第一章 ⒈『突然の片道切符』
一人暗闇の中、今日もいつものようにぽつんと光る画面の前にいる。イヤホンは標準装備、おまけに腹が減った時用に間食としてカップラーメンにサラダ、メロンソーダーも完備している。
もちろん俺の主食はカップラーメンだ。それに加えてドレッシングたっぷりのサラダに、飲み物と言えば、決まって微炭酸のメロンソーダー。胃の中で糖質と甘味料がサタデーナイトフィーバー中だぜ。
ちなみに、今の食事状況を聞いた人なら真っ先に「デブ街道まっしぐらじゃねーか!」と、思う人も多かれ少なかれいるのではないだろうか。
心配しなくても俺はデブにまではなっていない。どちらかというと中肉中背の標準体型なんだ。
運動の方も、勉強の方も全部が全部、普通という言葉に等しいんじゃないかな。
そういうことで、何の面白みもない男なのだ 。
パソコンに焦点を合わせ、手慣れた様子でささっとパスコードを入力、その間一秒もかからない。
見事なまでにすご技だ。
まあ、逆に言えばパソコンばっか触ってるってことなんだけど。
最近ではいつもこんな感じだ。学校にも行かず、外にも出ず、言うならこの俺、樹美空は完全なる引きこもり野郎だ。
さて、俺が引きこもり野郎だと暴露したところでさっさとゲームを立ち上げようじゃないか。
ゲームといっても、もうかなりエンドローグに近づいてきているんだけど。
ちなみに俺はバトルゲーム(あの銃とかもって敵兵を倒していくやつ)とかポケ○モンゲームとかいう徐々にレベルを上げて強くなっていくやつ(レベル上げと仲間集めがめんどいから)とかも全くしない。
人から血が出てくるとか嫌だし、めんどくさいやつとかも、そういう感じのゲームはしないと心の底から決めている。
なら、何のゲームをするのかと気になるだろう。
そんなの残される選択肢と言ったらこれしかないじゃないか。
俺がいつも決まってやるゲーム、それは俺を心の底から癒してくれる尊い存在のもの。
ギャルゲだ
俺は俗に言うアニメオタクであり、ゲームオタクであり、まとめて言うならばこれは
二次元美少女オタクといったところだ
二次元の女の子はみんな可愛いし、尊いし、そんな子たちと恋愛ができるギャルゲというものはまさに神のゲームといっても過言ではない!
まさに引きこもりに与えられたもの、否モテぼっち高校生に献上されたしもの。それが、俺が思うギャルゲに対しての価値観だ。
とまあ、これで俺がギャルゲのことに対してどれだけ思っているかがよくわかっただろう。
ギャルゲを愛しギャルゲに愛された男こそこの俺、樹美空なのだ。
気持ち悪いとかいう言葉を言われたってかまわないし、自分の趣味をとやかく言われたってかまわないけれど、俺はギャルゲを愛している。ただそれだけなのだ。
さて、ようやくパソコンの方も準備は整ったようだ。俺の愛するギャルゲをしに行くことにしよう。
矢印を一つのファイルに合わせた。そのファイルだけがほかのソフトとはまた違う場所にあり、言うなら特別扱いをされているかのような様だった。
そんな様子であるファイルだが、もちろんそのようにある理由はギャルゲのソフトが故だ
こんな所からも律儀にギャルゲを愛す俺の気持ちがにじみあふれているとは。
そんなことを思っていると、「メモリアルガールズ~!」と、パソコンから少女の声が聞こえた。
「きたきた~」
たかが少女の声が聞こえただけだというのに俺は興奮を抑えきれなくなって、真っ暗な部屋の中に俺の声だけが響く。
メモリアルガールズ、それが俺の今やっているギャルゲのタイトルだ。
簡単に説明するとだな、元女子校の高校が、主人公が高校生へと進学する年に共学校に変わった。そして、そんな学校に男子生徒第一号として主人公が入学して女の子とイチャイチャするという話だ。
