暫し時を遡るpart3
エミューちゃんによると、〈龍王の湯〉とは、庶民からの成り上がり貴族の旗頭、後の初代アンティカノス王と、眷属を傷つけられて激おこだった、これまた後の龍王が手を組み、当時圧政を敷いていた前王朝をぶっ倒した際の友好の証として作られたそうな。
何故、唐突に説明をしたかと言うと、説明したくなるほど脱衣所が既に立派過ぎて脳が現実を直視してくれないのだ。
その脱衣所はと言うと、至るところに大小様々な竜の彫刻や壁絵が施されており、質実剛健な城内とは一変、豪華絢爛な様相を見せている。
エミューちゃんに「こんなところで驚いていたら、身が持ちませんよ」と笑われながらもキョロキョロするのは止められなかった。
……うん? エミューちゃん? Why?
「あの……なんでついて来てるの? 女湯アッチだよね?」
「ええ、そうですよ。まさか、トモナリさん、覗きたいって言うんじゃありませんよね?」
「……ちょっと待て。君の中で俺の評価がどうなっているのか、小一時間ぐらい問い詰めたいが、そこじゃない。そこじゃないんだ。問題となっているのは。」
「それでは何処なのでしょうか?」
「君が平然と男湯の脱衣所について来ていることだよっ!」
「当たり前じゃないですか。トモナリさんの専属のメイドですので、お身体とか洗わせて頂かなければいけませんから。」
「え、いや、ちょっと待って、心の準備ができてない。大変ありがたいけど、き、今日はえ、遠慮しとくよ。うん。」
始めの元気はどこへやら、途端にしおらしくなる(?)俺。──ヘタレとでも何とでも言うがイイさ! は、恥ずかしいじゃないか! だが、踊りだしそうになるのを抑えるのは大変だったけどね!! ……やべ、鼻血出そう
「そう、ですか。それなら仕方ありませんね。またの機会に。」
やけにあっさり退くな。もっと食い下がって来ると思ったのだが。それはそれで寂しくなり、複雑で面倒くさい感情を持て余しながら、去っていく彼女の後ろ姿を見送った。
★★★
日本の銭湯と同じような造りの棚にあった籠に、着ていた服を畳んでいれ──俺は几帳面なのだ──ピカピカに磨かれたガラス製の引き戸を開ける。
すると、真正面の壁一面に描かれた、龍王と思われる凄まじい貫禄を持った東洋龍チックな生物が目に飛び込んできた。
黒色の体に所々金色が入ったその巨体は、それが絵だと分かっていても敬意を払いたくなるほど荘厳に描かれていた。とぐろを巻いてさえいても、巨体を書ききれておらず、何カ所か飛び出ていて、それが一層迫力を増している。極めつけに、頭だけ石の彫刻で、絵から飛び出しており、開いた口から真下の巨大な湯船へと轟轟と湯が流れている。
これが〈龍王の湯〉か。思わず圧倒されちまった。さぞや、間抜けなツラを晒していたことだろう。誰も居なくて助かった……。勇者がそんな顔してたら締まらねぇからな。いや、この国の王は誇らしそうに笑うだろうか。まあ、そんなことはどうでもいい。
備え付けのタオルをしっかり腰に巻き、向かって左側に向かう。
そこは洗い場で、銭湯によくあるあの形の椅子に座ると、丁度いい高さに体感で40度ぐらいのお湯が緩やかに流れている。
近くにあった桶で湯を汲み、頭からかぶり、〈クリエイト〉で作ったシャンプーで頭を洗い始める。
──ガラガラガラッ
うん? だれか来たのだろうか? 頭を洗ってて確認出来ないからそのまま洗い続ける。しようとも思えばできなくもないが、そこまでしてする必要もない、かな。数秒間、頭を洗う音と、ヒタヒタと浴場を移動する音が無駄に大きく響く。
──ふにょんっ
……ちょっと待って。おかしいなぁ。背中に何か柔らかいものが当たっているんだけど。
「お背中流しに参りましたっ」
