、晩餐には少し早い、青龍二の刻つまり、午後五時をさす。
「さあ! 覚悟を決めてください。移動する時間ですよ」
「ああ、わかった。」
「あれ? あんまりジタバタしないんですね。」
あんなに回避したそうだったのに、と心底不思議そうにコテリと首をかしげる、苛烈で過激な勇者専属メイド争奪戦を勝ち抜いた、スーパーメイド、アリエス荘の看板娘こと、エミュー。
「うーん、まぁ、なんとかなるかな、と思って。習ったテーブルマナーが、ここのと一緒だった、ってのが大きいかな。」
と、数十分前をしみじみと思い出す、今代の勇者(仮)、智成。
「そう、ですね。ていうか、ナイフとフォーク使うの、うますぎですよ。もはや、嫉妬を覚えるレベルです。」
プクッと頬を膨らませ、抗議の声を上げながらも、智成の服装が乱れてないかを確かめ、己の仕事を全うしている。やはり、こういった気遣いができるが故に争奪戦を勝ち抜けたのだろう。手際の良さは言うまでもない。
凛とした雰囲気から一転、頬を膨らます、という子供じみた行動で意識されられるギャップと服装チェックを行うために、近づいた彼女の柑橘系の香りにドギマギしながら、必死で外面を取り繕い──
「それは言い過ぎじゃないか?」
──と苦笑する。
「そんなことないですよ。……よしっ、マナーも覚悟も服装もバッチリ。あとは、楽しむだけです。」
「……楽しむ?」
──バタンッ
──カチャッ
扉を閉め、鍵を掛けるのは侍女たる彼女の仕事。
教室の通路(机と机の間)で、運悪くバッティングしたときは、道を譲るなどと、割とレディーファーストで生きてきた智成。同じく戸締りをするのを、マナーに齟齬がないかと確認した時の食器を片付けようとした時に、彼女から仕事を取らないで、と叱られた経験を活かし、なんとか自重する。
「ええ、当たり前じゃないですか。晩餐会なんですから。今回は国王様の御家族だけですので充分達成できますよ。みなさん、気さくな方ばかりですから。きっと、対等で話してくれる存在を欲しているはずです。」
「そういうものなのか……?」
「そういうもの、です。最初から高い位にいると、気軽に話せる友達ができない、って嘆いてたのを昔聞きましたし。第一王子様は特に切実じゃないんでしょうか。」
なぜ彼女が、昔から王族のかなり突っ込んだ事情を知っているのかはさておき。
突き当たりの角を曲がり、東館へと続く渡り廊下へと足を踏み入れる。
「ところでアンティカノス王家の家族構成って?」
「そう言えば、一般常識に疎いんでしたよね。」
「そりゃ、ね。生まれた世界が、文字通り違うし。」
「こんなこと言ったら失礼何でしょうけど、この短い期間でトモナリさんの万能さを目のあたりにすると、知ってないことに疑問を覚えますね。」
「別に知ろうと思えば自分で調べられますぅ。仕事大好きなエミューちゃんに、譲ろうとしただけですぅ。」
「トモナリさんに関わっているから、仕事が好きなだけで、仕事自体が大好きなわけではありませんからね。ふふっ、まあ、でも、そういうことにしておきましょうか。」
智成の拗ねを適当にいなし、話しを再開させる。彼女の話をまとめると──
アレク アンティカノス王国国王。現在王国最強。(智成を除く) 家族を溺愛しており、公の場という舞台を用意しない限り、甘甘になってしまうダメパパの一例。
フィーリア アレクの妻。おっとり系の美人で王都で人気の詩人。時々、毒舌を吐くことがあり、廊下で使用人が胸を抑えてうずくまっているのは最近の風物詩。アレクとは幼馴染み。
年はヒ・ミ・ツ……とのこと。
ライラック(20歳) 第一王子。勤勉で生真面目。帝王学の大詰めに入っている。かなり優秀な為、いつでも王位が交代出来る状態。父親とは違い、ON/OFFの切り替えが上手く、仕事の効率の良さは随一。勿論、公私混合は言語道断。これを聞いて、アレクが胸を抑えてうずくまったとか、いないとか。
フィオナ(18歳) 第一王女。光属性を得意とする、王国屈指の魔法使い。清楚な容姿、雰囲気と相まって聖女とも呼ばれている。勇者召喚のときから、オシャレに気を使い始めた。それに気づいた、城の人々は生暖かい目をしていたとか。
ティース(16歳) 第二王子。普段は少し落ち着きがなく、軽い雰囲気を出しているが、ここぞという時に真価を発揮する勝負強い性格。兄を慕っており、王位を継ぐことより、臣下として働くことを望んでいる。
フリージア(12歳) 第二王女。まだ、あどけなさの残るカワイイ盛りの少女。誰とでも、数分とかからずに打ち解けることの出来る、ある意味将来が怖い女の子。計算でやっているのなら、ともかく、素でやっているのがなおのこと危機感を煽る。
ペオニー(8歳) 第三王女。若干人見知りで、母親の後ろで隠れていることが多い。家族の中で花を愛でることが一番好きで、思いやりに溢れた女の子。現状、その思いやりが動植物にしか向けられておらず、どうにかしてヒトに向けさせようと、アレクが日々奮闘している。ちなみにフィーリアは遠くからニコニコと見守っている。
王族には珍しく、側室がいない。妻からは不測の自体に備えて一人ぐらいはつくれ、と言われているが、のらりくらりと躱す日々を過ごしている。それくらい、アレクはフィーリアにゾッコン。フィーリアはそんな彼の態度が嬉しくない訳がなく、強く言えないまま今日に至っている。
──ということだ。
「中睦まじくて、羨ましい限りだよ。」
「ホントですよ。こんな家族を作ってみたいですね(チラッ」
わざとらしく、彼をみるが、偶然視線を外していて気づいていない。ため息を吐きそうになるのをなんとかこらえ、いつの間にか渡り終えていた、廊下に別れを告げる。
一つ深呼吸をしてノックをして、明るい色の木製の扉に、手をかけゆっくりと開いた。




