それぞれの前夜
遅くなりました。
拝啓
暑さもようやく厳しさを増してまいりましたが、今代の勇者、トモナリ様にはお変わりなくご健勝のこととお喜び申しあげます。
(中略)
私共もおかげさまで変わりなく元気で過ごしておりますので、なにとぞご休心ください。
つきましては、突然で申し訳ないのですが、勇者誕生の儀を明日、開催することとなりました。然るべき格好、態度で朱雀一の刻に王宮においでください。
炎暑の毎日ですが、夏負けなどなさらないようお祈り申しあげます。
敬具
アンティカノス王国騎士団副団長
シュリアス・カルロス
ハァーー、厄介事の臭いがプンプンする。ところどころ敵意が見え隠れしとるし。なんやねん、然るべき格好と態度って。冒険者に何を求めとるんじゃ。しかも、今時使われてない、旧刻使いやがって。そのくらい知っとるし(と言うか叩き込まれた?)つまり、7時だろ?
説明しよう。この世界は1日24時間である。まず、そのことを念頭にアナログの時計を思い浮かべて欲しい。12は玄武、3は青龍、6は朱雀、9は白虎の刻となる。
四神との間に2時間あることは承知の沙汰だと思う。それを〇〇一(または二)の刻と書き、細かい時間は表している。
何故、四神が用いられていたのかは諸説あるが解明には至ってない。
にしても、然るべき格好か。やっぱり礼服だよね。ド肝抜いてやんよ。そして、然るべき態度だろ? これから公の場に出ることも多くなるだろう、ってことで白衣の師匠にバッチリ教わってるからな。
問題ナッシングッ!
つうことで、礼服の作成に入りますかな。今からやれば、十分間に合うだろう。久しぶりにお世話になります。〈物質創造〉さん。
──アレをこうして、コレをこうする。んでアコをアアすれば……
♦イメージと共に魔力を練り上げる、智也。
なんだかんだ言いつつも楽しげな様子である。そして、こうなれば誰も止めることは出来ない。
我々としてはデザインが非常に気になるところだが、明日の楽しみとしておこう。
★★★
所変わってアンティカノス王の執務室。その部屋を一人の男が訪ねていた。
コンコンコンッ
「シュリアス・カルロスです。報告に参りました!」
いつも通り、男性にしては少し低く大きな声が廊下に響く。
「入れ」
「はっ! 失礼します。」
「明日の勇者誕生の儀の準備はどうなっておる?」
「はっ! すべて滞りなく進んでおります。あとは謁見の間の絨毯を取り替えるのみとなっております。」
「(はて、絨毯を取り替える、なんて話あったかの? 少しきな臭くなってきた様じゃ。警備を増やしておくか。)何事もなくて何よりじゃ。下がって良いぞ。ああ、そうだ。サンユを呼んでくれ。 」
「はっ! では失礼しました。」
(クッククク 名君と呼ばれたアンティカノス王も衰えたものだ。勇者誕生の儀については焦ったが、それも追い風にしてなんとか整えた。それにしても時間がかかった。成功させて必ずや吉報をあなた様の元へ。)
一礼して去っていく副団長。その彫りの深い整った顔に不気味な笑みが浮かんでいた事は誰も気付いていなかった。その笑みが何を意味しているのかも……
──サッ!!
黒装束に包まれた人物が執務室に突然現れる。それを知っていたかのようにアンティカノス王は口を開く。
「来たか。それでは早速報告を。」
「勇者はウエイトレスの1人と談笑しながら席につき、非のつけ所の無い所作で、こちら側で多少豪華にした食事を完食しました。そして、その際に、ダメ元で読心の魔石を使った結果などを報告書にまとめておきました。」
「……ふむ。特に人間性に問題はなさそうだな。これだと明日も万事上手くいくだろう。……!? なんだこれは!!」
「──? どうかいたしましたか?」
「何なんだ、この見事な食事の感想は。今からこれと同じ食事を用意できんか? 猛烈に腹が減ってきた。」
「すぐに用意させます。」
「お前はもう食事は済んだのか?」
「いえ、まだです」
「なら、あの頃と同じように、一緒にどうだ? お師匠様。」
「お戯れを。あの頃とは違うのです。ご自重下さい。」
「いいじゃないか。今日ぐらい。ささやかな前夜祭ということで手を打てないか?」
「……ハァ。それならば仕方ありません。それではご相反に与かります(変わらないな、この人は。それにしても、さっきから胸騒ぎが止まらない。何事もなければ良いが……)」
その頃、智也もまた妙な胸騒ぎを覚えていた。
漸く満足の行くものが作れた。つっかれたァー。これ魔力消費が馬鹿になんねぇな。やっぱり材料準備すれば良かった。
さっきから胸騒ぎが止まらない。これは王都に向かう時にも感じたものと同じだな。誰が何を企んでいるのやら。




