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side  魔族

 アンティカノス城裏手には鬱蒼とした森が広がっている。普段なら野生の獣や野鳥の鳴き声、木々の枝が風に揺れる音が辺り一帯を支配しているはずだったが、現在は異様な静けさに満ちていた。


 それは木々に隠れるようにして至るところに人成らざるモノ、すなわち魔族が息を潜めているからである。


 異形のモノが息を殺している域を抜け、少しばかり奥へ進むと開けた場所へと出る。

 そこには目を合わせただけで凍ってしまいそうな程の冷たい碧眼をした1人の女性が絹のような滑らかな金髪を緩やかにはなびかせながら悠然と佇んでいた。


 突然、一陣の風が吹き1人の偉丈夫が姿を現した。2mに届こうかという大柄な巨体には約30cmにもなる捻れた2本の角と自身の体をすっぽりと包めそうな程の大きな蝙蝠の如き羽を生やしていることから、この男も魔族であることが伺える。


「閣下、ご報告に参りました。」


 頭を垂れ、片膝を地面につきながら発言をする偉丈夫。閣下と呼ばれた女性は、1度たりとも対面する時に今、偉丈夫がしているような体勢をとれ、などとは言っていない。彼女から滲み出る高貴で気高い風格が自然とそうさせるのだ。


 初めのうちこそ、彼女はその体勢を止めるように言ってきたが一向に止める気配が見えないため、そのことに関しては既に諦め受け入れる事にしている。


「ふむ、申して見よ。」


「はっ! 謁見の間に運び込まれた、転移陣付き絨毯が無事に起動し同胞が城内に散らばり制圧を開始しました。もう暫く経つと王族を捕らえ、制圧が完了すると思われます。」


「計画通り、か。確か今日は勇者誕生の儀が行われるのではなかったか?」


「その通りでございます。唯一の懸念事項ではありますが成長仕切る前に葬ることが現場にて判断された模様です。我が愚弟が騎士団に副団長として潜り込んでおりますので万が一もないかと。」


「実力では(うぬ)には一歩及ばぬものの、策略、知略に長けた人物、だったか。」


「仰る通りでこざいま……!?」


 突如、濃密な魔力が城から、満杯のコップから水が溢れ出るかの如く流れ出てきた。潜んでいた魔族が浮き足立ったのを彼女もまた魔力を吹き出すことで強制的に落ち着かせる。


「これは……(あいつ)の魔力か? 何が常に冷静沈着なあいつをここまでさせたんだ?」


 彼女の御前であることも忘れ考察を始める偉丈夫。そんな彼をよそに──



「覚醒だな、これは。今どき珍しいのう……。うぬも覚醒はまだだろう? そもそも覚醒するヤツ自体も減ってきておるしな。」


「覚醒、でありますか?」


「そこからなのか……。まあよい。逆境、窮地または瀕死の状態に陥ったものが稀に達することの出来る境地だ。筋力、魔力、五感、生命力あらゆる物が以前と比べものにならん程強化される。が、今回の場合は暴走しかけとるな。どうやら理性を失っておるようだ。今のところぎりぎり保っておるようだが…………」


 (何故そこまでお分かりになられるのだろうか? やはり魔王様だからだろうか? そうだ。そうに違いない。)


「……? どうされました?」


「カカッ! いやいや、どうしてなかなか勇者もやるのう。暴走直前とは言え覚醒した高位魔族を一撃で沈めるか。成長する前に、と言うかもう既に成長し終わっておるのう。うぬには悪いがやはりこうでなくては。」


「いえ、お気になさらずに。所詮その程度の器だったというだけです。」


「カカッ、カカカッ、そうか、そうか。まあ、うぬも到達したことない覚醒にまで達したんだ。そう貶めるでない。ああ、そうだった。撤退だ、皆のもの。このままだと少し分が悪い。」


「「「はっ! 仰せのままに」」」





 刹那に広場にはあたかも最初から誰もいなかったかのように姿形、気配が完全に消え、数分後には木々に潜んでいた魔族も撤退が完了していた。


 そしていつも通りの森のざわめきが戻ってくるのであった──。

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