修行編 其ノ肆part2
分厚い灰色の絨毯が敷かれているかのような曇天の中、九つの首を持つそいつは姿を現した。
「「「キシャャーーーーーッ!!!」」」
再び、咆哮。殺る気は満ち満ちているようだ。こころなしか気温が下がり、分厚い雲の絨毯から、青白い閃光が走る。
「今度こそ、どうやって対処すっかな。ってうぉ!?」
♦九つの首のなかの一つが容赦なく智成を噛み砕かんと迫る。咄嗟に身体強化して避けなければ今頃、九頭の怪物の餌と成り果てていただろう。
── 一方的に屠る側から屠られる側へ。
♦ 弱いものなど生きる余地がない、弱肉強食のこの世界で己が生き残るためには、常に相手より強くなければならない。そんなことに気付き、智成は悲壮感を抱いているかと思いきや………むしろ
──獰猛な笑みを浮かべていた。
♦その口元は、三日月のように裂け、目元は、微かに下がっているが、確かにその瞳の奥にはメラメラと闘気が燃えていた。
♦“どうやって屠ってやろうか”と言わんばかりの笑みを浮かべた智成は〈俊光〉を発動し脳をフル回転させていた。
あの首の攻撃はヤベェな。咄嗟に避けてなかったら、あの一撃で終わってた。
さてさて、さーて、どうやって仕返しをしてやろうか。
たしか、かの有名なヘラクレスは首を切り取ってから火で傷口を塞いでたよな。ということなら、
「〈緑風の刃〉! 〈灼熱の槍〉!」
♦ 最近ますます威力の上がったブーメランのような形をしたうっすら緑色に光る風の刃、従来の〈火の矢〉に酸素の概念を付け足し、温度をこれでもかと上げた〈灼熱の槍〉は青色の炎を身にまとい長さ2m、直径10cmの巨大な槍。それらが一直線にさっき攻撃を仕掛けてきた首に向かっていた。
♦刃の大きさ、槍の大きさ、スピード、威力、何一つ申し分のない魔法。
♦ 首を刈り取らんと迫った魔法をヒュドラは慌てる様子もなく軽々と避けた。
「――ッ! そりゃあ、そうだよな。今までとは訳が違う。〈緑風の刃〉×9! 〈灼熱の槍〉×9!」
♦やはりそれすらも少し体を動かしただけで避ける。
彼の顔に微かに焦りの色が浮かぶ。
♦油断などしていなかった。魔法もこれ以上ないほどに会心の出来だった。なのに……
届かない。
当たらない。
及ばない。
何が足らないんだ? 考えろ。考えろ! 考えろッ! 奴を屠る為に何が必要なんだ……!?
♦今度はこちらの番だと言わんばかりに九つの首が一斉に智成を襲う。
「──っ! グハッ!」
♦避けきれず一つの首の牙が左腕にかする。また違う首が右腕、左足、右足をそれぞれ傷つけていく。
♦九つの首の瞳の色が“興味深い”から“興醒め”へと変わる。これぐらいの攻撃、避けれないの? と語りかけているかのようだ。
♦朦朧とする意識の中、彼は考えていた。
初めてここまでの傷を負ったな。クッ! ……ハァハァハァこれは、毒? 患部がしびれてきたぞ。……ッハァハァ……麻痺? そして、燃えるように痛い。……ハァハァ 炎は再生の象徴だったよな?〈蒼焔の守護〉!
ハァ……ハァ……ふぅ、なんとか楽になった。
きっとまだ粗いんだ、魔力の使い方が。魔力は血液と一緒に血管を流すだけでいいのか? 断じて否だ。そんなことをしているから、こんなことになったんだ。もっと細かく。もっと効果的に。もっと、もっと、もっと………………………………
魔力を粒子にして血液の中に流せば、細胞まで届くだろうか? 体が持つかどうかわからないがものは試しだ。
心臓に魔力の粒子が、あることをイメージ。そこから全身へ、くま無く行き渡るように……
うしっ。出来た。全然違うね。体が軽い。しかも、もう既に傷もないし、完全に痺れも取れた。〈紅き命の源泉に、魔粒子を添えて〉とでも名付けようか。
あっ…………!?
♦この間、一秒。〈俊光〉を習得していたが為に出来た、この所業。だが、あの怪物には一秒もあれば矮小な人間、1人殺すくらい訳ない。
〈紅き命の源泉に、魔粒子を添えて〉を習得した、その瞬間には大きな口を開け、捕食の対象となっていおり、例に漏れず、智成の体を喰いちぎったかのように思われたが……
――キーーーンッ!
♦牙と智成の体が当たり甲高い音がなり響く。どうやら身体能力だけでなく、体の硬度も大きくなっているようだ。
? 確かに、牙が突き刺さった、と思ったんだけどな。まぁ、いいか。
これなかなかに反則だな。視力、聴力、嗅覚などの五感が鋭くなってるし、身体能力は勿論、体の強度もおかしい。だけどまだ足りない。これじゃ、負けはしなくても勝ちもしない。
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
♦膨大な魔力が体から吹き出し、可視化できるほど濃い魔力が、智成を中心に渦巻く。だんだんとその魔力は紅く淡い光を帯びる。数秒後には、その紅い光が智成を覆い隠した。やがて光が収まり中から出てきたのは…………