あくまで簡単に説明して、という内容なわけでもっと言いたいことはたくさんあるんだけど、早くゲームを始めたいからさっきの説明で勘弁してほしい。
ちなみに昨日、寝落ちしちゃったせいで昨日進めたストーリーはすべて消えてしまった。
昨日は結構いいところまで行ったのにまさかの寝落ち。ぼっちアンド不登校の俺がオールナイト前提で攻略に向かっていた女の子はもうとっくに振り出しい戻っていた。
セーブし忘れというのは俺の悪いところだ。てへぺろ☆
てへぺろ☆、とか言ってるけどアニメとかでよくあるかわいい系の男の子ではないんだよね、俺。言うなら、リア充爆発したまえ!とか言っちゃうようなひねくれたやつなんだよ。
ゲーム画面に向き直るとそこにはタイトルと一緒に制服を着た女の子たちが立ち並んでいた。
いわゆるタイトル画面ってやつだ。
そこにいる女の子たちは髪の毛の色はみんな違うし、身長も違うし、見た目からして個々の性格という名の雰囲気がにじみあふれていた。
つまり、このタイトル画面を一目見るだけで女の子のキャラがわかってくるのだ。
だから自分の好みのキャラクターを見つけやすく、これからのゲームを楽しく遊ぶことができやすくなっているのだ。
タイトル画面をクリック。かわいらしい効果音が聞こえたかと思うと少しのムービーが流れた。
少しのムービーとは、なぜ主人公が元女子校にいくことになったのかの経緯の部分だ。
これは毎回のように流れてくるから正直言って飽きているんだけど、いつもこの間にトイレに行ったりと時間を有効に使っているから、これといって腹が立つものではないな、このムービーは。
「誰と高校生活を過ごしたいのかな?」
そうやって画面の中にいる金髪の少女が問いかけてきた。大きな胸を少し揺らしながら。
この問いかけ、何回も聞いているから分かるけど、これは『どの女の子を攻略しますか?』と聞いているのだ
俺のような否モテぼっちゲーマーオタクというものはゲームだけでもリア充になりたいんだ。
ここでの選択によりこれから起こるストーリーも変わってくる。女の子が変わればそりゃそうなるわなって話なんだけど。
だがしかし、俺にある選択肢はたった一つしか存在しない。なぜならば、攻略対象の女の子はここに六人いる。が、俺はある一人を残しほかの女の子全てを攻略し終わっているからだ。
若葉さんも綾香ちゃんも香奈ちゃんも、すべての女の子はこの俺がすべて攻略した!
こんな言い回しをしているとなんか変態ぽくって誠に恐縮なんだけど、決してそんなやましい気持ちなど持っていないぞ。
純粋に彼女たちを愛し、愛された結果が今の俺の現状なんだから。
さて、今から最後の女の子を攻略しに向かうわけだけど、その子は俺一押しの女の子なのだ。
要するに俺が一番好みの女の子っていうことだ。
最後に攻略する美少女の名前は翌檜美晴
二次元の世界ではよくありがちなぼそぼそ系の女の子だ。
いつも教室では一人でいて、毎日放課後は家に帰らず本を読んでいる。性格に至ってはプライドが高いらしい。(どこぞのサイ○人の王子ほどではないと思うけど)
つまり、一人が好きな女の子って感じの子だ。
銀色の輝く髪の毛は腰ぐらいまでの長さで、顔も、もちろんめちゃくちゃ可愛い。よって一番俺好みの女の子だっていうことだ。
ならば、なぜ一番好みの女の子を最後に攻略しに向かうのかというと、俺は好きなものは最後まで残しておく主義だからだ。
ま、それのせいで、小学校四年生の運動会のお弁当を食べる時間の時に、お弁当に入っていた大好物のから揚げを最後に食べようと思っていたら『いらないんだったたら食べてあげる』ぐらいの軽いノリで食べられたときはすごくショックだったのを覚えている。
で、結局俺が言いたいのは、俺のような否モテぼっちゲームオタクというものはゲームだけでもリア充になりたい!ということだ。
今こそ始めるぜ、俺の青春ラブコメ!