〜〜〜!?!? 何という破壊力。耳もとで喋られたので、余計にゾクゾク来ちゃったよ。もう少しで内なる獣が暴れだしそうだった。危ない、危ない。
んーと。この声は、紛うことなき、先程見送った筈のエミューちゃんのものですね。はい。
「ささささ、さっき出ていってたよね!?」
「シャイなトモナリさんのことですから、これぐらいしないと懐に入れないかなー、と思って。」
と言いながら既に俺の手は、頭を洗う、という任務を追われエミューちゃんの細くてしなやかな指が任務を続行している。……流石、厳しい(?)選抜戦を勝ち抜いただけあって、素晴らしいお手前であります。だんだんと頭が冴えて来るような、そんな感覚がする。ようするに、とても気持がちいい。
一通り洗い終えたのか、心地よい圧力が消え、続いてお湯が流れる音が鳴り、泡が排水溝へと流れていった。そんな光景を骨抜きにされた俺は、見るともなしに眺めていた。後ろでお湯をかぶる音が二、三度聞こえ、後に石鹸を泡立てる音が響く。
「それではお身体を洗わさせて頂きますね。……ンンッ!……」
と言う言葉と同時に柔らかくてスベスベしたものが背中を覆う。ハリのある物体と共に何かまた違った感触のする二つの突起も押し付けられていることに関してはツッコんだら負けだろう。
そして、あの綺麗でしなやかな指は、俺の左手を丁寧に、艶めかしく洗っていた。
……けしからん。実にけしからん。今はタオルで隠されているが、聖剣が臨戦体制に入っていたことも観測された。
「……ンッ!……ふぁ、ん……ハァハァ。……ヤヤぁん!……ンんッ」
耳元で悩ましい声が聞こえるが、気にしてはいけない。気にしてはいけない。心を無心にし……たら、余計に気になるぅ!!
耐えろ! 耐えるんだ。ここではマズイ。
「ひゃぁん……ん、ンん〜〜!」
たエロ! たエルんだ。
あかん、発音がオカシイ
★★★
──ピーピーピー ピーピーピー ───
あっ、ホントにマズイ。予防線として張っといた、〈人探知〉が反応した。
「え、エミューちゃん!? 誰か来たっぽい! ふ、服何処にしまった?」
「ンっ!……〜〜〜!?!?!? ふ、ふくなら、トモナリさんのとなりれす。」
えーと、ということは左から二列目で下から五列目か。探っている間に体制を変えずに、エミューちゃんを水魔法でお湯を上から流し、一時的に体を操って立たせ、時魔法で時を引き伸ばし、近くにいた妖精にタオルで体を拭いてもらうようお願いして、髪を風魔法の〈ドライ〉を使って乾かす。
──見つけた! ここか。効果範囲の座標を固定。即席で作った魔法、〈瞬間着衣〉を使う。
「エミューちゃん、部屋はどこ!」
「へ? なんで私、服を?」
「いいから、早く!」
「は、はい! 三階の一番南にある部屋です。」
へぇー、日当たりのいいとこに部屋があるんだね。もっとも、それは北半球と同じように太陽が東から上って南を通り、西に沈む場合だけ、だけどね。
──じゃなくて!
「〈テレポート〉!」
あとは、俺も湯をかぶって泡を洗い流し、〈テレポート〉
──チャポン
──ガラガラガラッ
俺が湯船に入るのと、誰かが引き戸を開くのはほぼ同時だった。
あっぶねぇ、ギリッギリ間に合った。
余談だが、エミューちゃんを送り届けるとき、一切姿勢を変えていない。まさか、こんなところで師匠の教え、〈目隠しで魔法の行使〉が役に立つとは思わなかった。
とてつもなく惜しい事をしたような気がしないでもないが、これで良かった、と思う。というか、思いたい。
かくして、二話前の冒頭へと、戻るのだ。
いつかは来ると思ってたんですが、いざこうなると、感慨深いものがありますねぇ〜。そして、何という鋼な精神。だが、これだけは言わせてもらおう。
爆ぜろっ、智成!
過去を書かずに、このシーンってのは厳しいものがありますか? 感想お願いします