と、言うことで今から翌檜美晴こと、美晴ちゃんを攻略しに行く。マウスを動かして美晴ちゃんをクリックした。
「・・・よろしくお願いします。」
画面越しに、か細い声で彼女からのあいさつが聞こえた
俺も心の中でよろしくとだけ言いながら、ストーリーを進めていくことにした。
ストーリーを進めると、翌檜美晴と教室で出会った。これが初めて彼女と会話をする瞬間であり、逆に言えばここでの会話で選択肢を間違えるとこれからのストーリー進行に支障をきたすことはもう目に見えていた
俺の卓越したギャルゲスキルがそう言っている。このスキルに一転の狂いは存在しないのだから
「えーと、翌檜さんだったっけ?いつも放課後は一人で本を読んでいるの?」
主人公である美空(主人公には自分の名前を付けるのが当たり前だろ?)がそう問いかけた。忘れ物を取りに行った教室にいた翌檜美晴に。
「・・・うん」
そっけない返事を返して彼女はまた自分の世界へと入っていく。まるで邪魔をするなとでも言っているかのように。
「あれ?その本って、俺も知っているやつだよ」
彼女の読んでいた本は自分が大好きな本だった。もう何回も読んでしまっているくらいに
ってな感じに同じ趣味を見つけた二人はこれから毎日のように放課後、教室に残っては本について語る日々が続いていくという展開になる。
少しベタな感じだけどそれがまたいい感じに味を出している。つまりここまでの話としては純粋に楽しいのだ。
さて、昨日セーブし忘れて寝落ちしてしまったということで、ここまでのストーリーの内容は知っている。だから、昨日やったところまでとにかく進めることにした。
まあ、そんなに時間もかからないと思うんだけど。
ニ十分後
さて、ようやく昨日進めたところまでいったのでここからのストーリーがどうなっていくのかとても楽しみになってきた。
話の内容としては美晴ちゃんと俺はそれなりに仲良くなってきたってところだ。
そして、日も暮れかかってきた学校の玄関を出たところで
「うわっ、もうこんなに暗くなってきてる。ついつい話がもりあがっちゃったからな(まあ、ほとんど翌檜さんは聞き手に徹していて一方的に話してる感が半端なかったんだけど)」
「あっ・・・ほんとだ」
続けて翌檜さんも同じことを言う
ここで選択肢発動だ。ギャルゲの醍醐味と言えば選択肢を自分で選び、それによって今後のストーリー内容が変わってくるというわくわく感にある
そしてそれにどっぷりはまってしまっているのが俺なんだ
まあ、とりあえず選択肢を見てみようか
選択肢一「もう外も暗いし送っていくよ」
選択肢二「それじゃあまた明日」
選択肢三「ほんとだ。もう真っ暗だね」
ふむ、なんとも簡単な選択肢だろうか。まず選択し二は論外だ。せっかくのイベントを放棄していることになる
選択肢三もオウム返しという会話のやり方だが、ここでの発言はあまり効果的じゃないだろう
よって、ここで選ぶべき選択肢は「もう外も暗いし送っていくよ」の、選択肢一だ!
「もう外も暗いし送っていくよ」
「・・・えっ。そんな、悪いよ」
翌檜さんは申しわけなさそうに言う。
「いいよ、いいよ。本のこともまたなんか話したいしさ」
そう言ってにかっと笑った。
このやり取りの様子を見る限りあの選択肢で正解だったっていうことだろう。やはり俺のギャルゲスキルは素晴らし限りだぜ!
「よしよし。幸先いいぞー」
このまま正解の選択肢をばんばんあてまくっていこう!・・・ん?
選択肢を正解して調子に乗り始めた俺に浮かんだのは、一つの疑問だった
疑問に思うものがゲーム画面に現れた。いつもなら気にならないもの、それはゲーム画面に映った二つの選択肢だった
「えっ、なにこれ」
さっき選んだはずの選択肢とはまた違う選択肢がそこにはあった。
なぜ疑問に思うのか、それはあまりにも次の選択肢が現れるのが早すぎたからだ。
いや、ただそれだけじゃない。それだけならば、まあそういうもんなのかな?って思えるけどそれだけじゃない
選択肢一 あなたは彼女を幸せにすることができますか?
選択肢二 あなたは彼女を殺すことができますか?
「どういう意味だよ、これ」
困惑という二文字で頭がいっぱいになる。この選択肢を見て、疑問に思わないやつはまずいないだろう。
ただ、選択肢一の内容はまだわかるけど、さすがに選択肢二の内容は意味が分からなさすぎる。「彼女を殺すことができますか?」だなんてこのギャルゲでは一切出てくる必要のない言葉だろう
だから疑問に思うのだ
「これはもしかして、バグとかじゃないよな」
バグならこれまで何回も経験してきた。これを見る限り、課金しまくったゲームがどうにもならなくなった時よりはだいぶましだろう
まあ、あの時はマジで泣きそうになったよ
ただ、バグというのは案外ストーリーを進めていったら何ともなくなるものなのだ。ここでは幸い操作もできるし、何ら支障をきたすほどのものでもないだろう
ここはあえて普通に答えてみることにしよう
「そんなの、俺の大好きなヒロインを殺せるわけがないだろ!幸せにしてあげる、そうするにきまってるじゃねぇか!」
そう高々と宣言して選択肢一をクリックした
なんか恥ずかしこと言っちゃったな
おそらくこれでバグは解消・・・されたのかな?
明るい光が俺に差し掛かる。暖かい体温が感じられる。四方八方から人のしゃべり声が聞こえてくる
・・・目の前を、馬車(ユニコーン?)が通り過ぎていく?
「ほへ?」
俺は目の前のいつもと違う光景に目を疑った。どう言ったらいいのか、わからなくなった。ただ、一つ言うなら
「あの・・・ここ、どこですか?」
あたりを見回してもそこには俺がさっきまで楽しくギャルゲをしていた部屋の面影は一つもなくて
なんか活気にあふれているここはどこなの?




